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Vol.10

「優太ってさ、衣のこと好きだよね」

「……え」

「ほんと優太ってわかりやすいわ、見てればわかる。『未散いいなぁ、俺も喋りたいなぁ』って顔に書いてあるよ」

 ……と、いともあっさり未散にバレたのは4月の終わり頃。

 部活が終わって一緒に帰ったときだった。

「……うん」

 多分違うと言ってもそれがかえって怪しまれると思った優太は素直に認めた。

 衣が優太を好きだと知ったのが先だったから、この時点で未散は「実は2人は両思い」ということを知るのだが、しゃかりきになって二人をくっつけようとするのもどうかと思ったのか、特に何かをして貰った記憶は優太にははっきり言ってない。

 ただ衣と話しているときについでに優太を巻き込んで話してくれたりとか、衣に試合や練習試合の日を教えてくれてはいたようで、なんとか衣との接点を持てるようにはしてもらった。

 初めは未散がいないと衣は自分とは口をきいてくれなかったが、1ヵ月後には別に未散がいなくても話せるようになっていた。

 ……とはいってもほとんどの場合、衣が何かしら返事をするしかないことを優太が言ったりやったりして、それを聞いた衣は大概は怒り、

「なにすんのよ!」

 か、

「なにそれ、バッカじゃないの?!」

 という返事ばっかりだったけれど。


 でも、それでも優太は幸せだったのだ。



 けれど中3の春。

 優太は悲しい現実を突きつけられる。


「並木どうだ、ココに行く気ないか?」

 ある日の昼休み、優太は担任と顧問に呼び出されて突然そう切り出された。

「実はな、並木のことを欲しいって言ってるんだよ、この高校が」

 言いながら顧問はとある高校のパンフレットらしきものを優太に見せ「ココなんだけどな」とテーブルに置く。

 この頃の優太は県内では押しも押されもしない『注目度ナンバーワンバスケットボールプレイヤー』になっていたので、優太の住む町から駅で5つ分離れたところにあるインターハイベスト4常連校の高校からオファーが来ていたのだ。

「先生これって……」

 優太はドキドキしながらパンフレットを手にした。

「いよいよ並木も全国区へデビュー、ということだな」

 嬉しいねぇバスケでこんな話が来たのは初めてだから、と顧問はニコニコ笑って近くにあったイスにどすっと座る。

「好きなもので高校受かるなら並木にとっても悪い話じゃないだろ」

 担任もイスに座ったまま勧めてくる。

――俺が全国区のプレイヤーになる……俺が、全国トップレベルのチームでバスケがやれる……?

 優太の心はぐらぐら動いた。

「あの、先生、すぐ返事しなくちゃダメですか?」

「まさか。ちゃんとご家族の人にも話してもらわないといけないし」

 結論は急いでないからゆっくり考えなさい、と担任も顧問も少々おろおろ気味の優太に微笑みかける。

「ハイ、呼び出しは終わりだ」

 戻っていいぞ、と先生2人はイスから立ち上がった。

 

「あぁ、優太もその話されたんだ」

「『も』って、未散もされたのか?」

「でも2人ともすごいねぇ」

 呼び出しから帰ってきた優太は、「ナニナニ、何の話?」と興味津々の未散と衣に呼び出された内容を報告した。

 衣は感心してくれたが未散の方は随分淡白な反応だ。

「未散はどうすんだよ」

「行かないわよ。即で断った」

「なんで?!」

 未散のコレまた淡白な返事に優太は質問を返す。

「だってスポーツ推薦なんかで高校行ったらバスケだけで3年間終わっちゃうでしょ。そんなのあたしは絶対イヤ」

 未散はそう言いながらしかめっ面でゆっくり首を横に振る。

「じゃ、どーすんだよ」

「衣と同じ学校に行くよ。一応射程範囲だし」

 優太の質問に未散はまたあっさり答えた。

「でも……そうなっちゃうと優太だけ高校別になっちゃうね」

 衣はぼそっと呟いた。

 ……その言葉に優太の胸はズキン、と痛んだ。

 そうなのだ。

 たとえオファーを断ったとしても、頭のデキでどのみち衣と同じ高校には行けないのだ。

 衣は学年3本指に常に入る秀才なのに対して自分はいつも学年3桁。

 一緒の高校に行けたら奇跡としか言いようがないだろう。

――だったらバスケで高校に行こうかな……でも……。

 高校が別になったらきっと衣とはこれっきりになる。

 そうなったら衣はきっと自分の事なんて忘れてしまうだろう。

 そしてすぐに彼氏なんかできちゃって「あ、優太?!久しぶりだね。……あ、紹介するね、私の彼氏で……」なんて偶然道端で会ったら頼みもしてないのに彼氏なんか紹介されちゃったりして……。

「並木ィ、体育館行くぞぉ!」

「……俺、行ってくるわ」

 クラスの男子に声をかけられたのが幸いだった。

 未散が心配そうな顔をしていたがそれにはわざと気づかないフリをして優太は2人からはなれ、体育館に遊びに行こうとする面々の群れに入っていった。

 これ以上衣を見ていたらその場で泣き出しそうだった。

 もう何も考えたくなかったのだ。

 

 5日後――。

 優太は担任と顧問のところにいた。

「おう、もう答えだしたのか」

「先生、あの……」

 優太は担任の質問を完全においといて口を開く。

「今から学年1桁目指すのって、やっぱりムチャなことですか?」

「うーん、やってのけた生徒は見たことはあるけど……だけど急にどうしたんだ」

 担任の質問に優太はウッ、と詰まった。

 だって。

 俺いろいろ考えたんですけど、やっぱり好きな人と同じ高校に行きたいんです。

 だけど、彼女はすっごい頭よくて今のまんまじゃ同じ高校には行けなくて。

 でも今から死にもの狂いで勉強したら成績上がるなら俺勉強します。

 だからすみませんがこの話はなかったことにしてください――。

 ……って優太の頭の中はもうこうなってしまっていたから。

 でもこんなことを正直に言おうものならそれこそクラスの、いや、学年中の笑い者になるのは目に見えている。

「……男は賢くなくちゃダメだと思うんす。バスケができるだけじゃ生きていけないですから。だから……バスケに頼って受験するのは辞めようと思って」

 かなり苦し紛れだったが優太は2人に理由を説明した。

「……並木なりにけっこう考えてるんだな」

 顧問には感心されながらもやっぱり笑われてしまった。


 そして優太のこの迷言……いや、名言はどこから漏れたのか瞬く間に広まった。

「優太、本気なの?」

 当然話を聞いた未散は受け取り方によっては実に無礼なことを部室のドアを開けて入ろうとした優太に聞いた。

「なんだよ、未散も馬鹿にしてんのかよ」

 どうせ俺は万年学年3桁男ですよーだ、と優太は頬を膨らませた。

「いやそうじゃないけど。だけど優太にはどう考えたっていい話じゃない、何でわざわざ……」    

「あーもう!わかった、わかったよ!言えばいいんだろっ?!」

 カリカリしながら優太はキッ、と未散を睨んだ。

 優太にガンを飛ばされひるむ未散に「しょうがねーなぁ」とぽりぽり頭をかきながら優太はぼそっと一言呟いた。

「衣とおんなじ高校に行きたいんだよ……」

「……え?」

 よく聞こえなかった半分自分の聞き間違いじゃないかと思った半分で、未散は思わず優太に聞き返していた。

「あーもう!うるさいうるさい!練習行くぞ!」

 優太は顔をカッカさせながら「オファーを断った本当の理由」を第3者に最初で最後に口にすると、未散の顔も見ずに部室のドアをバンッ!と閉めた。



 そして部活を引退してからはそれこそ血ヘドを吐く思いで勉強した。

 そうやってやっとの思いで『合格通知』と『衣と毎日会って毎日馬鹿をやれる特権』を手に入れた。


 ……なのに。

 今までのそうやって自分で頑張ってきた努力をこのわずかな時間で全てフイにしてしまったのだ。

 こんな悲しいことが他にあるだろうか。


 衣が一番大事だと意を決して言ったときの、あの衣の驚いた顔。

 理性が飛んで歯止めがきかなくなった自分を拒否した衣。

 ……そして。

「は、はなしてっ!」

 衣のあの時の一言が優太の胸に突き刺さる。

――衣に嫌われた……。

「……うっ……ひっ……」

 優太のトイレはまだまだ終わりそうもない……。

 こんばんは、愛梨です。

 今のところ『優太と衣のコイバナ』でお送りしています。

 いかがでしょうか?


 この設定は自分で言うのもナンですけど、もうベタ中のベタ、王道(?)です。

 幼馴染とはちがうけど、まぁそれに近い2人のお話です。

 バカがつくほど素直で正直者の優太と意地っ張りなくせにイザとなると根性ナシの衣。

 この2人、どうやってくっつくんだか。

 すみませんが、しばし見守ってやってください。

 ちなみにしばらくは未散はこの手がかかる2人のお世話を焼きますので恋愛どころではありません。

 彼女のコイバナはいつになるんだか……(汗)。


 ということで、またお会いしましょう。

 それでは、またです。

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