22話:冒険の終わりに
前回のあらすじ。
結局ウィリアムはまだ美少女のまま。
「それじゃあ、お疲れさん」
「「「お疲れさまでしたー」」」
ウィリアムが掲げたグラスに他の3人も手に持ったグラスやカップをぶつけた。
古代遺跡攻略から10日後、ウィリアムの休業している酒場で祝賀会が開かれていた。
移動やトーマスたちの身柄引き渡しからの事情聴取などに時間を食われ、大分遅れてしまったが開催された。
「で、顛末は?」
酒を流し込みながら、ウィリアムは事後処理をすべて任せていたパトリシアに尋ねた。
「トーマスのパーティは全員奴隷送りだ。
騎士団が彼らの証言をもとに古代遺跡の上層にある隠し部屋を調べたところ犠牲になった冒険者の装備品などが発見された。ギルド側も蓄えていた資産と情報換金で得た報酬に大きな開きが出たことを報告したので裏も取れている。
闇市に流れてしまったからすべてとはいかないが遺留品は家族の元に返却、現金や宝石などの一部は私たちが報酬として受け取れる」
「別に金はいらねぇな。古代遺跡の探索は依頼じゃなくて勝手に行っただけだし」
「依頼でなくとも古代遺跡で得た情報をギルドに提出したから報酬は出るぞ? ほら、これが報酬だそうだ」
差し出されたのは金額が書かれた羊皮紙だった。隅にはギルドと騎士団の印が押され、公正なものだとわかる。
「うわ……これ当分遊んで暮らせますスよね?」
エポックが記載されている金額に目を丸くする。
「冒険者をしていると一攫千金を手に入れる、と言うのは皆憧れるし、実際に手に入れた人物を目の当たりにすることもあるが、自分がそうなるとは思わなかったな。
それはそうとウィリアム、パーティに表彰を送りたいとギルド側が言っていたぞ」
「表彰? なんで? トーマスたちを捕まえたからか?」
「いや、パーティ結成1年で古代遺跡の攻略を終わらせたからだそうだ」
「ダルいな……俺、欠席でいいや」
「パーティ名義になっているが、実質ウィリアムのために用意された表彰だぞ。冒険者登録して1年で古代遺跡を1つ攻略するのは偉業と言っても過言ではない」
「ちっ」
「そう嫌そうな顔をするな。高ランクになればこれも冒険者としての責務だ」
「真面目なことで」
面白くなさそうにグラスを煽るウィリアム。
「まぁ、本来の目的が達成できなかったウィリアムさんは災難でしたッスね。
私たちは想像以上にデカいリターンだったでスけど」
「ぽちが100人買えます」
「ぽち、その金があれば自分を買い戻せるぞ? 自由の身だ」
ぶんぶん、と首が飛んでいきそうなほど振られた。
「ぽちはご主人様の奴隷です。このままずっと一緒がいいです」
「自由になって一緒にればいいじゃねぇか。何も変わらんだろう。いや、むしろ自分の口座とかギルドに作れる」
「ぽちは……ご主人様の奴隷になっていることで感じられる繋がりを大切にしたいです」
「そうか。なら、好きにしたらいい」
「そういうと思ったッス」
「ぽちは忠犬だな」
「はい!」
ぽちの尾が嬉しそうに揺れた。
話しているうちにすっかり手が止まってしまい、パトリシアは料理を差し出す。
「ほら、料理も忘れるなよ。ウィリアムが腕によりをかけてくれたんだぞ?」
テーブルには料理の皿が並んでいる。すべてウィリアムが作ったものだ。
「そうでした。あむあむ…………やっぱりウィリアムさんの料理はおいしいッスね!」
エポックは料理を頬張ると、幸せそうな表情を浮かべ、まだ口の中に残っているのに次々と料理を食べている。
冒険中には堅いパンや燻製、動物系の魔物を狩って火にかけた程度の食事しか摂っていない。その反動から、長期間冒険の後の食事は冒険者にとって至福のひと時だ。
「曲がりなりにも店構えてるからな」
「お注ぎします」
ウィリアムの隣を陣取っているぽちは彼のグラスが空になると即座に酌をする。
「ん。ぽちも食っていいぞ」
「はい。あむあむ」
ぽちは肉類を中心に手を伸ばしていく。
『おお、何とも原始的な光景なのだろうか。明かりに蝋燭を使っている!』
『未だに移動は馬を使っているのよ』
突然、何もない空間から声が聞こえ、パラケルススとヴァルプルギスが現れる。
「な、な、なんスか!? どういうことッスか!?」
2人の姿を確認するとエポックが震え出した。
「ああ、まだ紹介してなかったな。古代遺跡にいたヴァルプルギスの兄ちゃんだ」
『やあ、こんにちは、お嬢さん。僕はパラケルスス。暇だったからウィリアムくんに頼んで一緒についてきてしまったよ』
「あびゃぁあああああああ!」
『どうしたんだい、彼女?』
『大丈夫。いつもの発作だから。優しくしてあげて』
先ほどまでの食欲はどこへ行ったやら、エポックは鼻息を荒げながらパラケルススを穴が開きそうなほど観察を始めた。
「こんな完成した人工精霊がヴァルプルギス様以外にいらっしゃったなんて! と、いうことは古代遺跡を作った人たちは私が思っていた以上の技術を持っていたんッスね。ヴァルプルギス様は特別性だと思い込んでたんでスけど、2人以上存在してるとなると古代遺跡のどこかに設計図や生産ラインがあるはず……。それを私が見つけ出せればお2人のような人工精霊を作りだすことだってできるッス! うおおおおおお! 燃えてきた、燃えてきたッスよぉ! 私の夢が一気に現実味を帯びてきたッス!」
独り言をつぶやき続けるエポックを物珍しそうにパラケルススが見ている。
『こんな人間は僕の時代にもいたよ。そう、マニアと呼ばれていた。こういう人間は意外と大物になったりするんだよ』
『この子は十分に大物よ。今の時点でもデバイスと疑似生命体が別のモノだって薄々気づいているみたいだし。そのうち、私たちの兄弟を本当に生み出してしまうかもね』
それぞれが各々の楽しみ方をしている中、ウィリアムとパトリシアは向かい合うように座り、グラスを少しずつ傾けていた。
「で、今後の方針は?」
「あ? 何言ってんだ古代遺跡をしらみつぶしに探索だ。俺が元の姿に戻れるまでやる。
例えすべての古代遺跡を探索することになろうともな」
「また、大層な目的だな。1年で古代遺跡に挑戦しただけでも酔狂なことなんだぞ。結果的に踏破しているのがさらに驚きだ。常識外れにも程があるよ」
「冒険者の常識なんて知らん。俺は自分のやりたいようにやるだけだ。冒険者なんて本来そういうものじゃないのか」
「ふむ、言われてみれば……なかなか核心を突いた一言かもしれんな」
「それにお前らも俺に付き合ってるんだから酔狂だろうがよ」
「ふふ、それは確かにそうだな」
「だろ?」
2人は小さく笑うとグラスの残りを口に含んだ。
「早く戻ってこの酒場を再開させねぇとな」
「冒険者が板についてきたと思うのだが、やはりそれは変わらないのか?」
「ああ、俺は剣奴をやめてからがすべて余生だ。ガツガツ生きていくのはもういい。気ままに酒場で飲んだくれの相手をしているのが理想だ」
「そうか。無理強いできることでもないからな」
「逆にお前が冒険者を辞めたくなったらウチに来い」
ウィリアムの発言にパトリシアは長いまつげを揺らす。
「それは…………どういう意味だ?」
「ウェイトレスとして雇ってやるって意味だ。他にあるか?」
「…………そんな事だろうと思ったが」
「なんで、ちょっと怒ってんだよ」
「怒ってない」
「怒ってるだろう。おい、俺なんか悪いこと言ったか?」
ウィリアムが周りに同意を求めると、
「あー、ウィリアムさんが悪いッスね。理由は聞かないでくださいッス」
「ぽちにはよくわかりません」
『あなたって朴念仁ねぇ。理由は自分で考えなさい』
『ウィリアムくん、戦い以外はまるでダメなんだねぇ。面白そうだから僕も黙秘で』
それぞれの反応を受け、
「なぜだ、わからん……」
ウィリアムは首をかしげるのだった。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
これは2年くらい前に文学フリマに出そうとして結局出さなかった作品でした。
日の目を見ないのもかわいそうだなって思い投稿した次第です。
もし続編を読みたい!って人がいればブックマークと評価をして、感想にその旨を書いていただければ実現するかもしれないです(チラチラチラ
また次の作品でお会いしましょう。




