買い出し②
光源に興味を持ちながらも町の中に入ってみると僕は意外な光景を目の当たりにした。
「ストック様何かご注文ですか?」
一人の鍛冶屋らしき男性の主人がストック様の姿を見つけると話しかけてくる。
「いいえ、今日は別の買い出しにね」
「そうですか、何かあれば仰ってください」
貴族の主人が買い出しに来ている事を不思議がった様子もないところを見ると、これが自然なのだろう。
たったそれだけのことだけど、高貴族やら貴族やらと何かと偉そうな存在にばかり鉢合わせていた分だけ、偉そうな存在のイメージは下級の存在とは接しないと勝手に決め込んでいた。
特に僕に対しての接し方でそう感じることが大きかったけど、そんなことを考えていると気付かれれば、何をされるか分からないので態度には微塵も見せない。そして影ながら努力をしている僕は行き場所に関して尋ねた。
「買い出しのお店ってどの建物ですか?」
別に鍛冶屋の主人を邪魔にした覚えはなかったのだけど、気を遣ったのか挨拶と会釈をして店内に引っ込んでしまった。
なんとなく申し訳ない気持ちを抱きそうになっていると、今度は向かいの飲み屋らしき店主の女性に声を掛けられ同じようなやり取りが始まっていた。そのタイミングに合わせて鍛冶屋の主人が引っ込んだだけかと、僕は安心しながら大人しく話が終わるのを待つことにした。
すると、どことなく飲み屋のママさんの雰囲気を持つ女性は、僕の存在を気にはしている様子が垣間見えた。でも、鍛冶屋の主人同様確信めいたことは一切尋ねてこない。きっと、見かけない顔に戸惑っているのだろうと思うのと、ストック様がいることで気にする必要はないと勝手に解釈できてしまうのだろう。だからこそ、ストック様が広げた話題が続いていた。
ただ、そうなると僕は手持無沙汰に陥った。
まるでスイスの田舎を想像させるレンガのような石材で造られた家屋は、異世界という括りで言えば身近に感じることはできるのだけど、めぼしいお店の見当がつけにくい。
「困ったな」
なにより、僕は何を買いだすのか聞いていないので、先に買い出しをすることはできそうにない。僕は結果的に取り残されてしまった。
急ぎの用でもないのだろうし待っているのは構わないのだけど、ただ待つだけというのは暇だった。
町の人が労働に励み、子供たちが走り遊んでいる普通の光景を見ながら、なにが暇つぶしになりそうなものを手当たり次第に僕は探し始める。
しかし、物珍しいものがあると思っての行動のつもりだったのだけど、特段僕の興味をそそるようなものは見つけられない。あっという間に暇つぶしの手段がないと知る僕が気付いたことは、この町での日常的な風景はもう少し早いタイミングで現れてほしかったということだけだった。
諦めてストック様を待とうと視界を戻す途中、
「ん?」
遊んでいた子供の一人と目が合った。すると、その少年の他にも一緒に遊んでいた男の子一人、女の子二人が近づいてくる。
ちょうどいい話し相手になりそうだと思ったが、ここで騒がれると僕が厳しい注意がされそうなので少しストック様から距離を離すために僕の方からも近づいていくことにした。
「こんにちは」
挨拶から入るのは子供相手でも必要なことだ。
「なぁ、こいつ誰だ?」
「ストック様のジュウシャじゃないかな?」
「ちがうよ、ストック様にはフロルス様とマル様しかいないもん」
「そ、そうだよね、二人だけだよね」
こんな扱われ方子供なら基本だよね……。
「キミたち、食材を買えるお店って知らないかな?」
僕は大人の対応で聞き出したい情報だけを手に入れ、関わらないことに決めた。
大人で考えれば答えは二つ、YESかNOのどちらかだ。
「しってるぜ」
そして教えてくれた短髪の少年の答えはYES。
だけど、子供の回答はそれだけでは終わらない。皆の言葉を代表するようにニヤッと笑う。
「僕たちと遊んで」
この時の僕には一番嬉しくない提案をしてくれた。
「いやー、お兄さん忙しい身で時間がないんだよ」
さてと、と思う。子供の事だ、大人の事情を理解してくれるなんて考えるだけ無駄だ。子供は子供、どんな世界でだって融通は利かない。
「何して遊ぼうか考えようぜ!」
見事に僕を無視して何をして遊ぶか皆で話し合いを始めている。その間に僕は密かに行動を取ろうとしていた。
逃げるのは簡単だ。でも、買い出しが続くのに逃げ回るわけにはいかない、今この時に解決しておくのが一番いい。それに暇だしね。
「そーだ、皆でかくれんぼをしよう」
あるアルバイトで子供たちの面倒を見る仕事を手伝ったことが役に立つ。かくれんぼ、これは非常に良い。だって、決められた範囲の中だけで動き回る子供を自分達の意思で動きを止めることができるのだ。
僕に与えられた時間はストック様の会話終了まで、悪いけど最悪放置もできる。
「さぁ、まず鬼を――」
ところが、
「なんだかくれんぼって」
少し太めの少年がかくれんぼの正体を知らないことを明かすとそれは連鎖的に起こる。
「しらね」
「私も知らなーい」
「し、知らなーい」
かくれんぼを知らないとは異世界を甘く見ていた。それなら説明を試みる――が。
「つまんなーい」
活発そうな女の子がそう言えば。
控えめな女の子も、
「う、うん」
賛同してしまった。
そんな女の子二人の乗り気のなさに男っていうものは、
「そ、そうだよな」
「お、おう、つまんなそうだ」
ちくしょう、こんな歳から女の子の反応を確認してから決めるんじゃない! 本当は知りたいくせに!
「的当てやろうぜ」
でも、すぐに出された提案で僕は安堵する。それに似た遊びを幼いころやったことがあるからだ。僕の時は適当な空き缶を並べそこに石ころをぶつけ命中率を競った遊び、それなら少し時間は掛かるが問題ない。
「にいちゃん名前は?」
「え? ああ隆文」
「変な名前だな」
「ほっとけ」
さっさと道具を見つけて終わらせてしまおう。辺りに空き缶のようなものを探すがあるわけがないので、目を動かし材木など適当な物を探す。
「おれはミラ」
「ぼくはサグだ」
「わたしはフィーラね」
「わ、わたしはケイ」
簡潔な自己紹介が終わったところで早速遊びに取り掛かろうと、
「ああ、よろしくね。じゃあ、その辺の木材で――」
「タカフミがマトな」
マト?
子供たちがその辺の石ころを拾い集めるのを眺めながら、何か不穏な気配に『的当て』成る遊びの正体を訊いてみた。
「的当てって誰かに石をぶつける遊びなのかな?」
「きまってんじゃん」
僕は凍り付いた表情を隠しきれずに、平然に答えた子供たちから後ずさりをした。抱え込むように拾い集めたいっぱいの石を持つ四人組は間違いなく的を狙っている。
そう僕を。
短髪の少年ミラが試し打ちに小さな石を僕の足元に投げる。
ビュン!!
地面に穴が開いた。
「殺す気かぁあああああああああああああああああ!」
「的が逃げたぞっ、おええええええええええええええっ!」
「「おう!」」
「お、おう……」
今までの従者っぽい行動を記憶から吹き飛ばし、僕は的当て成る『たんなるいじめ』から我も忘れて全力で逃げ出した。




