急襲と戦士への手向け~聖女奪還作戦③~
あとちょっとなんだ…!
「帝国B級戦闘部隊所属、作戦級序列七位ヴェルディエ=アルフレッド。」
「同じく帝国B級戦闘部隊所属、作戦級序列十二位クロード=ディルミニア。」
「機国特殊部隊『先遣隊』所属、作戦級序列十位アルカ=メリード。」
「相対するは世界に復讐を誓う者、暗黒勇者リベリオス。」
「世界に覇を唱える者、そして勇者の隣に居る者。暗黒魔王ヴィルサーク。」
「「「「「いざ尋常に、勝負!」」」」」
死を迎えるであろう者たちに、最後の手向けを。これがこの世界の作法だった。
今、一つ目の伝説が幕を開ける。
「『武装Ⅰ解放』」
先手を打ったのはアルカ。第Ⅰ武装『強襲=狙撃銃α』を展開し、三連射。光速の弾丸がヴィルを襲う。
「流石に遅いな?」
しかし魔王に光は力不足だ、と言わんばかりに避けもせずに距離を詰める。魔王が最も得意とする闇魔術を展開し、それを特殊職業『暗黒魔王』の力で過剰化すると、飛んでいた弾丸は音も立てずに消え去り、異次元へと収納される。
過剰化というのは、本来想定されている魔力量以上の魔力を消費して発動する魔術のことだ。適正のアル物以外がやればただその魔術が暴発して爆散するだけだが、魔王の力がそれを可能にする。
「過剰化か!!『第Ⅶ武装解放』!」
第Ⅶ武装は対魔力武装『大いなる大蛇の英霊』。魔力を消滅させるための武装で、使用には作戦級クラスの膂力が必要である。しかし一度発動すればどんな魔力も完全に霧散させるという代物だ。
「対魔力武装か、避けても良いけど…うん、丁度いいや。」
「これ使うと肩こり酷いんだ…だがてめぇ、何余裕ぶっこいてやがる?」
怪訝な顔で魔王を見るアルカ。それを一瞥して魔王は言い放った。
「残り二人は任せたよ、リベリオス。私は少し格の違いでも見せてみるとするよ。」
はぁ?というリベリオスの声と共に、アルカの額に青筋が浮かんだ。
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「一騎打ちの邪魔はしないんだね。騎士道精神、ってところかな?」
「帝国は彼の東の地方と仲が良いからな。ぶしどーせいしんだったか?」
「あ、知っているよ。日昇国だろう?」
確か刀を扱う人間が多い国だっけ。あそこには僕たちの同類はいるのかな?
「さて、お望みの通りやるか~?お前らは抹殺指令もでてるし、ガキを殺すのは趣味じゃねぇがやるしかねぇんだよなぁ…お前らうちの国の下につく気はねぇんだよな~?」
「戻る?帝国に?」
「「!?」」
周囲が一瞬、音を止める。否、全ての生命がたった一人の少年に気圧されていた。自身が地雷を踏み抜いたことに気づき、今更ながらにヴェルディエは恐怖を感じていた。交渉は決裂、戦うしかないのだと腹をくくる。それと同時に気づく。彼らも一度だけ見たことのある、生命の躍動を勇者から感じる事に。
「あんな所にはもう二度と戻りたくないね、うん。」
「すまねぇな、さっきのは野暮だった。だが、交渉は決裂だな。」
どくん、どくんと心臓がはねる。自分の内から力が湧き出てくるのを感じる。ただ、自分自身が昇華されるというよりは、新たな力がこの身に宿るといったほうがしっくりくる。
「優しき勇者は、確かに今はいらないかな。」
「なんのつもりだ?もう始めて良いなら始め…」
「ひとまず君は退場してもらおう。『異人格』」
明らかに異質な気配を纏った彼に注目するヴェルディエは、その違和感には気づけない。しかし、彼女は九死に一生を得ることになる。クロードは全てを見ていた。顔に漆黒の仮面が形作られると共に、苦悶の表情を浮かべていた彼の顔が一転笑顔に変り、残像を残して飛び上がったところを。
「ヴェル!今すぐにそこから離れろ!」
「ッ!?」
その瞬間。
「『墜天の剣』」
ヴェルディエがつい先ほどまで居た場所は、割れていた。
「勇者職業の覚醒、か。第一でこれとか…化け物だな。」
「冷静に分析してる場合かよ?まるで地割れ、ってわけでもねぇみてえだな。」
彼の天を墜ちた一太刀は、音のように振動として地面を伝わり、局所的な地震を引き起こしたのである。詰まり何が言いたいのかというと、これは本物の地割れであるということだ。もし常人が食らっていれば体などたたき切られ、さらにその振動によって生まれた熱によって断面が焼かれ、再生にも想像を絶する苦しみと痛みを伴うだろう。普段の彼ならその残酷さから生物に使うのはためらってしまう技。しかし、
「のんきだな、お前ら。温すぎる。かかしにもなりやしねぇよ?」
人格を変えた今ならば、暗黒勇者という生物の惨殺に特化した職業は真価を発揮する。
勇者は戦略級への第一歩を踏み出した。そしてそれと同時に、あの残酷な運命は定まった。しかし今の彼には知る由もなく、そして本来の彼の意識も、またなかった。
一方その頃、完全に敵を舐めきっている魔王は ―――― ―?
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「そ、んな…」
「お?リベリオスがやっと覚醒したか。あの事件の日にはもうしてるものだと思っていたが…やはりあれは違うらしいな。私も気を抜いてはいられない。」
「機国の英知の結晶が、こうも簡単に…」
彼女の最高の一撃は、太古を生きる伝説の霊龍種ですら葬り去るその一撃は、少女の編み出した魔術によって容易に防がれてしまった。そう、能力ですらない、魔力によって作り出される魔術によって。
「後は私も彼の観戦に回るとするかな。興も乗った、見せてやろう。私の覚醒をな。」
そんな言葉を聞いても、彼女は何も言うことはない。放心状態と言うべきか、度重なるショックの影響で彼女は心神喪失の状態であった。
しかし、魔王にとってそんなことなど意に介する必要もなかった。
「『我は帝王なり』」
誰も、彼女らの邪魔をする者はなかった。
覚醒。
それは、世界の意志。
異人格。
それは、世界の残滓。
世界の体現者。
誰に侵されることもない、神聖なる領域である。




