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快晴の涙

火砕流が地鳴りをあげながら、砂と熱の壁になって駐車場を飲み込んだ。

"ドッ!バ~ンッ!"

轟音と共に4人が弾き飛ばされた。

迫って来る火砕流の風圧に押されてドアが凄い勢いで閉じたのだ。

動く者はいない。

1分、2分・・・地面と空気の振動に支配された空間になった。


高さが100メートル以上もある火砕流が襲ったのだ。

小さな駐車場などは簡単に飲み込まれてしまう。

もし、避難した先がビルであったら建物は火砕流の圧力に負けて倒壊していただろう。

しかし、柱だけで出来た駐車場は火砕流からの圧力を受けずに残っていた。


静寂が訪れてからどのくらい経ったのであろうか。

「ここはどこ?」快晴の声だ。

ここは駐車場の避難階段がある空間である。

火砕流による破壊で電灯が消えて真っ暗なのだ。

快晴はポケットからiPhoneを取りだし、ライトを付けて周りを照らして見た。

ライトの先に上り階段が映し出されたが誰もいない。

ライトを左に向けると千夏と少女が倒れている。

「お母さん、大丈夫!」快晴が駆け寄る。

「お母さん!お母さん!」叫ぶが反応が無かった。


千夏が倒れている奥の方で何かが動いた!

快晴がライトを向けると少女の意識が戻って体を起こしている。

「大丈夫ですか?」快晴が初めて少女に声を掛けた。

「ここはどこ?」ライトに向かって少女が訊ねた。

「ここは駐車場の非常階段の中かな?それよりも怪我はしていない?」

「・・・・」少女は状況が分からないようである。

「富士山が噴火したので車で逃げる途中、道路に君が倒れていたので助けたんだよ。覚えていないの?」

快晴が状況を説明した。


少女は何かを必死に思い出そうとしている。

「そうなんだ。富士山が噴火したのは覚えているけど・・・その後は何も」

自転車に乗っていた少女の頭に、富士山から飛来した石がかすったのだ。

通学用のヘルメットを被っていたので、自転車が転んだ時の怪我だけで済んでいる。

「ありがとうございます。それで富士山はどうなったの?」

「車で逃げていたけど火砕流が襲ってきたのでこの中に逃げたんだよ」

快晴は一人ぼっちで無いことに気付いて少しだけ安心した。


「ちょと待って。お母さんの意識が戻らないんだ!」

快晴の前には千夏が倒れたままなのだ。

快晴は千夏の体を揺すりながら「お母さん、目を開けて!」

「死んじゃ嫌だよ」

「お願いだから目を開けてよ」

何度も何度も声を掛け続けている。

しかし、千夏は動かないままだ。


千夏の体を揺さぶる快晴の目からは涙が溢れている。

(いつかは親の死を見送る時が来るんだよ)

快晴はずっと前に聞いたお父さんの言葉を思い出した。

「嫌だよぉ!目を開けてよぉ」

「お母さん、お願いだから!」

泣きながら声を掛ける快晴だが、千夏はぐったりとしたままだ。

「お母さん、起きようよ!」

快晴の目から溢れた涙が千夏の顔にこぼれ落ちた時である。

千夏の閉じた目が動いたように見えた。

「お母さ~ん!」快晴は力の許す限りの声で千夏を呼んだ。


千夏はゆっくりと目を開けた。

薄く照らし出された明かりの先に泣いている快晴の顔が見える。

「快晴?」千夏は小さな声で呼んだ。

「お母さん、気が付いたの!良かった!」

快晴の目からは今まで以上の涙が溢れた。

「大丈夫?怪我はしていない?」快晴は泣きながらも顔には笑顔が戻っている。

千夏は快晴に助けられながら体を起こした。

「あっちこっちが痛いけど大丈夫みたい」千夏が自分の体を確認しながら言う。


「あの!大丈夫ですか?」横から初めて聞く女性の声がした。

「藤代です。助けて頂いてありがとうございます」

「名前は?」千夏が聞き返す。

「香織です」

「香織ちゃん、大変なことになったね。今は頑張るしかないから協力しようね」

「はい」

(素直な性格なのかも)千夏は思った。

二人の顔をiPhoneで照らしながら「お父さんを探してくる」

快晴が心配そうな顔で先へと進んだ。

先程まで泣いていた快晴だが、今ではたくましく見えると千夏は思った。


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