番外編:夏に忘れもの
1人の魔女と3匹の使い魔が集う家の台所は、その家の主人の趣味が反映された作りだ。独立したキッチンはすこし大きめの流しと三口のガスコンロに、広く真っ白な作業台が続く作り。コンロ周りの壁は紺色のタイルが貼り付けられ、いつも艶々としている。この台所の主が料理のたびに大事に掃除していることがよく分かる。リフォームの際IHを勧められたが頑なにガスを使うと言って取り付けたコンロは、どこかレトロな雰囲気だがそれがまたタイルの壁と合っている。棚や引き出しといった作り付けの場所は、そのまま木をむき出しにしていては扱いづらいとして、オークを模した濃い茶色の化粧板になっている。実と美をふんだんに取り入れこだわって作られたその場所には、現在主人と使い魔たちがぎゅうぎゅうに収まっていた。
「あのさぁ、ちょっとやりすぎじゃない?いつものことだけど。」
作業台に乗り切らずコンロの上まで置かれた食材を見て、思わず金太郎がこぼす。
「自分でもそう思うよ。でも聞いておくれよ。このトマト、真っ赤でとても綺麗じゃないか。すごく土の匂いがしていかにも美味しそうなんだよ。しかも絶対甘いやつ!」
紙袋に入った艶々のエナメルのように光るトマトを取り出し、頬擦りをする勢いで匂いを嗅ぐ。そして同じように袋からトマトを取り出したユエも、匂いを嗅いで破顔した。
「これは美味しいやつだぁっ!うちの畑にあったやつでも美味しい時は土の匂いがしたねぇ〜!」
「そうだろう?」
「茄子も張りがあって、ヘタなんてまだ棘が痛いくらい新鮮ですね。きゅうりも同じく痛いくらいの棘。これは買わない選択肢はない。」
「そうだろう!」
買い物袋から覗く茄子ときゅうりを眺め、ジョージも同調していく。その他の野菜やフルーツ、さらには買ってきた肉や海産物、果ては調味料などまで褒め出しそうな勢いだ。
「とにかくさ、夏野菜が美味しそうで安いんだ。買わないなんて野暮なことはできないだろう?」
ジト目で戦利品たちを眺める金太郎へ、説得するかのように主人が話しかける。それを期待するような目で見るカラスとオオカミ。
「やっぱり食欲の魔女じゃん。」
呆れたようにいうと、ぴょんと飛んで黒猫の姿に戻る。
「どうせ美味しいものになって、みんなで食べるから良いけどね。夕飯楽しみにしてるー。」
そう言い残すと、一人トコトコと台所を出て行った。
艶々の黒毛を見送ると残った三人はこの食材についてあぁでもないこうでもないと、議論を始める。
「野菜はやっぱり焼いて出汁に浸したやつがいいよね。」
「岩塩をかけてオーブンで焼くのもいいですね。」
「夏野菜カレーっていうのもありますよぉ〜?」
「トマトは湯むきして冷やしたいな。いや、いっそただ冷やして食べるというのも手だ。」
「きゅうりはぜひ味噌とマヨネーズで!もろみ味噌ありましたっけ?」
「叩いてゆずこしょうと醤油で和えてもいいな。梅肉も捨てがたい。」
「あ!おれ、パプリカは焼いた方が好きです!あと、とうもろこし茹でましょう!塩多めで!」
それぞれが言いたい放題で、まとまる様子は皆無。全員が目の前の食材をどうしたら一番美味しく食べられるのかという、なんとも楽しい悩みに心を躍らせていた。
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「で、これが長々と争った結果本日の夕飯に採用されたメニューってことだね。」
先ほどの議論からしばらくして、ご飯だよと呼ばれた金太郎がダイニングにやってくる。
ダイニングテーブルに乗り切らず、補助テーブルまで出してきて目一杯に広げられた皿。そこには輝かんばかりの夏野菜による料理が、所狭しと広がっていた。「メニューが話し合いで決まらなくて、あみだくじで決めた。」と話すのはこの家の主。ちなみにあみだくじ運が一番強かったのはジョージで、彼の要望したメニューがほとんど採用された形だ。使い魔といえど食に関しては主人に譲るつもりは一切なかったようだ。
「さぁさぁ食べよう!料理は適切な温度で食べることも、ご馳走様と言える要因なんだから!」
主の一声に、全員が声を合わせて頂きますと合掌。箸を持つと何から取ろうかとテーブルの上を目が彷徨う。
「取りづらいものがあったらこちらで取るよ。」
「うん、ありがと。とりあえずこのおひたしから貰うね。」
ガラスの器に入った、夏野菜と豚しゃぶ肉のお浸しをいくつか手元に取る。透き通った出汁がきらきらとして、食欲をそそられる。
「よければその肉で野菜を巻きながら食べてみて。」
「はーい、いただきます。」
茄子を肉で巻いて、口に入れる。噛むと茄子から滲み出てじゅわっと広がる出汁が、肉の脂の甘味と相まってなんともいえない旨さだ。火が通ってとろりとした茄子と薄い肉の舌触りもまた旨さを底上げしているように思った。じっくりと噛み締めながらそれらを味わう。
「肉の甘みが茄子と出汁にあうねぇ。」
「漬ける時間が短かったから野菜が薄味かもしれないけど、肉のおかげでそれほど気にならない。」
「確かにそうかも。」
咀嚼しながらも、視線は次に何を食べようかと皿の上に釘付けになっている。
「私は一人でこれ一皿丸ごといけますね。」
しゃくしゃくといい音をさせながらジョージが真顔で口に運んでいるのは、グレープフルーツとレタスのサラダ。やわらかな葉と瑞々しい果肉に、オリーブオイルと果汁で作ったドレッシングが絡む。その甘さと酸味のバランスが絶妙だ。時折顔を出すピンクペッパーと岩塩が味を引き締めている。
「隠し味の蜂蜜がきいています。」
「放っておいたら本当に丸ごと食べる勢いだね。みんなの分も残しておいておくれ。」
「……善処します。」
「全くおまえというやつは……」
きっと、あのサラダが自分の口に入るのはよくて一口、いや、一口でも食べられればいい方だろうなと思う。
「っはー!これとっても美味しいです!おかわりありますかっ?」
スープボウルを傾けたユエがキラキラとした目で言う。彼はヴィシソワーズがお気に召したらしい。じゃがいもの冷製スープには他に長ネギや牛蒡なんかも加えてポタージュにしてあり、それぞれの野菜の癖がまろやかに調和していた。ニュクスが毎年夏によく作るスープの一つ。
「たくさんあるよ。好きなだけよそっておいで。」
「はぁーい!」
元気よく返事をして、席を立つ。台所に向かう足取りはスキップでもしそうだ。
使い魔達が黙々と食べ進めるのを見て、自分も小鉢に手を伸ばす。長芋ときゅうりを千切りにし梅肉で和えたそれは、さっぱりとした味わいで喉越しよく、暑い日にはもってこいだ。シャキシャキとした食感を楽しんでいると、台所からユエが戻ってくる。スープボウルにはヴィシソワーズがなみなみと注がれている。それを両手で大事に持ってきた。
「意外だね。ユエの好みはコーンスープの方が好きかと。」
「コーンスープは殿堂入りなんです!選択肢が増えました!」
「とうもろこしとか芋とか、穀類のポタージュが好きなんだね。」
「はいっ!」
元気よくお返事し、またスープスプーンをそっと沈めて掬う。それを口に運ぶたびに「おいしいなぁ〜」とこぼしている。これは彼の母親にも教えておいてやらねば。
「ねぇねぇ主、そろそろそのかき揚げ冷めたかな?僕でも食べられるくらいになった?」
「あぁそうだね、ちょっと食べてみるよ。」
熱いもの全般が苦手な金太郎のため温度確認をしようと、とうもろこしのかき揚げをひとつ皿に取る。ひとつまみの塩を振って、口に運んだ。カラッと揚がっているそれは噛むと軽快な音を立てる。
「どんな感じ?まだ熱い?」
「いや、少し温かいというくらいだよ。もし心配なら小さく崩してから食べてみるといい。」
「わかった。ありがと。」
手元の皿にひとつ、かき揚げを取ると箸で小さく崩す。そして主人と同じく塩をひとつまみかけ、一口分を持ち上げる。念の為ふうふうと冷まして口の中へ。鋭い歯でかりりと噛んだ瞬間に、今は見えない耳がピンと立ったように思えた。
「……うん。おいしい。僕はこれ好き。」
「そうか、良かった。沢山あるんだから、好きなだけ食べるといいよ。」
「うん、でも僕はみんなで食べたいから、ジョージみたいに独り占めはしないよ。」
「すみません、箸が止められず、つい。"食べらさる"ってこういう事ですかね。」
自らの意思ではなく美味しすぎて箸が止まらない。自分は止めるつもりがあるのに、美味しすぎるのが悪い。だから責任は他にある、というような北の方便を使い始めたジョージに思わず脱力する。
「あのねぇ……いや、いい。言うだけ無駄な気がする。」
「さすが主。私のことをよく理解してくださっている。」
「わかっているって言うより、諦めたって言うんじゃないの?」
「はい!おれ、またおかわりしてもいいですか?」
卓上の彩といつものやりとりに、賑やかな食事の時間は過ぎていくのだった。
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「流石に、食べ過ぎましたかねぇ。」
洗った皿を片付けながら、ジョージが自らの腹をさする。普段から鍛えているせいか、そこは全く膨らんでいる様子はない。
「僕は少し調子に乗った。今お腹押されたら全部出る。」
珍しく人の姿のままぐったりとソファに身を預けているのは金太郎。その横に座るユエはチラチラと心配そうにその様子を見ている。
「金太郎にしては随分と食べていたものね。雰囲気で容量を超えてしまったかな?」
いつもは唯一のツッコミ役として厳しい物言いの多い金太郎だが、実は寂しがりで先ほどのような皆で楽しく食卓を囲むのが好きだったりする。今日は張り切って作られた数々の料理と、主人と二人だけではない夕飯に楽しくなってしまったようだ。主人としてはそんな様子が実に可愛らしくもある。
「うん、ちよっと調子乗ったー。片付けしなくてごめん。ちょっと休ませて。」
「構いませんよ。金太郎がそれだけ食べられるようになったのですから、良いことではないですか。」
「それはそうなんだけど、やり過ぎたー。」
子猫の頃は本当に食べられる量が少なく、心配されるほどだった。そんな彼が苦しいと言うくらい沢山の量を食べるようになった。子猫の頃を知っていれば、その成長具合に感動さえ覚える。
しかしながら、一名少し違う心配をしている者もいる。
「金太郎、大丈夫?……まだ成長中?ってことだよね。きっとまた沢山食べられるようになったら、体も大きくなるよ。だから、頑張ろう!」
成長途中だから、食べた量が辛くなっていると思っているようだ。許容量には個人差がある、と言うことはまだ認識できていないらしい。確かに彼の家族は大食漢揃いだ。線が細い父親さえそうなのだから、彼にとっての「普通」は金太郎の量では足りないと感じてもおかしく無い。
「おまえ、むかつくな……僕はこれでもう大人のサイズ感なの。お前達みたいにバカの量食べないんだよ……くそっ苦しいっ!」
「こら、言葉遣いに気をつけなさい。」
ソファの背もたれに体を預け、両手でお腹をさする。「しばらく喋るのもきついから放っておいてほしい」とのことだ。
「主、金太郎が飲める薬はありますか?」
「消化を助けるやつはあるよ。ただ、分量的に今在庫のあるものが猫の体にあった配分ではないから、ちょっと作ってこようか。」
「ごめん、主。」
「良いさ。ユエ、金太郎をソファに寝かせてあげなさい。お腹を温めた方がいいね。ブランケットをかけてあげてくれる?」
「はいっ!金太郎、こっち頭にしてね。かけるもの、持ってくるね。」
「ん、ありがと。」
調合室に向かう主人に言いつけられると、すぐにソファから飛び降りて金太郎を寝かせ、かいがいしくお世話をする。そして寝室から拝借したブランケットをかけるが、最初は頭が隠れるくらいまで覆ってしまい慌ててかけ直した。もちろん金太郎には無言で睨まれている。そばでソワソワしていたが、眉間に皺を寄せて横になっている金太郎を見て思わず手を伸ばす。そして艶々の黒髪をゆっくりと撫でた。
「……なにやってんだよ。」
「小さい時、熱出たりしたら母さんがよくこうしてくれたなーって思って。えへへ。」
片目を開けて文句を言われるが、嫌ではなかったのか、また目を閉じた。
片付けを終えたジョージはそんな二人をそっと見守っている。
「可愛いと可愛いの交流は、心癒されますねぇ。」
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「あーっ、私も食べ過ぎだ。欲張り過ぎたな。」
金太郎のために薬を調合するとして1人リビングから抜けてきたが、自分も結構限界だったなと今更気づく。雰囲気に充てられたのは、自分も同じかもしれない。話をしながら和やかに、楽しく食事をするなんて自分が子供の頃にはなかった経験だ。金太郎やユエの幸せな思い出の一つになったらいいと思った。
(まずは、自分が薬を飲んでおくか。)
アンティーク調の家具が多いこの家で、この部屋だけは美と実の割合において実の割合が他の部屋より高かった。それは調合という目的のための部屋であり、目的を損なうのが美ではあってはならないからだ。その為他の部屋に比べてこざっぱりした印象をうける。部屋の中心に置かれた大きな作業台には飾りはなく、それは壁一面に取り付けられた棚も同様。しかし棚に沢山積まれたガラス瓶。今はもっと機能的で便利な入れ物も開発されているが、このクラシックな形が機能的にも見た目的にも美しいと思っている。並べられた瓶にはすでに調合したもの、加工された素材、未加工のもの、さまざまなものが入れられて所狭しと並べられていた。そこから紫色の粉が入った瓶を手に取る。胃もたれや消化不良の時によく飲まれるそれは、似たようなものが人間社会でもよく出回っている。違うのは効きの速さ。市販薬は成分が体内で分解、吸収されてから効果が出るが、これは舌の上で溶けたらすぐに効果を発揮する。すぐに解消したい胃もたれには実に効果的な薬だ。
ひとさじそれを掬うと、左手の甲に小さな山を作って置く。行儀は良くないがそれをそのまま舐め取ると、先ほどまで感じていた不快感や重たさが、さっと消えた。
(んーっ苦いっ!……本当に便利なんだが、薬に頼らない生活にしないとな。)
今後の己の食生活を戒めていかねばと思う反面、美味しいものがあるのに食べないなどと言う選択肢はないので、健康に留意することを固く誓う。まぁまずは食事量のコントロールは必要なところだが。
(えーっと、金太郎の分は……)
人型になれる使い魔とは言え、本体は猫の大きさなのでそのサイズ感で薬を調合する。戸棚からいくつかのガラス瓶を持ち、作業台に置く。
作業用のライトをつけ、引き出しから完成した薬を入れるための小瓶を取り出す。
(あの子なら水薬や粉ではなく、錠剤のほうがいいだろう。……さて、やりますか。)
少し苦味や独特の香りがするため、飲みこみやすい錠剤にすることにした。水薬や粉だと、薬を飲み慣れない金太郎には飲みにくいだろうと判断したのだ。
目の前に置いた6つのガラス瓶。透明なものと寂光のための茶色い瓶がある。それぞれから耳かき程の匙で1回分ずつすくって、グラシン紙に落としていく。果物の皮による黄、植物の根を使った白、鉱石の青、木の皮の茶色、花の蕾の薄ピンク、そして炭の色。材料が集まると、グラシン紙の上に軽く手をかざし、混ぜるようにくるくると人差し指を回す。ゆっくり回していくとやがてそれを追いかけるように粉が動き、混ざり合っていく。やがて満遍なく混ざると炭の色が強かったのか、薄い黒っぽい粉となった。それをグラシン紙ごと持ち上げると、金属製の測りの片側に乗せる。もう片側にもグラシン紙を載せ、今度は天秤が水平になるまで氷砂糖を載せていく。不揃いな大きさの塊なので、簡単には揃わない。幾度と塊を取り替えながら、わずかに氷砂糖側に針が傾いた状態で良しとした。
(飲み慣れないなら、少しくらい甘さが強い方がマシだろう。)
測り終えると、今度はその氷砂糖を小ぶりのガラスボウルに共に入れた。先ほどと同じように混ぜていくが、混ぜながら砂糖が細かく粉砕されていく。それが粉々になったところで粉類を加え、さらにまた棚から持ってきたガラス瓶から、乾燥させた花びらをひとつまみ入れる。よく乾かして粉々にしたそれは、薬の香り付だ。先ほど飲んだ粉薬が紫色だったのは、この香り付の花の色が強く出ていたせいだ。無くとも効果にそれほど差はないが、飲み口がスッキリするのでいつも入れている。良薬口に苦しとはいうものの、飲みやすいに越したことは無い。
よく混ぜると、氷砂糖の分こちらの方が白っぽくはあるが、先ほど飲んだ薬とほぼ同じ見た目になる。そこから手のひらに熱を纏わせ、さらに混ぜ続ける。熱で溶け始めた氷砂糖が周りの粉に絡み、段々と質感が重たくなってくる。それを根気よく混ぜ続けると、飴のようなひと塊りになった。今度はその塊を作業台の上に置く。大理石の天板は熱伝導率が低く、温度変化で作業しにくくなるものを扱うときは重宝している。飴状の薬を置いて素早く伸ばし、手際よく金属製のスケッパーで小さく切っていく。全て小指の爪程度の大きさ。概ね同じくらいの大きさに切り刻むと、また混ぜたときのように手を動かす。今度は指先では無く、手のひら全体で。そうすると刻んだ薬がコロコロと台の上を転がり、丸くなっていった。
(うん、こんなものかな。)
綺麗に丸く生成された薬。一見葡萄味の飴のようにも見えるそれを用意していたケースに入れようとするも、想定より少し多かったようでいくつか溢れ出る。入り切りそうな別のガラス瓶に入れ替えたところ、今度はうまく収まった。淡いアメジストのような色味をした丸薬。作業用ランプに透かしてみると、それは紫色を透けさせて輝いた。これにて猫の使い魔用胃薬の完成。いつもなら作業台の上をさっと片付けてから部屋を出るが、食べ過ぎに苦しむ辛さはわかるので、先に丸薬を飲ませるべく瓶を手に部屋を出た。
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「おかえりなさい。先にいただいていましたよ。」
リビングに戻ると爽やかなお茶の香りがした。香りの元は何かと辿っていくと、ジョージのもつマグカップに入っているものと見当がつく。
「あぁ。私にも貰えるかい?」
「もちろん。ミントを入れた紅茶ですが、同じものでよろしいですか?」
「それでこの香りだったのか。そうだね、スッキリできて良さそうだ。」
「かしこまりました。」
シャツの袖を肘まで捲り上げ、エプロン姿でマグカップを掲げる様子が絵になっている。イタリアンスーツのシルエットが映えるようにと鍛えた体は確かにモデルのようなのだが、この長い付き合いの使い魔が第一印象とは全く違った性格であることはよく知っている。もちろん、それはお互い様とも言えるが。
持ってきた瓶を手に、いまだソファで横になっている金太郎に声をかける。そのお腹の辺りでオオカミ姿のユエが黙って丸まっていたが、どうやら湯たんぽにされていたようだ。
「あんまり苦くならないように作ったから、飲んでごらん。起き上がらなくてもいいよ。」
「お水、いる?」
「口に入れたら溶けるよ。口直しに持ってきてもらうかい?」
「うん、水欲しい。」
のそのそと起き上がって金太郎が答えると、ユエはソファから降りてそのまま台所に向かっていった。
「葡萄飴みたい。もう食べられないんだけど。」
「すぐに溶けて無くなるから大丈夫だよ。ほら、一つどうぞ。」
ガラス瓶から一つ取り出したそれを、おとなしく口を開けて待っているのをみて放り込んでやる。口に含むと一瞬ぎゅっと目を瞑るが、すぐにぱちっとその大きな目を見開いた。数回瞬きすると、不思議そうに主人のもつ瓶を見つめる。
「嘘みたいにスッキリした!主、すごい!」
「苦しいのは無くなったみたいだね。」
頭をひと撫でしてやると、反射的に目を細める。そしてまた瓶と主人の顔を交互に見比べた。
「うわ、うわー!僕初めて主の薬のんだけど、こんなに早く効くの?すごい!」
「金太郎、はい、お水!元気になった?」
効き目の速さに騒いでいると、横から水の入ったコップを差し出される。礼を言って受け取り、それを一気に飲み干すと、その顔はスッキリしている。
「では、金太郎も回復したことですし、デザートが待ってますよ〜。」
「やったぁっ!おれ、まだ全然食べられますよーっ!腹はちぶんめ?ってくらいだったので、余裕です!」
「おぉ、それは良かった。水饅頭に水羊羹、あんみつ、ゼリー、あんみつ、それから果物はスイカにメロン、マンゴー、パイナップルなどが待っていますからね。」
まだまだ食べる気で盛り上がる2人を横目に、主人と黒猫は顔を見合わせた。
「さあさ、季節の食べ忘れは無いように!旬のものはどんどん食べますよっ!」




