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【第23話】すれ違う二人(セレナ視点)

武術大会の熱気が嘘のように、

夜の王城は静かだった。


(……まさか、王城に泊まることになるなんて)


大会の観覧席が貴族で混み合うため、

王族の招待客はそのまま城に宿泊する——

そう告げられたのは今朝のことだった。


案内された客室は広く、

天蓋付きのベッドに、窓からは庭園の月が見える。


けれど、胸のざわつきは消えなかった。


(……レオス様)


今日の試合は、今までで一番美しかった。

左手を怪我していたのに、

それでも強くて、綺麗で。


推し活手帳を開く。

今日のページには震える字でこう書いてあった。


左手、血

 でも強かった

 すごく綺麗だった


(……明日、大丈夫かしら)


心配で胸が苦しい。


そのとき——

扉がノックされた。


「セレナ嬢、少しよろしいですか?」


ヘリオス殿下の声だった。


(え……殿下が……?)


王城に泊まっているからこそ起こり得る出来事。

胸が跳ねる。


「は、はい……!」


扉を開けると、

殿下はいつもの柔らかな笑顔を浮かべていた。


「今日の試合、楽しめましたか?」


「……はい。とても」


言った瞬間、胸が痛んだ。

殿下に嘘をついたような気がして。


(わたくしが見ていたのは……殿下ではなく、レオス様)


そんなこと、言えるはずがない。


殿下は少しだけ目を伏せた。


「……よかった。

 明日も、きっと素晴らしい試合になります」


その声が、どこか寂しげに聞こえた。


(どうして……そんな顔をなさるの)


聞きたかった。

でも聞けなかった。


「おやすみなさい、セレナ嬢」


殿下は軽く頭を下げ、静かに去っていった。


扉が閉まった瞬間、

胸がぎゅっと締めつけられた。


(……どうして、こんなに苦しいの)


レオス様のことを考えると胸が熱くなる。

でも殿下のことを思うと、胸が痛む。


(わたくし……どうしたらいいの)


答えは出ないまま、

王城の夜は深まっていった。

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