ハンスとヒドラ
裏スキル封じだと?俺の裏スキルは、4つ。それをすべて封じられたということか?ということは、俺は、もう、これ以上強くなれない。そして、相手のスキルや裏スキルをコピーすることもできなくなる。本当に、裏スキル封じなど、そんなスキルはあるのだろうか?
そう思った俺は、自分の裏スキルを確認しようと、「裏スキル診断」を使おうとしたが、使えなくなっていた。それは、ヒドラが憑依しているハンスが、裏スキル封じという裏スキルを持っていたことの証明にもなった。
だが、まだ、絶望的な状況ではない。俺のレベルはそのままだし、これまで覚えてきたスキルは、問題なく使えそうだ。だが、問題なのは、スキルラーニングにより手に入れてきた裏スキルも使えなくなっている可能性が高いということ。これにより俺のステータスは、半減以下になってしまっている。
「クハハハハッ。裏スキルを封じられた気分はどうだ?貴様は、裏スキルのお陰で強くなれたのだろう。それが、これから強くなれる手段を失ったわけだ。」
「舐めるなよ。ヒドラ。裏スキルが使えなくても、俺のレベルはそのままだ。だから、お前を倒すことは可能なんだ。今度は、逃がしはしない!」
俺は、エクスカリバーを出現させ、次元斬の構えを取った。とにかく、エクスカリバーと次元斬を使えば、間違いなくヒドラは倒せる。もう、俺は十分な強さをもっている。これ以上、裏スキルに頼る必要はないんだ。
「くらえ!」
俺は、エクスカリバーを振り下ろす!次元斬による斬撃は、防御不可+防御力無視という特性を持っているから、当てたもの勝ちなんだ。
「フハハハッ。どうした?さっきまでの威力はないぞ。やはり、裏スキル封じが有効に働いたらしいな!その攻撃で我にダメージは与えられるらしいが、そんな貧相な攻撃力では、我を倒すことはできぬぞ。では、我も反撃させてもらおう。」
ヒドラはそう言うと、大きく息を吸い込んだ。これは、ブレス攻撃をする構え!これを喰らえば、ステータスが半減している俺では、ひとたまりもない。なんとかしなければ!
俺は、覚えているスキルの中から、友好的なスキルを探し出した。そして、防御アップのスキルを何度も重ねがけし、ヒドラの攻撃に備える。
だが、ヒドラが攻撃してくることはなかった。それどころか、ヒドラは、攻撃の姿勢をといていたのだ。どういうことだ。
「どういうつもりだ、ヒドラ!」
俺の問いに、ヒドラは、俺が予想もしていない答えを返してきた。
「誰がヒドラだ。貴様、俺のことを何度も何度も馬鹿にしやがって。俺様はハンス様だ。貴族である俺を、平民ごときのお前が馬鹿にするなど、許されるはずがない!」
「な、なんだと?お前、ヒドラに憑依されたはずじゃ?」
「ヒドラだと?」
ヒドラに憑依されたはずのハンスだったが、何故か、今、目の前にいるのは、ハンス本人だった。だが、ヒドラの気配は、間違いなくハンスの中にいるのだ。これはいったい、どういうことなのだろうか?
「ヒドラを知らないのか?伝説の7大怪物だ。それが、今、お前に憑依していたんだ。」
「俺に憑依していただと?」
「そうだ。実は、7大怪物の復活が近いらしい。それで、まずは、ヒドラが復活したんだ。7大怪物は、この世界で、もっとも欲深い者に憑依するらしいんだ。最初は、大臣ベネットに憑依していたんだが、俺が倒す寸前に、お前へと憑依を変えたらしいんだ。」
「ふーん。それで?お前は、ヒドラが憑依している俺を、どうするつもりなんだ?まさか、俺を殺そうとしているのか?」
「そ、それは。」
「無礼者めが!庶民風情が、貴族である俺をころすだと?俺は、いずれ、世界に名を連ねるほどの男だ。そんな俺を殺すだと?何を考えている。身分をわきまえるんだな!」
ハンスはそう言いながら、右腕を横に払った。次の瞬間、ハンスの前方に強いしょうげきはが発生する。その威力は凄まじく、周りの建物はほぼ全て崩壊してしまった。俺は、防御アップのスキルを重ね掛けしているお陰で、軽症ですんだ。アイザックは、俺の後ろにいたお陰で、衝撃波によるダメージを受けずにすんでいた。
「な、なんてこった。」
周りの様子を見て、アイザックが驚いていた。この威力は、まさに、ヒドラそのものだからだ。ということは、ハンスは、自我を保ちながら、ヒドラの力を使っている、ということになる。その驚愕の事実に、俺達は驚いていたのだが、それ以上に、ハンスのほうが驚いているようだった。
「な、なんだ、これは?」
「いいか、ハンス。もう一度言う。お前には、7大怪物のヒドラが憑依しているんだ。」
俺の言葉を聞いて無言になるハンス。暫く考え事をしているようだ。だが、意味が分からない。どうしてハンスは、自我を取り戻したのだろうか?とにかく、ハンスの動きに注意するしかない。俺は、エクスかリバーを出現させたまま、どんな状況にも対応出来るように、戦闘態勢だけは崩さないようにしていた。
しばらくすると、ハンスの表情が右半分だけ歪み出した。
『おのれえい。ここまで強欲な人間、みたことないわ。』
ハンスの口から出た言葉だが、何かおかしい。この言葉は、何故か、ハンスの唇が右半分だけ動いて出てきた言葉なのだ。
「誰だ貴様は。俺の身体に勝手に入ってきやがって!」
今度は、ハンスの左半分の唇が動いて言葉が出てきた。そんな、意味の分からない状況。呆気にとられていると、後ろにいた解説魂のアイザックが説明をしてきた。
「どうやら、ハンスの体を、ハンスとヒドラの2つの意識が取り合っているようだ。」
「意識を取り合う?」
「ああ、そうだ。ハンスの、途方もない自己中心的な考えの者の意識は、ヒドラの想像を越えていたんだろう。ヒドラは憑依したはいいが、ハンスの意識までをも乗っ取ることは、出来なかったんだろう。」
「なるほど。」
「それなら、ひょっとしたら、ヒドラとの戦闘は避けられるかもしれないな。」
「そうなのか?」
「ああ、ハンスが、ヒドラの魂を、ハンスの意識下に完全に閉じ込めてしまえば、ヒドラを封印したようになる。そうなれば、戦わずにすむだろう。」
「なるほど。」
アイザックの解説を聞いた俺は、戦闘態勢を解除した。上手くいけば、戦わずにすむからだ。ハンスの奴は気に入らないが、今回ばかりはハンスを応援しようと思う。
暫く、ハンスとヒドラの意識の取り合いは続いている。
『貴様のその欲深い意識、まさか、我が押さえ込まれるなど。』
「うるさい!俺は俺だ!それは変わらない!」
『くっ!こんな人間がいようとは!』
「どんなに強い怪物だろうが、俺の意識は俺だけの者だ!」
『くっ!これは堪らん。なら、貴様から出ていくとしよう。我が、こんな形で遅れをとろうとは』
「出ていくだと?そんな勝手は許さん!」
『なに?』
「さっきの素晴らしい力、あれを俺によこせ!出来ないのなら、ずっと俺の中にいるんだ!」
『な、なんだと?何をいっている?』
「悔しいが、お前の力は強大だ。俺の力なんかより。だが、お前の力を利用すれば、世界が俺の物になる可能性が高い!だから、お前の力をよこせ!」
ハンスの様子を見ていると、ハンスがとんでもないことを言い出していた。世界を手にする、とでも言わんばかりのその言葉は、まさしく、強欲そのものだった。それを機に、ヒドラの様子も変わっていく。
『フハハハッ。まさか、そんな人間がいようとは。我の力がほしいだと?どこまで強欲なんだ?いいだろう!お前に協力してやる。ついでに、もっといいことを教えてやろう!』
「もっといいこと?」
「ああ、我の力は、まだ不完全なのだ。我の力を完全にすることで、お前はさらに強くなることが出来るぞ!」
「ほう。それは、なんだ?」
『お前のその意識の強さを利用して、すべての7大怪物をこの身体に取り込むんだ!そうすれば、お前は完全になれる!』




