3-24-3 意外な兄の一面
3-24-3 意外な兄の一面 耳より近く感じたい3
「兄さんさっき、連絡は来るって言ってたけど、1回も会ったりしてないの?」
「ああ」
「どの位会ってないの?」
「年末からだから、半年以上会ってない」
片山は驚いた顔で言う。
「半年以上も会ってないの? 兄さんの方から連絡してあげなよ。
…ルリ姉、会えなくて淋しいと思うよ」
「何で?」
「何でって、あんなに兄さんの事大好きなのに。
兄さんだって、ルリ姉の事好きなんでしょ?」
大智は皿に箸を置き、俯き加減に言う。
「…、ルリは親戚で…たまたま成斗の事情を知って俺たちを助けてくれただけで…
人懐っこいのはアイツの性格だからで…、」
「兄さん…」
兄が背中を押して応援してくれたおかげで、片山は音波に告白する事が出来た。
その兄が、自分の恋には消極的なのを初めて知る。
意外な兄の一面を見た片山は、どう声を掛ければ良いのか悩む。
そんな弟の心境を察してか、話を切り上げたいのか大智は言う。
「肉が焦げちまう、さ、食おうぜ、」
大智は箸を持ち、肉を皿に取る。
「俺のことはいいんだよ。
それより成斗、お前のバンド、初ライブなのに客が凄くノッてたな」
話題を変えた兄に、片山は合わせる。
「うん、初めて演奏する曲ばかりなのに、反応が良くて嬉しかったよ」
「ノルマはいくつだったんだ?」
「20枚。でも竜が受け取ったのは40枚だった。
記念にチケット持っておきたくて、残り36枚。
どうせなら捌きたいってなって、ひとり9枚ずつ分けたんだ」
「ほぉ」
「俺と啓太で合わせて18枚挑戦することになってさ。
兄さんたちで4枚、音波と啓太の彼女で2枚、高校の軽音楽部の同級生で2枚、慎司さんが8枚追加で買ってくれて、最後に樹さんが2枚買ってくれたんだ」
大智は感心するように言う。
「へぇー、じゃあ全部捌けたのか、凄いな」
「うん」
大智は弟に訊く。
「他のメンバー2人は何枚売ったんだ?」
「竜はバンド歴があるから、9枚全部捌いたよ。
梓も高校・大学の知り合いに買ってもらったり、セッションやヘルプで参加したバンドに声掛けたりして捌いた」
「ほお、初めてで40も捌くなんて凄いじゃないか」
「俺と啓太の分は殆んど慎司さんのお陰だよ。
半分も買ってくれたんだから」
「他の3バンドは固定ファンがいたみたいだな」
「あー、そう。ギリギリまで楽屋に居たからステージは見てないんだ」
「樹さんがビデオ回してたから、もしかしたら全部のバンド観れるんじゃないか?」
片山は若干嬉しそうに言う。
「うん、そうだね、どんな感じに撮影してくれたか、観るのが楽しみだな」
「ああ」
今度は片山が兄に尋ねる。
「兄さんの方は? もう愛知遠征の準備は済んだの?」
「粗済ませたよ。ギターの弦も張り替えたし」
「兄さん、愛知までは何時間かかるの?」
「修が調べたら、高速を使って約4時間くらいだと。
休憩を挟みながら行くから、朝早く出る予定。
修が一人ずつ荷物と一緒に拾って行く事になってるんだ」
「そう、あーぁ、次の日が軽音祭じゃなかったら、俺付いてってサポートするのにな」
上を向いて残念そうに片山は言う。
大智は笑い、言う。
「ハハ、仕方ないさ。
お前はお前のバンドで精いっぱい楽しめばいいんだよ。
成斗たちのバンドの出番までには、東京に戻ってこれると思うよ。
成斗、また一昨年みたいに広いステージ楽しめよ」
「うん」
片山は頷く。
この後片山と兄の大智は焼き肉を食べながら、お互いのバンドの事や受験勉強の進捗等を話した。
腹一杯食べた後、食器等の洗い物を済ませた片山は、兄に言う。
「兄さん、それじゃあ俺、そろそろ帰るよ」
「ああ、後片付けまでしてくれて、ありがとうな」
「うん、残った肉は冷凍庫に入れてあるから、解凍して食べて」
「わかったよ」
兄弟はリビングを出て玄関に向かう。
「気をつけて帰れよ」
「うん」
片山は靴を履き玄関ドアを開け、廊下に出る。
「愛知遠征、頑張って。じゃあ、オヤスミ」
「おう、おやすみ」
片山はドアを閉め、エレベーターに向かう。
弟、成斗が帰った後、大智は満腹の腹を左手で撫でながら、リビングに戻る前に寝室のドアを開ける。
「成斗が居た頃と変わらないくらい、すっかり片付いちまった…
フッ、慎司がこの部屋見たら、また何か言いそうだなw」
大智は奇麗な部屋を見渡しながら、気持ちよくもあり困った感じもあるような曖昧な表情になる。
「愛知に行く前に、俺の方から連絡してみるかな…」
頭を掻きながら、大智はボソッと言う。
ーー
兄のマンションを出た後、電車に乗って家に帰る片山は、車内から外を見ながら考える。
(俺が言うのもなんだけど、兄さんモテそうなのに、高校でも彼女いなかったよな…
兄さんって、ルリ姉とは親戚の結婚式で会ったんだよな、
もしかしたら、その時から好きだったとしたら…
俺が中2の時だから…もう4年も経ってるじゃないか)
片山は吊り革をギュッと握り、険しい顔をする。
(ずっと俺の面倒を見ながらバイトもして、修さんたちとスタジオ入って…
俺が兄さんの時間を奪ったせいで、折角ルリ姉が東京に出てきたのに、会う回数もそんなに作らないなんて)
兄には幸せな恋をして欲しいと思う片山は、どうにかならないものだろうかと悩む。




