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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第67話 選択の岐路

 均衡は保たれた。

 世界は繋がり、歪みは抑えられ、地球と異世界は同じ空間の中で穏やかに共存している。


 だが――それは“安定”であって、“完成”ではない。


 森のカフェしっぽっぽの店内は、今日も賑わっていた。


 スーツ姿の会社員が魔導士族(メイジ)と仕事の話をし、

 森猫族(フォレストキャット)が子供たちに囲まれて笑い、

 蜥蜴人族(リザードマン)がコーヒーを静かに飲んでいる。


 完全に“日常”になっていた。


 トラはその間をゆったり歩き、チビは相変わらず全員に絡んでいく。

 ジルは接客にも慣れ、きなは不動の癒しとして君臨。

 イチは高所から観察し、ロンは入口で堂々と客を迎えていた。


 カウンターで、みどりがぽつりと呟く。


「……平和ですね。」


「そうだな。」


「ここまで来ると、逆に怖いです。」


「何がだ。」


「何か起きそうで。」


「起きる。」


「やっぱり!!」


 サトルはコーヒーを一口飲み、静かに言う。


「問題は“選択”だ。」


「また来ましたね。」


「今回は何を選ぶんですか?」


「俺じゃない。」


「え?」


「世界だ。」


「……スケール大きすぎません?」


 その時。


 店の空気が、わずかに変わった。


 ざわり、と。


 全員が同時に気づく。


 魔導士族(メイジ)が立ち上がる。


「……来たか。」


「何がですか!?」


「分岐だ。」


「分岐?」


「世界が二つの方向に分かれようとしている。」


 みどりが青ざめる。


「ちょっと待ってください。」


「それってどういうことですか?」


 サトルが答える。


「融合した結果だ。」


「異なる価値観がぶつかる。」


「その結果、進む道が分かれる。」


「……つまり?」


「一つは“完全融合”。」


「もう一つは“再分離”。」


「え……」


「選ばなきゃいけないんですか?」


「そうだ。」


「どっちも無理なんですか?」


「無理だ。」


 店内の空気が重くなる。


 客たちも異変に気づき始める。


「何か起きてる?」


「空気が変だ……」


 蜥蜴人族(リザードマン)が低く言う。


「戦闘になるのか?」


「違う。」


「これは“選択”だ。」


 森猫族(フォレストキャット)が不安そうに呟く。


「混ざったままがいいにゃ……」


「でも……怖いにゃ……」


 魔導士族(メイジ)が静かに言う。


「完全融合すれば、新たな文明が生まれる。」


「だが制御は難しい。」


「再分離すれば安定は戻る。」


「だが今の関係は失われる。」


 みどりが震える声で言う。


「そんなの……」


「選べないですよ……」


 サトルは静かに言った。


「だからこそ選ぶ。」


「……誰が?」


「ここにいる全員だ。」


 店内の客たちを見る。


 人間も、異世界の種族も。


「この世界をどうするか。」


「決めるのはお前たちだ。」


 沈黙。


 そして――


 一人の会社員が口を開いた。


「俺は……このままがいい。」


「最初は怖かったけど……」


「今は、悪くないと思ってる。」


 蜥蜴人族(リザードマン)が頷く。


「俺もだ。」


「この方が面白い。」


 森猫族(フォレストキャット)が笑う。


「一緒がいいにゃ!」


「楽しいにゃ!」


 だが一方で――


「でも……怖いのも事実だ。」


「何が起きるか分からない。」


「元に戻した方が安全じゃないか?」


 意見が分かれる。


 空気が揺れる。


 世界そのものが、揺れていた。


 みどりがサトルを見る。


「……どうするんですか?」


「決めるのは俺じゃない。」


「でも!」


「お前も選べ。」


「……っ」


 みどりは目を閉じる。


 少しの沈黙。


 そして――


「……私は。」


「このままがいいです。」


「怖いけど。」


「でも、ここで出会ったものを失いたくない。」


 サトルは小さく頷く。


「それでいい。」


 空間が反応する。


 光が揺れる。


 人々の意思が、形になっていく。


 融合を望む声。

 安定を望む声。


 それらがぶつかり――


 やがて。


 一つの形に収束する。


 光が収まり、静寂が訪れる。


 そして――


 世界は、変わらなかった。


 だがどこか、前よりも“強く”繋がっている。


「……これは?」


「選ばれた。」


「何がですか?」


「“共存”だ。」


「完全融合でも、完全分離でもない。」


「バランスを保ったまま進む道。」


「そんなことできるんですか?」


「できた。」


 みどりは大きく息を吐く。


「……よかった……」


「これで終わりですか?」


 サトルは静かに言う。


「いや。」


「ここからが本番だ。」


「やっぱり!!」


 トラが「にゃ」と鳴き、チビが跳ねる。

 ジルは安心したように客に寄り添い、きなは変わらず動かない。

 イチは高所から見守り、ロンは入口で静かに立つ。


 サトルはコーヒーを飲みながら呟く。


「選択は終わった。」


「次は――」


「進むだけだ。」


 世界は一つになったわけではない。

 だが分かれたわけでもない。


 選ばれたのは、“共にある道”。


 小さな猫カフェから始まった物語は、

 ついに世界の在り方そのものを決めた。


 そして――


 その中心には、変わらずこの場所がある。


 森のカフェしっぽっぽ。


 そこは今日も変わらず営業中。


 ただしそこは――

 “世界が選んだ場所”となっていた。

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