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Monster  作者: 如月 望深
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over the Moon

 ブラシェールの王宮では、華やかな夜会が開かれていた。アニエス王女の婚約を祝うものだ。その主役の一人、めでたくアニエス王女の夫の座と次期王座を手中に入れる予定の王女の婚約者は、会場をぐるりと見回した。

「どなたかお探し?」

 隣に寄り添う王女に問われて、彼は頷いた。

「ええ、我が親友を」

 アニエス王女の顔に、そんなものいたかしら、という表情が浮かぶ。笑顔は柔和だが、食えない性格のこの婚約者は、相手はどう思っているかは別にして、親友と呼べるほど心を許せる相手を作ってはいない。

「アニエス王女、エクレール公」

 声が掛けられ、エクレール公爵セドリック・デクレールは笑顔を浮かべた。

「我が親友がお祝いに来てくれましたよ、アニエス様」

 アニエスの視線を向けられたのは、濃い茶色い髪に、“恵みの稲妻”と呼ばれる金色の虹彩を持つエクレール公爵と同様に、深い青の瞳に金色の虹彩が走る美しい男だった。

「ご婚約、おめでとうございます」

 祝いの言葉を向けられて、アニエス王女は「ありがとうございます」と返す。

「あなたもご婚約なさったとお聞きしましたわ、ルートヴィッヒ様」

「ええ」

 そう答える彼の隣には、淡いブルーのドレスに身を包んだ可愛らしい少女が立っている。結い上げた蜂蜜色の髪も、真っ直ぐな若草色の瞳もシャンデリアを反射してまばゆく光っている。

「おめでとうございます、アニエス殿下、エクレール公爵様」

「ありがとう、リーゼ。君もお幸せにね」

「はい、ありがとうございます」

 エクレール公爵に微笑まれ、リーゼロッテは嬉しそうに頬を染めた。

「そういえば、兄上もご婚約を発表なさったとか」

「ええ、カファロ公国の姫君と。そのお陰で、晴れてリーゼを婚約者にできたわけです」

 ルートヴィッヒの兄、ナハトシュタインの王太子であるエーリッヒの婚約が決まったため、リーゼロッテは王太子妃候補の立場を解かれ、それと同時にルートヴィッヒとの婚約が発表された。弟の愛しい少女に悪い虫が寄って来ないように兄があえて妃候補に入れていたのだという噂を伴って。

「お互いにおめでたいですわね」

「ええ、これを機に、我が国と貴国との友好がより深いものになることを願っています」

 ナハトシュタインの代表としてアニエス王女の婚約祝いに訪れたルートヴィッヒは、国の代表らしく答えた。

 アニエス王女の元へ、数人の貴婦人がお祝いに訪れた。アニエス王女と交流のある貴婦人方らしく、おしゃべりに花が咲く。

「いつの間に俺がそなたの親友になったんだ?」

 アニエス王女の意識が逸れたことを確認して、ルートヴィッヒは小声でエクレール公爵に抗議した。

「親友として、国王陛下に王女殿下の婿にと推挙してくれたんでしょう?」

 どうやら、ルートヴィッヒが裏で手を回して彼をアニエス王女の婿にと差し向けたことを根に持っているらしい。

「そなたには、願ったり叶ったりの立場かと思ったが、不満だったか」

 ルートヴィッヒはしれっと答える。エクレール公爵なら、国王としての務めを立派に果たし、同時にナハトシュタインにとっても良き友好国となってくれることだろう。

「私はリーゼを妻にと望んでいたのですけどね」

「誰が渡すか」

 未来の妻がすぐそばにいるというのに、そんなことを言うエクレール公爵にルートヴィッヒは眉を顰め、呆れたように言う。

「お二人とも、本当に仲が良くて、私、嬉しいです」

 そこへ場違いな朗らかな声がして、二人は固まる。

「…リーゼ、何をどうしたら、コイツと俺が仲良しなんだ?」

 とうとうコイツ呼ばわりにまでなったエクレール公爵もリーゼロッテを見遣る。彼の瞳はどこか面白がっている様子だ。

「だって、ルーイ様とこんな風にお話できる方は、なかなかいませんもの」

 どういう評価なんだ、と二人の男は思わないでもなかったが、リーゼロッテの嬉しそうな顔に沈黙を守ることにした。

「セディ様」

 アニエス王女に呼ばれ、エクレール公爵は貴婦人たちの輪に加わった。それを機にルートヴィッヒとリーゼロッテは二人のもとを辞した。



 華やかな夜会も、窓を一枚隔ててバルコニーに出れば、静かな夜の気配が風に乗ってやってくる。空に架かる丸い月が明るく庭園を照らし、所どころに配された照明が幻想的に演出をしていた。

「お二人とも、お幸せそうで良かったです」

 無邪気にアニエス王女とエクレール公爵の婚約を喜ぶリーゼロッテは、その裏にルートヴィッヒの暗躍があったことを知らない。複雑な思いでルートヴィッヒは「そうだといいが」と呟いた。

「大丈夫ですよ。アニエス様はどう考えてもセドリック様をお好きですし、セドリック様もなんだかんだ言って、アニエス様が可愛いのですから」

 ワガママ姫とも言われている気が強くて我も強いアニエス王女だが、エクレール公爵の言うことだけは素直に聞くのだ。そして、そんな従妹をエクレール公爵は文句を言いながらも可愛がっている。二人が一緒にいるのは数度しか見たことのないリーゼロッテだが、短いやり取りの中で二人の仲を見抜いていた。

「お前には敵わないな、リーゼ」

 計らずして自分の欲しい言葉をいつもくれるリーゼロッテの肩をルートヴィッヒは抱き寄せた。

「…もうエクレール公を“セディ様”とは呼ばないんだな」

 実は、リーゼロッテがエクレール公爵を愛称で呼ぶことがちょっと不満だったルートヴィッヒである。

「はい。それは、アニエス様だけに許された呼び方ですから。私がルーイ様とお呼びすることをお許しいただいたように」

 ルートヴィッヒはリーゼロッテの瞳を覗き込む。月の光に照らされた彼女の若草色の瞳は、どこまでも彼に優しい。

 そっとルートヴィッヒはリーゼロッテの唇に自分のそれを重ねた。

「……ルーイ様、だめです、こんなところで」

「ちょうど主役のダンスが始まったところだ。誰も窓の外など気にしてはいない」

 恥じらう婚約者をからかうように、ルートヴィッヒは彼女の額に、頬に、鼻に、唇に、雨あられと唇を降らす。

「ルーイ様っ!」

 少し怒ったような、困ったような抗議の声を上げるリーゼロッテに、ルートヴィッヒは特上の笑顔を見せる。

「少し黙れ」

 そう言って、彼女の唇を塞いでしまえば、リーゼロッテはおとなしく彼に従うのだった。


 夜空には、モンスターの瞳のような、金色の月が輝く。


 その月の光に照らされた、モンスターに捕えられた姫君のシルエットが、婚約者とダンスを踊るエクレール公爵に見えていたことは、彼だけの秘密だ。

 思わず口の端に笑みを乗せた彼に、「どうなさったの?」と婚約者が訊くので、彼はとびっきりの甘い笑顔を彼女に向けて、その頬に口づけた。彼女が顔を赤くして怒り出すであろうこの後の展開を思って、更にエクレール公爵は笑みを深めた。

目指せ王道!で書き始めたはずが、途中から陰謀的な何かが出てきてしまったり。惚れた腫れただけでは物語を展開させられないという未熟さが出てしまいました。ラブロマンス的なお話は、私には無理だなと実感したものであります。ただ、これはこれで良いかなと、個人的には思っております。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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