四話 カフェ店員に忍者みたいなメイドさんがいた件②
削除出来ない
この数日間に渡ってメイドさんは、時折僕と目を合わせては恥ずかしそうに、小さく辞儀をしては料理やドリンクをサーブする。
一日に数度程にそれも一瞬だけ見かけるが、どれだけ気配を探っても足音すらしないので、僕も時々忘れて仕舞うメイドさん。
因みにマーフィンさんは分かっていたが、どうも気配自体が無すぎて気づけないどころか、やはり時々忘れて仕舞うのだろうか。
そのメイドさんの事がどぉぉしても気になるので、仕事が終わって店を出る前に、マーフィンさんに聞いてみることにした。
給料への配慮があると見えて、メイドさんは雇い主のマーフィンさんにだけは挨拶して、メイドさんのまま店を出ているらしかった。
マーフィンさんは名前もはっきり覚えてなかったが、流石に猫人かパッフェだけは、名前と気配を覚えていたのは特筆したい。
ただし気にはなっても早すぎて目で追えないのか、分かっても直ぐに僕のところへ来て、ツマミついでに生成物をサーブするらしい。
「うん、アッチェが作ったのオイシィ」
大変有り難い申し出だとしても、それは完全手作りのマーフィンさんに云うべきか、少なくとも僕にはマーフィンさんの手作りは有り難い。
マーフィンさんはニコニコしながら、メイドさんに就ての話をする為に、履歴書をチェックして戻ってくるところだった。
遂にお名前が発表されるのかと、僕は大いに期待してはあの綺麗な照れ顔を思い出して、マーフィンさんのお声を勤聴した。
「思い出したの、あの子の名前……」
その甘えたくなるマーフィンさんのお口から、メイドさんの情報がヒラヒラと、キモチィ声で公開されるのが尚有り難い。
名前はフェラーティンというらしく、この時点で謎にして職業は忍者と、あの機動性や運動能力を裏付けている。
何でも忍者の末裔らしかったが、メイド成分はどこから来たのか、マーフィンさんはそこまで聞かなかったらしい。
マーフィンさんの甘優しい綺麗な声は聞きたくも、以前オンラインゲームでよく見かけた、メイドコスのプレイヤーを思い出した。
人間関係に疲れそうなパーティを組んでなくても、そのプレイヤーは然りげ無く回復魔法を撒いて行ったり、ボス戦に参加したりしていた。
僕は少しでも華をと思ってキャラメイクする結果、美少女を目指したくなって、作り込んでから始めてもボンビーで何も着せられなかった。
随分古い記憶が一時的に舞い戻ってきたが、もう退勤時間なので店に向かって、ステルスに頭を下げると二人でニコニコしていた。
僕は自宅に戻って酒を呑もうと、店を出てから足速く歩き始めたところで、また先程の記憶が薄らっては頭の中でグルグルしている。
正直何処の誰かも分からないし、特に何かある訳でも無いのに、あのゲーム風景が薄らっているのは判然としない。
ゲームでもそのプレイヤーはメイドの格好で、職業は忍者らしくアクロバットに、クナイを投げたり忍び刀で攻撃していた。
そもそもMMORPGをやっても、モンスターがちょっぴりグロくてアレなので、すぐ辞めたりしていても、似たようなプレイヤーが別のゲームにもいただろうか。
フェラーティンと少々独特にしても、何故かあのメイドさんを思い出せば、極まってあの似たようなプレイヤーを思い出す。
いつもの様にワインと食事を生成して、ロウソクの灯りに映えた肉と、赤黒く闇に染ったワインを眺めてはまた思い出した。
あのメイドさんはともかくとして、あのプレイヤーとは何かあっただろうか、何度試行錯誤しても判然としなかった。
甘酸っぱいフルーツソースや、クリーミーなソイソースに大根おろしの醤油ソース、どれをつけても脂の乗った肉に合っていた。
流石に洗剤やスポンジは売っていて、それで洗い流している合間に、化学繊維質の水が自然界に返されるのだろうと想像した。
また何時もの様にワインをつぎ直して、毎夜星が近い空を眺めているが、それでもメイドさんと謎プレイヤーが頭でグルグルしている。
ワインを一口毎に吟味しながらも、頭はグルグルしたままなのに、宵闇に無数の星光は目に刺さりそうなくらい、ヤケに眩しい割に何故か観ていられる。
明日は定休日かと思い出したら、あのメイドさんは休日にどうしているのか、ちょっぴりアブナイ人みたいな愚考が沸いて仕舞った。
僕個人としては謎が多すぎるばかりか、あれ程に"人への免疫が無い"なら、若しかしたら僕のように休まらないかも知れなかった。
いくら疲れやすくてもこの世界の神対応力には、何時だって頭が上がらないが、何時潰れてしまうか分からない恐怖も完全には消えない。
まあ、アレだけの性能を発揮できるくらいなら、僕のように潰れかけることもないだろうが、もし性質的な事情があるなら無理は出来ない。




