登録完了
冒険者として登録をしたカインだったのだが。
『薬師』となった俺。ようやく冒険者になることができた。
「それでは、あちらの階段を下りて、一階へお進みください。一階はクエスト関連のフロアでございます。クエストの依頼は、全てフロア内にある掲示板に紙で貼り出してあります。ですが、カイン様はまず、クエストを受注する前に、初登録者用の窓口に行ってください。
カイン様だからということではありません。初登録者は皆、初登録者用の窓口に行く決まりとなっていますので、よろしくお願いいたします。」
職員の案内通りに、俺は一階へ下りて、初登録者用の窓口に行くことにした。階段を下りて一階に着くと、俺の目に飛び込んで来たのは、かなりの数の冒険者の姿だった。物凄い活気にあふれていた。
先程の二階のフロアより、はるかに大きな空間。受付の職員もかなり多い人数だ。フロアには、いくつもの机があり、様々な冒険者達が打ち合わせをしている。おそらくクエストに向けてパーティーメンバーで話し合いをしているのだろう。
見渡すと、ここにいる冒険者達は皆、生き生きとした表情をしている。毎日が充実していのだろう。俺も早くレベルを2に上げて裏スキルを確認し、一人前の冒険者になれるような活躍をしたいものだ。
とにかく、今は職員に言われた初登録者用の窓口に行くとしよう。初登録者用の窓口は、受付カウンターの端にあった。
「今日、冒険者の登録をしたカインだ。」
「はい。まずは身分証を預かります。お願いいたします。」
窓口の職員に言われた通りに、俺は身分証を窓口の職員に渡した。窓口の職員は俺の身分証を機械で読み取り、パソコンのモニターを見た。すると、またしても、窓口の職員の表情が曇った。
「く、薬師ですか?」
窓口の職員がそう言うと、近くにいた冒険者達の耳にも入ったのだろう。周りがざわめきだした。どうしたというのだろうか?
「どうした?薬師だと、何かまずいのか?二階の登録所で推薦されたから選んだ職業なんだが。」
俺は周りがざわついたことが理解できずに、窓口の職員に質問をした。
「は、はい。薬師は戦闘向きの職業ではないので、最近は薬師になる冒険者は珍しいんです。本来、薬師は生産者ギルドで登録する人が多いんです。ですが、天然の薬草を外に採取しに行く場合、モンスターと戦闘になることもありえるので、本来は生産職である薬師は、生産者ギルドたみけでなく、冒険者ギルドでも就くことが出来るようになったのです。鍛冶職人も同じです。」
窓口の職員の丁寧な説明のおかげで理解できた。確かに、モンスターとの戦闘が主体になる冒険者だと、戦闘向きではない薬師になるのは珍しいということなのか。でも俺は、薬師になるしか方法がないんだ。
「カイン様。説明を続けてもよろしいですか?」
「ああ、頼むよ。」
「まずは身分証を身分証をお返しします。この窓口に来たことで、カイン様の身分証は、冒険者の身分証に変更されました。」
窓口の職員から身分証を受け取ると、確かに身分証の見た目が大きく変わっていた。今までは、名前くらいか記載されていなかった身分証だが、『ウルプス冒険者ギルド ランクH 薬師』という記載が増えている。
「身分証の説明からさせていただきます。冒険者の所属とランク、職業が記載されることとなります。それにより、カイン様の今の冒険者としてのランクが一目で分かるようになっています。
ランクですが、始まりは誰でもHからとなっています。依頼を規定数達成することで、ランクは上がっていきます。依頼数が規定数失敗しますと、ランクが下がることもありますのでご注意ください。
ランクはHから始まり、Aまで。特例として、国に認められればランクSになることも出来ます。」
窓口の職員が説明している最中も、周りはざわついており、俺のことを見る冒険者が多かった。俺を見てヒソヒソと話しているものもいる。そんなにも薬師になる冒険者は珍しいというのか。
「それでは、カイン様。あなたにお渡しするものがあります。これをお受け取りください。」
窓口の職員は、そう言うと、俺に一冊の本を渡してきた。本のタイトルは、『道具全般』と書かれている。本を受け取ると、窓口の職員は説明を続けた。
「この本は、カイン様が薬師として必要な情報がある程度記載されています。道具の種類に、生成方法、素材の種類等です。薬師の特性として、本の内容は一回読むだけで理解、記憶できるはずです。薬師とは、そういう職業なのです。」
窓口の職員の説明を聞いて、薬師は、なかなか悪くない職業だと思った。これから道具の生成をするために、どれだけの訓練をする時間が必要になるのか分からなかったから。まさか、本を読むだけで技術を取得できるとは。これは、いいスタートが出来たというべきだな。
「本来であれば、訓練場にて戦闘訓練をするはずなんですが、薬師と鍛冶職人は、戦闘訓練不要となっていますので、これで説明を終わりたいと思いますが、よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ。」
俺がそう返事をし、ようやく長い説明が終わったと思ったのだが、近くの冒険者が文句を言ってきた。
「おいおい、職員のねーちゃん。それはおかしいんじゃないのか?この前の鍛冶職人の新人は、戦闘訓練を受けていたじゃあないか?」
冒険者の文句を聞いて、俺も不思議に思った。戦闘訓練は不要だが、あくまでも不要と言うだけで、戦闘訓練を受けることはできるのではないだろうか?
いや、文句を言ってきたということは、戦闘訓練を受けるか受けないかの選択が出来るということだ。だが、なぜ俺には、選択をする機会を与えなかったのだろうか?
少し考えたが、理由は聞かなくても分かる。俺の成長素質がオール1だからだ。2階の登録所で、道具の生成だけでランクを上げると言ったことがデータとして入力されていたのだろう。そのデータを見て、この窓口の職員は俺には戦闘訓練の必要がないと判断したのだ。
何も答えない窓口の職員の態度にイライラしたのか、文句を言ってきた冒険者が近付いてきた。そして、その冒険者は窓口に詰め寄り、パソコンのモニターを覗き込んだ。
「いけません。他人の情報を勝手に見ては。」
窓口の職員がそう言って止めようとしたが、もう手遅れだった。文句を言ってきた冒険者の目には、しっかりと俺の情報が入ったのだろう。
「な、なんじゃこりゃあ?成長素質がオール1だと?」
文句を言ってきた冒険者がそう叫ぶと、一瞬だがフロアが静かになった。だが、次の瞬間、フロアにいるほとんどの冒険者が笑いだした。
「ギャーハッハ!なんじやそら、成長素質がオール1だって?そんな奴、聞いたことないぜ。」
「確かに。そんな奴が何で冒険者になろうとしたんだ?」
「そうだそうだ。薬師になるなら、生産者ギルドでいいじゃんか。」
周りの連中が騒いでいるなか、文句を言ってきた冒険者が俺の肩に手を置いて、こう言ってきた。
「なあ、お前さー。俺達冒険者はな。毎日モンスターと戦っているんだ。それこそ命がけでな。お前みたいな奴が冷やかしで登録していいもんじゃないんだ、冒険者というものは。あんまり、冒険者をなめるんじゃあねーぞ!」
そう言われて、はいそうですか、と認めるわけにはいかない。俺には目標があるんだ。俺は、文句を言ってきた冒険者の手を払いながら反論した。
「別になめてなんかいない。俺は真剣なんだ。」
「なんだと、ならお前も命をかけることが出来るのか?モンスターと戦えるのか?どうなんだ?」
「い、いや、それは。」
俺の反応を見て、文句を言ってきた冒険者はニヤリとした。
「ほうら、やっぱり出来ないんじゃねーか?だから言ったろう?冒険者をなめるんじゃねーよ。」
「そんなことはない。俺だって冒険者として依頼を達成出来るんだ!」
俺はムキになって言い返した。それて、クエストの掲示板に、俺が出来そうな依頼がないか探した。
だが、俺が出来そうな依頼など、あるはずがなかった。依頼のほとんどは、モンスターを倒すことで取得可能な素材の採取と、近隣のモンスター討伐だった。
天然の薬草の採取という依頼もあるが、都市の外に出る必要があるため、モンスターと遭遇する可能性がある。戦闘は命取りになる俺にとっては、薬草の採取すら命取りになるのだ。
「ほうら、やっぱり。何も出来ねーじゃねーか!馬鹿野郎が。」
「そうだそうだ!止めちまえ!」
周りの野次に耐えられなくなった俺は、この場から逃げ出してしまった。冒険者ギルドの外にでた俺は、落胆した。幸先のいいスタートを切れたと思ったのだが、まさか同業者である冒険者から、あそこまで馬鹿にされるとは。覚悟をしていたとはいえ、やはり辛い。
さあ、これからどうすればいいだろうか?依頼を受けられないなら、報酬を得ることができない。そうなれば、食べることも、泊まることもできないのだ。今は、村から持ってきた蓄えで何とかなるが長持ちはしない。
俺がそう悩んでいると、先程の窓口の職員が俺の方に向かって走ってきた。
「はあ、はあ、カイン様。お待ちください。先程は他の冒険者の方に情報を見られてしまい、申し訳ありませんでした。」
窓口の職員はそう言って、俺に対して深々と頭を下げてきた。なんとこの窓口の職員は、わざわざ謝るためだけに俺を追いかけてきたのだ。
「いや、あんたは悪くない。全ては、成長素質がオール1である俺が悪いんだ。」
俺はそう言って、この場を立ち去ろうとした。
「待ってください。」
窓口の職員は、俺の腕を掴んだきた。振り払おうとしたが、すごい力で振り払うことができない。いや、単に俺の腕力が弱いせいなのだろう。
「カイン様のことは、上の者から聞いています。特例で、道具生成の応援をしていこうということになりました。」
「どういうことだ?」
「はい。カイン様には、職員の独身寮に住み込みで働いてもらいます。そこで、我々が管理する薬草の畑の管理を手伝ってください。その時採取した薬草を使い、ポーションを作成すれば、危険をおかすことなく、道具の生成ができます。勿論、管理の手伝いの報酬も少ないですが払います。」
なんと有難い提案なのだろう。食べることと、住むことの2つの問題が解決したばかりか、危険のない道具生成までもが解決したのだ。このチャンスを逃す手はない。嬉しさのあまり、自然と涙が出てきた。
「あ、ありがとう。よろしくお願いいたします。」
俺はそう言って、窓口の職員に深々と頭を下げた。
「いやいや、頭を下げないでください。悪いのは私なんですから。」
窓口の職員はそう言って、首を何度も横に降った。
「では、寮に案内しますので、付いてきてくださいね。それと、私の名前はアリアといいます。これから、よろしくお願いいたします。」
そうして、俺は冒険者ギルドの独身寮に向かった。