アイザックの嫌な予感
順調にアナゴンダの捜索を進めていく3人。
休憩中、調達したエーテルにより、WPを全回復させたアイザックは、俺に質問をしてきた。
「なあ、カイン。エーテルの素材って、何か知っているか?」
薬師の俺にとって、アイザックの質問は、容易に答えることができた。
「『魔草』だ。天然の魔草は、川のほとりに生えていることが多いんだ。魔草が育つには、大量の水分が必要だからだ。」
「そうか。ちなみに、お前のところの畑で、魔草を栽培することは可能なのか?」
「うーん。あの畑では、水分が足りなさすぎるから、魔草は育たない。とても無理だ。」
「それなら、この街で手にいれた養殖物のエーテルは、どうやって作ったのだろうか?」
アイザックの疑問は、俺にとって、かなり興味深いものだった。魔草について、『道具全般』の本にも、養殖方法は記載されていなかったからだ。魔草の養殖方法が分かれば、これからはエーテルの調達も容易になるのだ。
俺のMPとWPは、20000を越えているため、枯渇する心配は全くないのだが、アイザックとレオナルドのMPとWPは、今回のようなモンスターの大群との戦いになると、常に枯渇する可能性があるのだ。毎回毎回エーテルの調達をするのは、なかなか骨が折れる。だから、魔草を栽培できるようになることは、かなり優先度が高い案件ということになる。
「なあ、アイザック。直ぐに出発する予定はないんだろ?それなら、この街の道具屋に行って、養殖物の魔草について、聞いてきてもいいか?」
「ああ、大丈夫だ。お前が道具屋に言っている間、アナゴンダが現れた場合に備えて、俺とレオナルドは船に残るよ。」
俺は直ぐに道具屋に行き、魔草の養殖方法を聞きに行った。この街の道具屋によると、養殖物のエーテルは、下流付近の街『ルンソド』から仕入れをしているということが分かった。『ルンソド』には、広大な魔草の養殖所があるらしい。だから、魔草の養殖方法については、『ルンソド』で調べないと分からないということだ。
それなら、アナゴンダの討伐の途中で『ルンソド』に寄り、魔草の養殖所を見学することにしよう。
俺は船に戻り、アイザックにその事を伝えた。想定よりも、アナゴンダの捜索が順調に進んでいるため、見学する時間は十分にある。だから、ゆっくり見学しても良いと、アイザックは言ってくれた。何故か、レオナルドも一緒に見学したいと張り切っていた。まあ、面倒な事はしないように釘をさしたから、しぶしぶ了承した。
今後の予定が決まったことと、十分な休息が取れたため、アナゴンダの捜索を再開しようと思ったのだが、大分日が傾いていることに気付いた俺達は、そのまま宿をとることにした。やはり、大河川フルーメンは広大だ。もともと、期限は1ヶ月もあるんだ。流石に1日では達成出来なかったか。だが、この船と、レオナルドの『強敵察知』のお陰で、非常に効率良く捜索が進んでいる。この調子なら、明日にでも依頼達成できそうだ。
寝る前に、自分自身の鑑定をしたところ、俺のレベルは15000。予想よりも、たいしてレベルが上がっていなかった。どうも、俺の裏スキル『モンスター撃破時取得経験値100万倍』は、俺が直接モンスターを討伐しないと効果がないようだ。今日俺達が倒したアナゴンダは約100匹ぐらいなのだが、俺が直接倒したアナゴンダは、その3分の2ぐらい。残りの3分の1はアイザック、レオナルドは1匹。
まあ、今のところは、俺のレベルを急いで上げる必要はないから、俺が無理に直接アナゴンダを倒さずに、一番レベルが低いアイザックが出来るだけ多くアナゴンダを倒した方がいいだろう。この依頼を達成する頃には、アイザックのレベルも50ぐらいまでには上がっているだろう。
一夜明け、俺達はアナゴンダの捜索を再開。下流へ向けて出発した。
「お二人とも、アナゴンダの反応あり。今までで一番数が多いです。あまりにも多すぎて、どれだけいるか分かりません。」
出発して直ぐに、レオナルドの報告があった。いくら広大なフルーメンとはいえ、これだけの数のアナゴンダがいるのは、明らかに異常だ。アナゴンダが成熟するのには数年かかるのだ。なぜ、こんないきなり大量に発生するのだろうか?
「ひょっとしたら、今まで倒してきたアナゴンダは、子供なのかも。」
ふと、アイザックが意外なことを言ってきた。
「アイザック。どういう事だ?今まで倒してきたアナゴンダは、だいたい全長20メートルぐらいあったぞ。十分な大きさじゃないのか?」
「まあ、普通ならそうだが、これだけいきなり大量発生するのは、明らかに不自然だからな。今は、丁度アナゴンダの出産時期だ。なんか、嫌な予感がするな。」
「出産?アナゴンダは、卵を産むんじゃないのか?」
「ああ、アナゴンダは、体内で卵を孵化させてから出産するらしい。なあ、カイン。考えてみろ。今まで倒してきたアナゴンダ。ただ暴れているだけだ。あまりにも知性が無さすぎると思わなかったか?」
解説専門家のアイザックは、モンスターの生態についても詳しいらしいな。それにしても、思い出すと確かに今までのアナゴンダは、確かに暴れているだけだった。大群で襲ってきた時も、全く統率が取れていなかったからな。
「アイザックの言う通りだ。統率が取れた大群なら、一気にすべてのアナゴンダを倒すことなんて無理だったはずだ。普通なら何匹かは逃げてもおかしくなかった。ということは、あのアナゴンダは、産まれたばかり?」
「カインの予想通りだと思う。だから、嫌な予感がするんだ。あれほどの大きさのアナゴンダを大量に出産できるなら、一体どれぐらいの大きさなんだろうかと。」
俺達の会話を聞いていたレオナルドは驚愕していた。
「そんな馬鹿な。もし、そんなアナゴンダがいたなら、俺では絶対に倒すことなんて出来ません。どうしますか?我々3人だけで、この依頼達成は無理なんじゃないですか?」
レオナルドは、急に弱気になっていた。昨日までのレオナルドとは、まるで別人のようだ。そうこうしているうちに、アナゴンダの大群が目の前まで来ていた。
「うわあああっ!」
レオナルドは完全にびびっていた。俺達の話を聞いて、アナゴンダに対して恐怖を覚えてしまったのだろう。
だが、アイザックは全く怯まなかった。アイザックは、昨日の討伐によりレベルが上がったことで、すでに一撃でアナゴンダを倒すことが出来ている。しかも、一度に10本の矢を同時に放っていた。瞬く間に、アナゴンダの大群は全滅した。
「カイン。どうだ?昨日レベルが上がったことにより、『矢複数同時発射』というスキルを取得したんだ。当然、『真空の矢』と『ホーミング』も同時発動している。『イエーガー』という職業は、上級職の中でもトップクラスの強さとは聞いていたが、いやはや自分でも驚くほどに、俺は強くなっているな。」
解説愛のアイザックは、ついに自分自身まても解説し始めた。だが、確かに『イエーガー』という上級職が取得するスキルは有能すぎる。『ホーミング』と『真空の矢』だけでも強力なのに、『矢複数同時発射』までも使えるようになるとは。さらには、『矢形成』があるから、どれだけ矢を放っても、矢がなくなる心配がない。アイザックは、上級職の中でトップクラスの強さとは言っていたが、最強なんじゃないのか?
その強さは、『全能力値2倍』を持っている『魔法戦士』レオナルドよりも、遥かに凌駕しているように感じた。
あれだけのアナゴンダの大群を瞬く間に全滅させたアイザックを見たレオナルドは、さらに動揺していた。もはや、その姿、『最強』の称号を得たはずの冒険者とは思えなかった。
「なあ、レオナルド。俺の言っていたことは、あくまでも予想だ。まだ、びびるには速いんじゃないか?本来なら、お前もアナゴンダぐらいなら、一撃で倒せるんだ。」
アイザックは、何とかしてレオナルドを立ち直らせようとしていた。大河川フルーメンの捜索はまだ終わっていないんだ。アナゴンダの捜索には、どうしてもレオナルドの『強敵察知』が必要だからだ。
「でも、アイザック大師匠が言っていた予想が本当なら、どうやっても敵わないのでは?」
うーん。どうやら、レオナルドは完全に戦意喪失しているな。まあ、そう思うのも仕方ないか。レオナルドには、俺の裏スキルは教えてはあるが、今の俺のレベルがどれくらいあるかまでは教えていない。俺の今のステータスを知れば、安心するんではないだろうか。
「なあ、レオナルド。アイザックの予想が本当だとしても、俺達は討伐するしかないんだ。そうだろう?このまま逃げて帰るつもりなのか?そうであれば、アナゴンダは、際限なく増え続けてしまうぞ。だから、出来るだけ早く討伐する必要があるんだ。
しっかりするんだ。レオナルド!冒険者とは、街の人達に希望を与えるんじゃないのか?」
俺の叱咤を聞いても、レオナルドは立ち直れずにいた。
「どうして、お二人は、そんなに冷静でいられるんですか
?今までのアナゴンダでさえ、Bランクのモンスターなんですよ。赤ん坊でさえ、Bランク。それなら、親はどれぐらいの強さになるか、想像すら出来ないんですよ。」
立ち直れないレオナルドには、もはや俺の今のステータスを教えるしかなかった。教える前に、アイザックの方を見て確認しようとしたところ、アイザックは全てお見通しなのか、無言で頷いてきた。これは、レオナルドに俺のステータスを言ってもいいというサインだ。
「レオナルド。落ち着いて聞くんだ。前に、俺の裏スキルについて教えたよな。覚えているか?」
「はい、カイン殿。確か、『スキルラーニング』、『レベル上限なし』、『モンスター撃破時取得経験値100万倍』でしたよね。カイン殿は、見るだけでスキルを取得できるから、とてもお強いのだと印象を受けました。」
「レオナルド。違うよ。俺の強さの根元は、スキルラーニングなんて二の次だ。いいか?『レベル上限なし』と、『モンスター撃破時取得経験値100万倍』を、冷静に考えるんだ。
俺とアイザックは、この依頼の前に、ワイルドボアの大群を討伐したんだ。数百匹はいたかな。その経験値の100万倍。つまり、ワイルドボア数億匹の経験値を、レベルの上限がない俺が取得したんだ。
レオナルド。一般の常識である、レベル上限100という考えは捨てて考えてみろ。」
俺の説明を聞いて、レオナルドは感づいてくれたようだ。
「えっ。ということは、カイン殿。あなたの強さは、まさか、俺の想像を遥かに越えているというのですか?」
「ああ、そうだ。今の俺のレベルは15000ある。腕力に至っては60000を越えているんだ。」
俺のステータスを聞いたレオナルドは、急に飛び上がり、身体を下流に向けて右拳を前に突き出した。
「ハーハッハッハ!待ってろよアナゴンダ!我々が直々に成敗してくれるわ!」
レオナルドは、完全復活したようだ。しかし、なんて単純なんだ。やっぱり、馬鹿なのか。




