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そしてメイソンが提案した作戦の決行日。
北極はなんとも綺麗な快晴で無風だった。
「……よし、あとは信管を刺すだけですね」
「クマは未だにうずくまったままみたいだな」
「しかし本当にあれ、クマなんですか?どうも毛皮を被った車にしか見えないんですが」
「それでもクマなんだ。それよりも出来たのなら早めに終わらせるぞ。他の勢力が準備している間に終わらせないとな」
「『資本主義』の戦闘機が飛び回ってますからね」
アメリアが筒を肩に担ぎ、メイソンが起爆用の通信機に指をかける。
「いきますよ」
「ああ、こい」
メイソンが爆薬を爆発させ、ドゴンという莫大な音と共に衝撃波を生み出す。
その衝撃波は光の槍となってクマに襲いかかり、首輪の革を破壊する。
だが首輪を落としてもクマがその場から退いてくれない。
「クマが動かない?」
「警戒しているんですかね」
だが退いてくれないことには回収できない。
仕方が無いので少し待つ。
すると爆発音に焦った他勢力、それも小さいテロリスト程度の勢力がクマにちょっかいをかけて追いかけられる。
「よく生きてましたね、あのクマ」
「ああ、何か衝撃とかを吸収する毛皮を持っているらしいが詳しくは知らんな」
ただ、と、アメリアがテロリストを蹂躙しているクマを見てつぶやく。
「あれを殺すならその装甲をどうにかしないと無理だろうな」
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「お、撒いてる撒いてる」
「運がいいのか無風だからな上手くいくだろう」
「しかし、随分と暴れてますね」
カイトが双眼鏡を覗きながらつぶやく。
「まあ、『死神』がちょっかいを出した可能性もあるからな」
と、話していたカイトたちの通信機からアラームのようなものが聞こえる。
「っと、爆発の合図だ」
「はいはい、とりあえず伏せてください」
3人が伏せてしばらくすると爆音が鳴り響き、数十メートル前の空間が爆煙に飲まれる。
「これで酸欠になって熊は弱体化と」
「そして俺達がトドメをさして荷台に乗せて今日の仕事は終わりだな」
酸素ボンベを背負った兵士たちが走り出し、クマを取り囲む。
その中の数人は周りを警戒し、その間にチェーンソーを持った兵士が熊の首を切り落とす。
「(っと、これで今日の仕事は終わりだな)」
「(なるほど、抜け毛や古い皮膚を纏っているのか)」
その熊は抜け毛や古い皮膚をまるでミルフィールのように重ねた毛皮を纏っており、その何段も重なった層が衝撃を吸収したのだ。
火も、衝撃も、銃弾も、結局は仲間で届かなくてはダメージを与えられない。また皮脂を含んだその特殊な毛皮は水を弾く。道理で冬の北極海を元気に渡れたわけである。
「(さて、今回は山場が少なかったな)」
「(それが普通なんだよ。作戦通りにことが進んで作戦通りに終わるそれが一番いいんだよ)」
隣にいた兵士が簡易の空気検査キットを見てマスクを外す。どうやら酸素濃度が戻っていたようだ。
それに倣ってカイトとレオンも外す。
「今回の熊を解剖したらまた何か問題が起きるかもしれないがその辺は俺ら管轄外だ」
「その辺は変に引きこもってる学者たちに任せて俺達はバカンスに帰ろう」
『さて、これがなんの報告かわかるかね、少将』
画面の向こうにいるのは白衣を着た初老の男性だ。
小さな幼き少将はその男性に対して真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。
「大方神に近づいた熊の件でしょう?」
『その通り、あれはまさに神の技術だ。熊に人間の脳を移植し、様々な動物の内蔵や筋肉などを移し、その上で熊の形を保っている。完璧だよ』
「それで『神政主義』の次の手の予想は着くのか?」
『もちろん。以前は人間に動物の部位を。今回は動物に人間の頭脳を』
「そう来たら今度は人間に動物の脳を埋め込むというのか」
『その通り、それも人間と同等の知能を持った脳をね。この事の意味がわかるかね』
「人間の知恵と動物の本能を兼ね備えた最強の生物が生まれる」
『その通りだ。だが私たち学者には君たちと違ってそれを望んでもいるんだ。もし、そんな化け物を見つけたら教えて欲しい。……真っ先にね』
シャルロット少将が通信を切り、天井を見つめる。
無茶なレポートを上司に報告することや、1人で抱え込むには少し大きすぎる事実を渡されるのはいつも部隊の長だ。こんな時に、酒を飲みながらグダグダ言える部下が羨ましいと思う。
だが現実逃避などするほど『資本主義』の人間はやわに出来ていない。
「まためんどくさいことが起きたが、まあ、何とかするだろう」
何とかするのが自分の役目だとでも言いたげにつぶやく。
だがそんな少将だからこそ1つの部隊を任されているのだ。
「さて、次の戦場に向かうとするか」
「それで、その研究はなんだったのかな?」
『神に近づくための研究だ』
「それはわかっているんだよ。問題はどうやってのところだよ」
『……人間の頭脳を移植したクマをクマの親に育てさせた。その結果があれだ。あのクマは人間らしい知恵を持ちつつもクマとして生きていられた』
「今度は動物の脳を人間として育てるのかい?」
『その通りだ。と言ってもそれは成功しているのだがな』
「あれが成功作かどうかは分からないよ」
『それでも実験することに意味があるのだよ。人生は所詮試行錯誤の繰り返しだ』
「その失敗で私たちのターゲットにならないようにね」
ミアが通信を切り、仲間の元に振り返る。
「さあ、次のターゲットを殺しに行くよ」




