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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第68話 共存の代償

 世界は“共存”を選んだ。

 それは奇跡のような均衡であり、同時に――避けられない“代償”の始まりでもあった。


 森のカフェしっぽっぽは、相変わらず賑わっている。


 人と異世界の種族が同じ空間で笑い、語り、過ごす。

 それは数日前まで“異常”だった光景が、今では“当たり前”になっていた。


 トラは人の足元をすり抜け、チビは異世界の客に飛びつき、

 ジルは自然に接客をこなし、きなは変わらずソファで動かない。

 イチは高所から全体を見守り、ロンは入口で静かに佇んでいる。


 カウンターで、みどりがほっとしたように言う。


「……落ち着きましたね。」


「そうだな。」


「色々あったけど……」


「これで一安心、ですかね?」


 サトルはコーヒーを一口飲み、短く答えた。


「違う。」


「え?」


「ここからだ。」


「……やっぱり。」


 みどりが苦笑する。


「今度は何ですか。」


「代償だ。」


「……来ましたね。」


「共存には必ず代償がある。」


「それは……?」


 その時だった。


 店の奥で、突然――


「……っ!」


 一人の客がよろめいた。


 人間の男性だ。


「大丈夫ですか!?」


 みどりが駆け寄る。


「いや……なんか……」


「急に……重く……」


 同時に。


 別の場所で、森猫族(フォレストキャット)がふらついた。


「にゃ……?」


「体が……重いにゃ……」


 空気がざわつく。


 魔導士族(メイジ)が即座に反応する。


「……来たか。」


「何がですか!?」


「“負荷”だ。」


「負荷?」


「異なる存在が同じ空間にいることで、均衡に圧力がかかる。」


「それが個体に影響している。」


 みどりの顔が青ざめる。


「それって……」


「危険なんじゃ……」


「放置すればな。」


 サトルは静かに立ち上がる。


「だが対処できる。」


「本当ですか!?」


「できる。」


 サトルは店内を見渡す。


 人間も、異世界の種族も、わずかに不調を感じている。


「原因は“差”だ。」


「存在の性質の違い。」


「それを調整すればいい。」


「どうやって?」


 サトルは短く言う。


「慣らす。」


「……慣らす?」


「時間をかけて順応させる。」


「それだけ?」


「それだけだ。」


「シンプルすぎません!?」


「本質は単純だ。」


 魔導士族(メイジ)が頷く。


「確かに……」


「急激な融合が問題なら、段階的に適応させればいい。」


「だが、その間は負荷が続く。」


 みどりが不安そうに言う。


「それって……大丈夫なんですか?」


「大丈夫じゃないやつも出る。」


「え!?」


「だが、対処する。」


 サトルはカウンターの奥から、小さな箱を取り出す。


「これを使う。」


「また新商品ですか……」


「調整薬だ。」


「……万能すぎません?」


「違う。」


「一時的に負荷を軽減するだけだ。」


 サトルはそれを水に溶かし、客に渡す。


「飲め。」


「……はい。」


 男性が飲む。


 数秒後。


「……あれ?」


「楽になった……」


「ほんとですか!?」


「嘘は言わない。」


 森猫族(フォレストキャット)にも渡す。


「にゃ……」


「……軽いにゃ!」


「元気出たにゃ!」


 店内に安堵の空気が広がる。


「すごい……」


「でもこれ、ずっと必要なんですか?」


「最初だけだ。」


「順応すれば必要なくなる。」


「……ならよかった。」


 サトルは静かに言う。


「これが“代償”だ。」


「共存する以上、負担はゼロにならない。」


「だが乗り越えられる。」


 みどりはゆっくり頷く。


「……楽な道じゃないですね。」


「楽な道はない。」


「でも……」


「悪くないですね。」


 トラが「にゃ」と鳴く。

 チビが元気に走り回り、ジルは安心したように客に寄り添う。

 きなは変わらず動かず、イチは高所から見守る。

 ロンは入口で静かに立つ。


 店内には再び、穏やかな空気が戻ってきた。


 サトルはコーヒーを飲みながら呟く。


「これで終わりじゃない。」


「分かってます。」


「次は何ですか?」


「選別だ。」


「……また重そうなの来ましたね。」


「必要なことだ。」


「どういう意味ですか?」


 サトルは静かに答える。


「全員が共存できるわけじゃない。」


「……え?」


「適応できない者もいる。」


「その時どうするか。」


「それを決める。」


 みどりは言葉を失う。


「……それって。」


「難しい話になりますね。」


「最初から簡単じゃない。」


 世界は繋がった。


 だがそれは“終わり”ではない。


 むしろ――


 本当の意味での“選択”は、これからだった。


 小さな猫カフェは、今日も変わらず営業中。

 だがその裏では、世界の未来を左右する決断が静かに迫っている。


 共存の先にあるもの。


 それが希望か、それとも――


 まだ誰も知らない。


 ただ一つ確かなのは。


 森のカフェしっぽっぽは、

 その中心にあり続けるということだった。

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