大臣ベネットと強欲のヒドラ
レオナルドを追うカイン達。
王城へ入った俺達は、俺を先頭にして、『強敵察知』の反応がする方向へと進んでいった。進む途中、王城内の廊下には、所々に気絶した兵士や職員が倒れていた。これも、間違いなくレオナルドの仕業だ。おそらくレオナルドは、自分が進む時に邪魔になる者達を、問答無用で気絶させていったのだと思う。ただ、兵士や職員が気絶している以外には、王城内に異常が見られないようだ。
『強敵察知』の反応がどんどん強くなっていく。そして俺達は、王城内の謁見の間へと到着した。
そこで俺達が目にしたのは、王の椅子に座っている大臣ベネットと、ベネットに対して剣先を向けているレオナルドだった。
「やい、ヒドラ!お前の思いどおりにはさせないぞ!」
レオナルドが、大臣ベネットに、意気揚々と話しかけていた。そんなレオナルドに対して、大臣ベネットは冷静な態度であった。
「なんだ。貴様は。いきなりやって来て、訳の分からないことを。警備の者はどうした?」
「しらばっくれるな。お前はヒドラだろう。今は口論している場合じゃない!」
興奮しているレオナルドとは対照的に、冷たい表情のまま王の椅子に座っている大臣ベネット。しばらく膠着状態が続いていた。
今の状況だと、何も進展しないだろう。
一見、無謀に思えたこれまでのレオナルドの行動だったが、今のところは何一つ被害が出ていない。大臣ベネットにいきなり斬りかかるようなこともしていない。その点は、少し安心した。
だが、大臣ベネットから、とてつもなく強い『強敵察知』の反応が出ている。ヒドラが憑依している人物は、大臣ベネットで間違いないようだ。だが、ここで問題がある。ヒドラが憑依したといっても、大臣ベネットにその自覚があるのかどうかだ。もしくは、ヒドラが憑依した時点で、精神もヒドラに乗っ取られてしまのか。
今のところは、この点については、まだ何も分かっていない。だからこそ、慎重に行動するべきだったのだが、レオナルドの暴走は、本当に勇み足すぎる。この状況に、アイザックも頭を抱えて溜め息をはいている。謁見の間にいる王城の貴族達も、俺達を変人を見ているかのような目線を俺達に送っている。
しばらくの膠着状態、沈黙状態が続いたが、その沈黙を破ったのは、大臣ベネットだった。
「みんな、この部屋から退室してくれ。この者達とは、我一人で十分だ。」
大臣ベネットからの指示を聞いた王城の貴族達は、相当驚いたような表情になり、大臣ベネットのことを心配しているように言い返した。
「い、いや、しかし、ベネット様を一人にするなど、あまりにも危険では……」
「大丈夫に決まっている。我を斬ろうとするならば、すでにそうしているに決まっている。だが、相手は剣を構えているだけ。問題ない。早く出ていくんだ。」
大臣ベネットの自信ありげな返事を受け、王城の貴族達は、謁見の間から全員出ていった。謁見の間の扉が締まり、少しして、大臣ベネットは俺達の方に顔を向けてきた。
「さて、お前達に聞きたい。どこまで知っているんだ?」
いきなりの大臣ベネットからの質問だった。どういう意味なんだ?何を知っているということなのだろうか?俺には、その質問の意味が全く分からなかった。俺達が大臣ベネットの質問に答えなれないでいると、大臣ベネットは、さらに質問をしてきた。
「お前達、特に、剣を構えているお前だ。我のことを、『ヒドラ』とか言っていたな。どうして、我が『ヒドラ』だと思ったのだ?どういう理由、いきさつで、我を『ヒドラ』だと?」
大臣ベネットの質問は、明らかに不自然なものだった。普通なら、「自分はヒドラではない」、と反論するのが先なはずなんだ。だが、大臣ベネットの質問は、なぜ自分がヒドラだと分かったのか、その理由を知りたがっているのだ。ということは、今の大臣ベネットは、間違いなくヒドラが憑依してしまっているということになるのだ。
「そんな質問、意味ない!お前はヒドラだ。俺達が成敗してくれる!」
大臣ベネットの質問に対して、レオナルドが挑発ともとれるような態度で言い返していた。ヤバイ、レオナルド。あまりにも興奮しており、状況を上手く飲みこめていない。相手は、俺の『強敵察知』に反応してしまう強さを持っているんだ。そんな相手に無策で挑むなど、自殺行為に等しいのに。
「ふう、お前達、そうまでして、我を『ヒドラ』だと決めつけているのだな。」
大臣ベネットがそう言うと、ゆっくりと王の椅子から立ち上がった。その動作を見て、一気に緊張感が高まる。俺とアイザックも、戦闘態勢に入った。
「ははは、待て待て。お前達、何をそんなに焦っている。いまは、我は、お前達をどうこうするつもりはない。我は、まだ、この体には慣れていないのだ。復活も、完全にできているわけではない。我は、完全に復活するまでまだ時間があるから、今は、この体の持ち主がやりたかったことを継続したいだけ。お前達の相手をしている暇はないんだよ。」
やはり、大臣ベネットは、ヒドラに憑依されており、その精神も、完全にヒドラに乗っ取られてしまったようだ。つまり、今目の前にいる相手は、大臣ベネットではない。七大怪物の強欲のヒドラなのだ。
「なあ、やりたかったこととは、一体なんなのだ?」
ここへきて、沈黙を保っていたアイザックが、いきなりヒドラに質問をした。
「ははは、お前、なかなか冷静な奴だな。いいだろう。教えてやる。この、ベネットという奴は、とんでもない強欲な奴でな。この世界を全て自分の物にしたいという、馬鹿みたいな欲の持ち主なんだ。そのために、まず、この国の本来の王を、暗殺したんだ。そして、この国の全権限を自分の物にし、自分の思いどおりに国を動かしていたんだよ。」
ヒドラの答えにより、この国の王の失踪の秘密が明らかになった。大臣ベネットは、あまりにも大きな欲望の持ち主だったのだ。だからこそ、ヒドラ標的になったのだろう。
「なるほどね。だが、むなしいな。そんな欲がありすぎたせいで、結局ベネットは、ヒドラに乗っ取られてしまったんだな。」
ヒドラの答えを聞いて、神官は哀れむような目で大臣ベネットの体を見ていた。
「もう、分かった。ヒドラめ。成敗してくれる。」
会話の途中で、全く空気の読めないレオナルドは、エクスカリバーを出現させ、次元斬をヒドラに向けて放った。オイオイオイ、レオナルド。せっかく、今は、争わないですむと思ったのに、何をしているんだよ。
ズバッ!!!!
次元斬の、防御不可、防御力無視という特性は強力なもので、ヒドラが憑依している大臣ベネットの体に、大きな切り込みが入った!そこから、かなりの出血だ。間違いなく、ダメージをあたえることができたみたいた。この次元斬は、かなり強力なスキルのようだ。この特性は、相手がどれだけ強くても、確実にダメージを与えることができる。七大怪物への対抗手段というのは本当のようだ。
「き、貴様!それは、次元斬だな!どこでそれを覚えたんだ?」
ヒドラはそう言うと、右手を上げ、後ろに大きく振りかぶった。
まずい!
俺は、そう直感し、急いでレオナルドの前に回り込み、防御の態勢を取った。
ブン!!!!
ヒドラが振りかぶった右手を大きく前に振り下ろすと、とてつもなく大きく強力な衝撃波が発生し、俺とレオナルドの方へ向かってきた。
ズドォォォォォォォン!!!!!!!
ぐおおおっ。すごい衝撃だ。衝撃波の威力は凄まじい。俺の体に装備していた鎧は砕けちり、身体中に傷ができ、そこらじゅうから出血。そして、俺の体は大きく後ろへのけぞり、レオナルドも巻き込んで吹き飛んでしまった。




