処刑
その場で処分されることはなかった僕は少女の敷居へと連れてこられた。今更驚くことを止めた僕だったが、この世界の住人は城に住まないと気が済まないのかと思わせられる建物だった。
最初の城よりも小さいまでも城と言えるスケールの建物だから、部屋はバカに広い。
「正座、空中、擦り剥け」
運び方はあくまでお尻が削られる運び方で、単語で今の状況を嘆く僕。
その前で台座に着座する少女との関係性は間違いなく、女王様と捕虜の関係だ。その関係の間で僕の両隣にはメイド服の女の子が二人逃げ道を塞いでいる。
「お嬢様、それで処分の方はいかがなさいます?」
口調は穏やかなのだが、内心危険がいっぱいの発言。口を挟めばその時を速めるだけだと口を閉ざしておくしかない。
「そうね、ひとまずあんたの情報を素直に全て話しなさい」
僕は口を閉ざすこと続けた。話せば処遇がすぐに決まってしまう。
「そう。話す気は無いようなのね。じゃあ、首を撥ねて」
「ちょっおおおとまったぁああ!」
なんて恐ろしい子だ。人の時間稼ぎを速攻で首を撥ねることに変換してしまうだなんて、もっとこう拷問で口を割らせるとかあるじゃないか。拷問なんて嫌だけど。
「話せ」
人の目論見に嵌る気は無いようで、簡潔に物事が進む。僕は話し始めるしかなくなった。もちろんできるだけ適当に話を伸ばす。そうでもしないと僕の命は簡単に無くなってしまうからだ。それと同時思うこともあった。
何を話すべきなのか、それによっては説得も不可能じゃない。
「マル嘘や時間を稼ぐようだったらよろしくね」
「…………すぐに撥ねる」
嘘、絶対ダメ!
しかし、困ったことになった。真実を全て話すことにしたものの、これから僕がする話が信じてもらえるか否か――おそらく無理だ。例え真実を話したところで嘘だと思われるのがオチ。それほど僕がこの世界に来たのは信じがたい。
どう説明しようかと真剣に考えて唸っていると、
「撥ねて」
「まてまてまてまて!」
なんて短気なんだ。まだ二分と時間は経っていない。
「言ったはずよ」
「別に時間を稼ごうとしたんじゃないですって、なんていうか信じてもらうためにどう話そうかと考えていただけで」
そんな言葉すらも信じてもらえなさそうな空気が漂う。こんな状況で説明何て無理だ。
すると、そこに助け舟が入る。
「…………こっちが質問すればいい」
「なるほどね。マルの言うとおりだわ。こちらが質問することに変えるわ。それに対して全て真実を話しなさい」
ただ答えればいいだけなら、大丈夫そうだ。あの説明をするよりは明らかに簡単――、
「あんたの種族は?」
難問にぶち当たった。
「しゅ、シュゾク?」
単語の意図が理解できそうにない。
「答えられないのね」
「ち、ちが、えーと人間を種族でって、えー動物じゃないんだから、いや厳密に言えば人間も動物だけど、えーと、ライオンが猫科みたいなことだろ。人間って人間じゃないのか、他に言い方? あ、そうか、ヒューマンとか?」
「は?」
その反応で分かるハズレた。こうなったら、訊くしかない。聞くは一瞬の恥聞かぬは一生の恥だ!
「シュゾクって言うのはどういうことでしょうか?」
知っている単語の解釈で適当に答えたものの、こっちの世界では意味が違うのかもしれない。そう思ったのだが、
「ふふ、種族を語れないなんてやっぱり賊なんですよー。お嬢様」
やんわり僕を貶めようとしている雰囲気だけは柔らかい女性。追い込まれ過ぎた僕だっていつまでも大人しくしていられない。反論だってできるんだ。
「じゃあ、そっちの種族はなんなのさ! あ、いや、なんでしょうか?」
睨まれたのですぐに態度を変える。だって怖い……。
が、怒りを買った反応はすぐに消え、どこか戸惑いというか、疑問が浮かぶような不思議な空気に変わった。
「フロルス、マルどう思う?」
「どうでしょうね?」
「…………嘘は言ってない」
マルと呼ばれているメイドさんの言葉は信用が高いようで、少ない言葉数でも二人が聞き入れると思案が始まる。その後、何かを探るように僕はじっと眺められた。
そして、
「あんたの事を話して」
「それはつまり?」
「勘違いしないで、とりあえず聞くだけよ」
それでもいい。信じる信じないかは別としても、聞いてもらえる状況に好転したのはうれしい限りだ。それにもし、信じてもらえたら……。
そう思いながら、丁寧にこの世界辿り着いたことを説明し始めた。この世界に辿り着いた事態は偶然、でもどの世界でも神隠しなんてものに遭えるならやっぱり好奇心がそうさせていたこと、そして実体験することになるとは思っていなかったこと、最後に僕が異世界人だということを。
説明が終わると、部屋には静かな虚言の空気が漂っていた。
それでも、マルと呼ばれていた子が「嘘」と言わない限り完全なクロにもならないからこそ、沈黙が続く。
刻々と時を刻んでいてもそれは終わりが唐突にやってきた。
「撥ねるべきか……」
それは最初から決まっていたように呟かれた。
やっぱりと思う。でも、少しは期待していた。侵入者としてか、はたまた種族がどうのとかの問題を差し引いても城に連れてこられた分、期待が生まれてしまったのだ。
でも期待を失ってしまえば、逃げることに意識を集中させる。『死』という自分の生きてきた世界では冗談にも似た言葉はこの世界では真剣に考えられる。二度目ともあってマジックのトリックはもう使えない。腕と身体、足と縛られて逃げようとしたら芋虫のような状態になるだろう。それでもどんなに惨めな格好になっても逃げなければいけない。
元の世界から消えたくて奇怪な環境に追いやられたものの、死ぬわけにはいかない。だから、願う。元の世界に帰らなければいけないと。
台座に座っていた少女が傍に置いていた剣を取る。
おそらく避けられるのは一回。迷いがあるように見える太刀筋は単純に横に振られるだけ、引き抜かれた瞬間両足で飛びのいて転がることで避ける。その後は這いつくばりながら移動。どうなるかは明白だ。
元の世界に戻れることに希望を賭ける。
「処刑の時間よ」
鞘と剣とがこすれ合う音が耳に届いた。
そして、僕の計画は無意味だということを教えられた。両脇からメイドさん二人が体を拘束し一歩たりとも動くことを禁じられる。
本当の意味で僕は消えてしまう。
それなのに妙に落ち着いていた僕は静かに目を瞑った。




