十四
* * *
「昔――、たぶん戦時中くらいの話だと思うけど、信仰心の篤いキリシタンの男子生徒がいたんだって」
後日、十字架少年のいた桜の木の下に花束を置いてしゃがみこみ、手を合わせる与羽の隣で、辰海がそうつぶやいた。
「けど、あの時代はキリスト教への風あたりが強かったらしくてね。彼はいじめ――、いや、この表現は軽いかな……、迫害に近い扱いを受けたらしい。そのあとは――、まぁ、推して知るべし、だね」
「神様なら助けてくれる――。神様に助けを求めながら死んだんかな……? じゃけぇ、あんなに神様を捜しょうたんかな? あんなに――」
与羽は斜め上に片手を伸ばした。助けを求めるように。
隣に立っていた辰海は迷いなくその手を取って自分の胸に押し当てながら膝をついた。
「彼は救われた」
やさしい言葉をかけようとしていた辰海は、割り込んできた声にはっとして与羽の手を放して振り返った。
与羽もゆっくりとした動作で声のした方を見た。そこにいたのは月と日向。
「それなら、ええけど……」
与羽は花束に目を戻して、淡く笑みを浮かべた。
「――月ちゃんは不思議な子じゃな」
「陰陽師だから」
「普通なら、嘘じゃって思うけど、あんなの見せられたら、『そうだったんか』としか言えんな」
そして何がおかしいのか、与羽はクックッと笑いをかみ殺した。
「陰陽師って神社ってイメージがあるけど、キリスト教徒でもちゃんと対応できるんじゃな」
「会長さんがいなかったら、もっと苦戦してたかも」
「そうそう! 月ってば、あの日帰ったあと珍しく良くしゃべってたんだよー! 『会長さんには、陰陽師やエクソシストの才能があるかも』って! 『意識の混濁した霊とあそこまで会話できるなんてすごい』って! 延々と言うんだからねー!!」
日向が嬉しそうに身を乗り出して言う。
「ばらさないで」
月が日向の肩にやさしく触れて制止を促した。
まばたきがほんの少しだけ早くなり、白い顔にも若干の赤みが差したように見える。恥ずかしがっているのだろう。徐々にではあるが、月の表情が読めるようになってきた。




