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9話

「ところで美食ハンターのやる調査って何をやるのだ? ハンター育成学校では迷宮ハンターや新天地ハンターのやる調査については勉強したが美食ハンターのやる調査については講義を受けてないので教えてもらってないのだ」


 王都を出発して五日目、森を抜けもうすぐ目的地である湖が見えてきたところでマジーナがそんな疑問をジャックに投げかける。


「お前……本気で言ってるのか?」


 今更になってそんな疑問を投げかけるマジーナにジャックは思わず怪訝そうにマジーナを見る。


「ん? 何かおかしなことを言ったのか?」


 一方のマジーナは悪びれる様子もなく不思議そうに首をかしげる。その様子を見てジャックはこめかみを押さえる。


「美食ハンターになるために勉強したんじゃないのか?」


「うむ。美食ハンターになるために食について勉強したが美食ハンターのことは全く知らないのだ」


「……おい」


 ジャックはなんだか頭痛がしてくる。


「そんなんでよく美食ハンターになろうなんて思ったな」


「……うぐっ! それは……」


 痛いとこを突かれて言葉に詰まるマジーナ。


 ジャックはそれを見て不審に思う。


「そーいえば結局何でお前は美食ハンターになろうと思ったんだ?」


「むっ! そ、そんなこと何だっていいのだ! それよりも質問に答えて欲しいのだ!」


 明らかに動揺を見せるマジーナにジャックはますます不審に思うが、マジーナの反応からこれ以上は問い詰めても答えないだろうと思い気持ちを切り替える。


「……まあいい。美食ハンターのやる調査の仕事はざっくり言えば現地に赴いてそこに住んでいる生き物や植物なんかの生態を調べて異常があるか調べるんだ」


「むー?」


 ジャックの説明を聞いてマジーナは頭から疑問符が見えそうなくらい意味がわからないといった表情を浮かべる。


「ったく何がわからないんだ?」


「んーっと、その生態を調べると言うのはどうやってやるのだ? というかそもそも異常があるかどうかなんてどうやったらわかるのだ?」


「そんなの生物を観察していたらわかる」


「ふーむ、観察してわかるものなのか?」


「生き物ってのは大抵が生活のリズムとか行動パターンが決まってるもんだ。だからそのリズムやパターンを観察していつもと違う変化があれば何か異常があるってことだ」


「観察してリズムやパターンを覚える……むむむ。それはつまり覚えるまで観察しないといけないのか?」


「ああ」


「むー、なんだか地味な作業なのだ」


 ジャックの素っ気ない返答を聞いたマジーナは不服そうにぼやく。


「なんかもっと迷宮を潜ったり伝説級の怪物と戦ったりするような冒険はないのか。観察なんて地味すぎるのだ」


「文句を言うな。新人に任されるような仕事なんてそんなもんだ。文句があるなら迷宮ハンターとか新天地ハンターにでもなるんだな。あそこなら新人でもそういった仕事を振られるからな」


 遠回しに美食ハンターをやめろと言うジャックにマジーナはムキになって反論する。


「嫌なのだ! わたしは美食ハンターがいいのだ!」


「……わかんねーな。どうしてそこまで美食ハンターにこだわる?」


 美食ハンターの仕事は地味で目立たないうえにキツイことが多い割に報酬が少ないから若い人間には人気がない。かといって美食ハンターになってやりたい目的があるわけじゃない。だからジャックとしてはマジーナがそこまで美食ハンターに固執する理由がわからなかった。


「むむむ……それは……」


「それは?」


「……いや、ダメなのだ! やっぱりまだ言えないのだ!」


 マジーナは顔を赤らめながらぶんぶんと首がもげるんじゃないかというぐらい横に振ると話題を逸らすために逆にジャックに質問し返す。


「そ、そういうジャックはどうして――」


 美食ハンターになったのだ、と聞こうとしたマジーナだったが数歩後ろに下がった時に足元にぶにゅりと何かを踏みつけた感触を感じて言葉を区切る。


「ん?」


 変に思って足元を見るとそこにいたのは全長九〇センチほどの緑の物体。ヒレやエラがあるから魚のように思えるが違う。上半身には腕の様なものが二本生えており下半身にはペンギンのような足が生えている。


 半魚人のサハギンだ。


「ギョギョギョ」


 マジーナの足に踏みつけられたサハギンは呻く様に鳴く。


「うわわ! す、すまないのだ」


 すぐに足をどけようとするマジーナだがサハギンに呼び止められる。


「待つギョ! もっと踏みつけるんだギョ! できれば蔑むように!」


「えっ?」


 サハギンの変態発言に困惑するマジーナ。しかしサハギンは気にせず要求を告げる。


「さぁ早く! えぐるようにグリグリとやるんだギョ! 出来るだけハードに!」


「き、きもいのだ」


 ドン引きするマジーナ。気持ち悪さで言えばタゴサックを上回るほどだ。だがそんなマジーナの心情とは裏腹にきもいと言われて興奮するサハギン。


「はぁはぁはぁ。いたいけな少女のその困惑した表情はたまらんギョ」


「ひっ!」


 マジーナはとりあえず身の危険を感じて急いで足をどかすとジャックに助けを求める。


「じゃ、ジャック! なんなんだこいつは」


「そいつはサハギン。ここらに生息する半魚人だ」


 ジャックは冷静に解説する。


「半魚人……」


「はぁはぁはぁ。まだギョ! いつ踏みつけてくれるギョ? ああ、でも踏まれるのを今か今かと待つのも中々癖になるプレイだギョ! これが噂の焦らしプレイなのかギョ!」


「おい」


 目を閉じ恍惚としているサハギンにジャックがマジーナの代わりに踏みつける。


「うギョ! なんだギョ! 野郎がサハギン族の次期族長であるタマオ様を気安く踏みつける――なっ!?」


 突然ジャックに踏みつけられてチンピラのように怒鳴りつけるサハギンのタマオだったがジャックの顔を見て態度が一変する。


「ギョギョギョ。これはこれはあなたはジャックさんじゃないかギョ。それならそうと早く言って欲しいギョ」


 さっと起き上がると手の平を返すようにあっさりと態度を一変させ媚びへつらうタマオ。その様子を見てマジーナがジャックに訊ねる。


「むむ? こいつはジャックの知り合いなのか?」


「知り合いってほどじゃないけどな。こいつらサハギン族がPTAに喧嘩をふっかけたときにちょっとな」


「PTA!」


 PTAと聞いて驚くマジーナ。


「PTAってあの健全な世界を作ることを目的とした宗教組織のことか。前にどっかの小国の国王がセクハラ発言をしたとかで国を滅ぼしたという恐ろしい連中ではないか」


「ああ、あいつらは不健全と見なしたものは国だろうと種族だろうと見境なく粛清する危険思想なやつらばかりだからな」


 と嫌そうに言うジャックの言葉にマジーナは思い出す。


「……むっ! そういえばサハギン族といえば少し前にPTAの連中のスカートをめくったとかで不健全と見なされて絶滅したのではなかったのか? なぜここにいるのだ?」


「それはジャックさんが救ってくれたおかげだギョ」


 マジーナの質問にジャックの代わりにタマオが答える。


「PTAに全滅させかけられたときにジャックさんが助けてくれてこの湖に身を隠すことで絶滅をまのがれたんだギョ」


「そうなのかジャック?」


「別に助けたわけじゃない。仕事だ」


 とめんどくさそうに答えるジャック。


「それよりもお前はあの湖から出て何をしている。誓約をたがえるつもりか?」


 そうなら命はないぞといわんばかりに言うジャックにタマオは平身平頭で答える。


「ち、違うギョ! 別にこの森に来た女の子にセクハラをして楽しんでなんかいないギョ! この近辺を警備中に大蛇サーペントに襲われて気絶してたんだギョ」


「大蛇だと? この辺りには大蛇なんて生息していないはずだが」


「知らないギョ。気が付いたらいたんだギョ。どっかから流れ着いたかもしれないギョ」


「……」


 ジャックはタマオの話を半信半疑に聞きなが思索する。


 ジャックの知る限り大蛇がここら近隣に生息しているなんて情報はない。大蛇は森や草原に砂漠、川の中だろうと環境に適合して生息できる生き物だが、一度適合した環境から移動することは滅多にない。何か移動してくるだけの理由があったのだろうか?


 などと考えるジャックだったがその思考は中断させられる。


「な、何者なのだ!」


 茂みをかき分けてやってくる音にマジーナが警戒するように音のした方を見やる。


 それと同時に茂みをかき分けて現れる全長五メートルを超える大蛇。


「シャー!」


「ちっ!」


 ジャックは舌打ちするとすぐに右手の親指の先を噛み切る。すると噛み切った先から血が流れ出てきた。


武器創造ブラッドクリエイト


 流れ出た血はジャックの意思に従い瞬く間に形を形成していき短剣の形となる。


「喰らえ!」


 ジャックは血で作りだした短剣を大蛇に向けて投擲する。


 投擲された短剣は大蛇の眉間に直撃するが、大蛇は後ろにのけぞっただけで仕留めることはできなかった。それどころか大蛇は自身を攻撃したジャックに怒りを露わにして襲い掛かろうとする。


「シャー!」


 差し迫る大蛇にジャックは動じることなく冷静に対処する。


「爆ぜろっ! 血液爆発ブラッドバースト!」


 とジャックが言うと大蛇の眉間に刺さった血の短剣が爆発して大蛇の頭部を吹き飛ばす。さすがに頭部を破壊されては生きていられず大蛇はドサリと地面に倒れ伏す。


「さすがジャックなのだ!」


「油断するな! 敵は一匹じゃない」


 大蛇を倒したことで手放しに喜ぶマジーナを叱責するジャック。


 そこにズルズルと地を這う音が聞こえてきた。それも一つではなく無数に。


「うへぇ。すごい数なのだ」


 姿はまだ見えないが音だけでも一〇、二〇匹どころではないその一〇倍以上はいると予想できる。


「どうするのだジャック? ここでやつらを全部倒すのか?」


「いや、数が多い。ここはいったん逃げるぞ」


「逃げるのか? しかしジャックのフォルスならあんなやつら束になっても楽勝なのではないか。ほら、赤獅子のバロンの時みたいに鏃でババーって一掃すれば」


「お前は俺を買い被り過ぎだ。俺のフォルスにも欠点はある」


「欠点?」


 マジーナはあれだけ強力なフォルスに欠点があるなんて予想だにしなかった。いったいその欠点とは何なのか気にはなったが続々と迫りくる大蛇を前に流暢に話をしている余裕はなかった。


「説明している時間はない。逃げるぞ」


「わかったのだ」


「あっ! 置いてかないでほしいギョ!」

ファンタジーによく出てくるサハギンですが、本作のサハギンのイメージは聖剣伝説に出てくるサハギンをイメージしています。

マイナーなのかなぜかネットで画像を検索しても出てきませんが。

もしイメージがわかないという方はチョコボランドに出てくるサハギンをイメージしてもらえると比較的わかりやすいかと思います。

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