Vol.19
「……それにしても、毎日毎日すごいな」
部室に入って未散から預かった『本日回収した衣への嫌がらせの品々』を机にバサッと置くと、数の多さに佳佑は肩をすくめた。
今日は手紙や紙切れだけでなく口にするのもおぞましいことがペンで書いてある衣の上履やズタズタに切り裂かれた衣の体操着まである。
「すんません、なんか先輩たちまで巻き込んじゃって……」
シャツを脱ぎながら優太は佳佑に謝った。
「いや俺は別にかまわないよ、特別並木たちのために何かしてやってるわけでないし。それよりも……小橋さんは大丈夫なのか?」
優太に尋ねながらすでに部室の隅っこで陣取っているゴミ袋3個を佳佑は見る。
「まあ衣自身は俺や未散が護衛してるんで大丈夫ですけど、衣のモノがいろいろと被害に遭ってるというか……」
「……確かにそうだろうね」
優太に相槌打ちながら佳佑はテーブルにある上履きを見た。
「……先輩、俺ってひどい男ですよね」
「はぁ?何だよ急に」
優太の自虐的な言葉に佳佑は目が点になった。
「だって衣のことこんな目に遭わせてるの俺だし……」
机の上とゴミ袋を見て優太は涙声になっていた。
「それに……未散に言われるまで自分が何なのかって全然わかってなかったし……」
俺最悪ですよね、と優太は無理に笑った。
「……しょうがないだろ、並木はそういう男だし」
「……へ?」
言っている意味がわからない優太は佳佑を見てぽかんとする。
「練習はサボらず一生懸命で、試合に出れば役割上一番タフで、いろんな意味でおバカさんで、あんなにたくさんの女たちにちやほやされてもずっと一人の女しか見てなくて。……並木は天下無敵。ある意味誰もかなわない」
言いながら佳佑は自分のロッカーを開けた。
「けどさ、そういうのって女から見ると余計に嫉妬心煽るみたいなんだよね。なんでなのかよくわかんないけど」
佳佑はシャツのボタンに手を掛けた。
「……つまり、並木のその行動がこの原因」
佳佑はそう言って顎でテーブルを指した。
「けど、明日で終わりにしてやるからな」
佳佑はシャツを脱ぐとバッグに放り込んだ。
「並木たちのことは俺たちがちゃんと守ってやるよ。俺達はお前の味方だからな」
佳佑は優太にそう言って微笑んだ。
「先輩、ありがとうございます、ありがと……」
優太はお礼を言おうとしたが感無量で言葉が出ない。
「…………」
それを見ていた佳佑は微笑んだまま何も言わずにジャージをかぶった。