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その正体  作者: 烏屋鳥丸
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4 収穫祭

収穫祭。

それはこの国の一大行事。年に一度の大きな祭だ。

例年は広場で収穫した作物を調理し、その年できた酒を飲みながら皆で食事をするだけのシンプルなイベントだった。

しかし、今年は一味違う。

今年は外国の収穫祭に習って、仮装した姿で菓子を配る。

王や女王、トップ7たちも様々な仮装をしてこのイベントを盛り上げる。

吸血鬼の仮装をした王、魔女の仮装をした女王。

ノエルは耳と尻尾を付けた狼男。ジャックは包帯でグルグル巻きにされたやる気のないミイラ男。焔は照れながらもフランケンシュタインを演じる。

エレナはこういうイベントはあまり得意じゃない、といつもの白衣のまま。ベルは猫耳に鈴のついた首輪を付けた猫娘という仮装した。


No.6はいつも通り不在。こういった行事には一切参加しないし、No.2のノエルにさえその存在は隠されていた。

どんな能力を持ち、どんな姿をしているのか、年齢はいくつで男なのか女なのか、それすらも知らない。

アダムは重要機密だから、言うが、No.2の自分くらいは知っておいてもいいんじゃないかと思う。

けれど、アダムにも何かしらの考えがあって秘密にしているわけで、彼の考えを尊重しようと思い、ノエルも深くは聞かなかった。


参加している子どもたちもみな思い思いの仮装をし祭を盛り上げる。

戦士たちと気軽に触れ合える機会に子供達は楽しそうな顔を見せていた。


「ノエル様〜!お菓子ください!」


白いシーツを被っただけの仮装をした子供たちがノエルの元へ駆けてくる。


「こら〜。トリックオアトリート!って言わないとダメだろう?」


「とりっくおあとりーと!」


「ふふっ、よくできました。はい、どうぞ。」


言葉の意味を理解していないのか、少し舌っ足らずなニュアンスの掛け声に笑みが溢れる。

菓子を差し出せば、子供たちからは笑顔が溢れた。


「わ〜!ありがとうノエル様!」


「次は焔様のとこいこーぜ!」


小さなオバケたちは次のターゲットを探しにまたどこかへと駆けていく。

周りを見渡せば、アダムやアンジェラも同じように子供たちと触れ合っていた。

一応今日はアンジェラの護衛として参加しているため彼女が目に届く範囲から離れることができない。

エレナやベルと少し話をしたいと思っていたが、今日はそれどころじゃなさそうだ。

それにしても、今日のアンジェラはいつもと少し雰囲気が違う。

いつもは白や淡い色合いの服を好んで着ているのに、今日は濃紺のワンピースに大きな鍔の帽子。

魔女をイメージした衣装を着る彼女は、なんだかいつもより大人びて見えた。

これはこれで可愛いな、とノエルは横目で彼女を見つめる。

不意に顔を上げた彼女と目が合うと、ノエルはわざとらしく目を背けた。

ああ、今の感じ悪いかな。

似合ってますよとか、可愛いですよとか言えばよかったかな。

でもそんな勇気はないし、変な意味に捉えられたくないし、と色々考えた結果、ノエルは何も言わないことにした。

そんな心中を知ってか知らずか、彼女が小走りに近づいてくる。


「ノエル君。」


内緒話でもするように、彼女はこっそりと耳打ちをする。


「その衣装、似合ってるわね。カッコいいわ。」


「え?!あ、ありがとうございます…!」


彼女はにっこりと微笑む。

彼女から話しかけられたことに驚いた。

しかも、カッコいいだなんて。

嬉しい。嬉しい。嬉しい。顔がニヤける。


「あの…!アンジェラさんも、その…。似合ってます!か…可愛い…です。」


ありがとう、と彼女は淑やかに笑う。

いつもなら自分から話しかけるなんて絶対できないのに、祭の雰囲気は少しだけ自分を大胆にさせた。


ーーー


日が沈み、夜になれば大人たちの時間だ。

城の大広間を開放し、盛大な立食パーティーが開かれる。

今年採れた食材を使ってシェフが腕を振るった料理が並び、大人たちは酒を片手に談笑する。

昼間の仮装とはうって変わって各々スーツやドレスの正装に身を包み、大人たちの社交場を楽しむ。

アダムもスーツに着替え、この国の王として国民たちをねぎらい、もてなす。

挨拶回りをする最中、ノエルがワイナリーの主人に捕まっているのが見えた。

彼には夜も女王の警護を頼もうと思っていたが、パーティーの寸前「さすがに夜は別の奴に変えてくれ。心臓が持たない。」とかまた意気地のないことを言い出したので仕方なしに女王の警護から任を解いた。

まぁ昼間の祭で少し彼女と話していたみたいだから、彼にしては上出来だろう。


「うちの農園で採れたブドウを使ったワインです。ノエル様も1杯どうぞ。」


「あ、いや俺は警護の仕事もあるのでアルコールはちょっと…。」


「そんな事言わずに、1杯くらいいいじゃないですか。うちのワインは絶品ですよ。」


差し出された酒にノエルは困ったように眉を下げる。

アダムはその酒を横から奪い、2人の間に割って入った。


「すまない。今日は彼に飲ませるわけにはいかないんだ。代わりに俺が頂こう。」


「王様…!いやはやそうでしたか。失礼しました。」


小声でさんきゅ、とノエルは耳打ちする。

彼は酒が全く飲めないわけではない。

けれど、こういった公式行事での飲酒は控えるように、というアダムの言いつけを律儀に守っている。

アダムはワインの注がれたグラスを傾ける。

芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。


「美味いな。酸味も少なくて飲みやすい。君は、いい仕事をするな。」


「ありがとうございます。王様に褒めていただけるなんて。」


満足そうなワイナリーの主人としばらく談笑し、キリのいいところで引き上げた。

再び挨拶回りを再開しなければとその場を後にする。

立場が立場だけあって、酒を勧められる機会が多い。

自分は酒に弱い方ではない。むしろ強い方だと自負しているが、少し飲み過ぎただろうか。

顔が熱くなっているのを自覚していた。

少し外の風にでも当たろうかと会場を出ようとすると、ベルが控えめにその袖を引いた。


「アダム様、ちょっと…。」


まだ酒が飲めない年齢の彼女にはこのパーティーの間アンジェラの警護を頼んでいたはずだが。

彼女に手を引かれるまま付いていくと、会場の隅の方で蹲っている女性を見つけた。

純白のドレスに長い金色の髪。アンジェラだ。


「どうした?気分でも悪いのか?」


彼女は顔を上げることなく弱々しく口を開く。


「ごめんなさい。ちょっと…飲み過ぎたみたい。」


「全く。ほどほどにしろと言っただろう。俺が部屋まで送っていく。」


アダムは彼女の肩と膝裏を抱き、いわゆるお姫様抱っこで彼女を抱える。

彼女は驚いたように目を見開いたが、抵抗することなくアダムに身を任せた。

羽のように軽い、とまでは言わないが華奢な身体は思ったよりも遥かに軽く、小さかった。

アダムは先日の記事を思い出す。

(滅びの魔女…。ただの人間にしか見えないが…。)


ノエルの驚いような羨ましそうなすごい顔が視界に映ったが、臆病者の彼にこの役は任せられない。

彼女を抱えるどころか近付けもしない男だ。

慌てふためき自分に助けを求める未来が目に見えている。

なら、最初からこうした方が早い。


「すまない。彼女を送り届けたらすぐ戻る。」


そう言って彼女を抱えたまま会場を出る。

アルコールが回っているせいか彼女はアダムの腕の中でうとうとと船を漕いでいた。

彼女の部屋はこの城の最上階。パーティーで色めく城の喧騒からかけ離れた静かな場所だった。

長い廊下を歩き人目がなくなった頃、アンジェラはその長い睫毛を揺らしゆっくりと目を開いた。

酒のせいかとろんとした瞳。


「目が覚めたか?もう少しで君の部屋に着くから…」


言い終わらないうちに、彼女はアダムの首に手を回しその頬にキスをした。


「おい。誰かと間違えてるぜ。」


「ん〜?うふふ。」


酔いのせいで上機嫌なのか彼女は無邪気に笑う。

本当にやっかいな酔っぱらいだ。

今のはノエルに見られなくてよかったと心からアダムは思った。

さっさと部屋に送り届けて会場に戻ろう。

そう思いながら、アダムは彼女の部屋の扉を開ける。

広い室内は綺麗に片付いていて生活感がほとんどなく、どこか寂しい印象を受けた。


「…とりあえず…ベッドでいいか?」


コクリとアンジェラは頷く。

アダムはゆっくりと彼女をベッドに降ろしてやる。

身体を離そうとすると彼女の細長い手がアダムの背中に巻き付いた。

熱い吐息が耳にかかる。


「ドレス、脱がして。」


「それはさすがに…。待ってろ、今誰か女性を呼んでくるから。」


「ダメ。今脱がせて。むね、苦しいの。」


甘えるように舌っ足らずな声で彼女は呟く。

アルコールのせいか高い体温と火照った身体。

密着した彼女からはなんだかいい香りがした。


「…酔いが覚めたら、後悔するのは君だぞ。」


アダムは彼女に抱き着かれたまま、背中に手を伸ばしファスナーを下ろす。

一番下まで下ろすと、緩んだ胸元から彼女の形のいい胸が露わになった。

月明かりに照らされた彼女はこの世のものとは思えないくらい美しく見えた。

深い蒼の瞳が自分を見つめる。

そして、彼女は妖しく微笑み、アダムの唇を奪った。

触れるだけのキスが一回。二回。三回。


「…少し酔いすぎだぜ。」


「…酔ってないって言ったら?」


「酔ってる。大人しく寝とくといいぜ。」


酔いが回っている自分には目に毒だなと思った。

露わになった胸元を隠す素振りもない彼女に、アダムはわざとらしく視線を逸らせる。


「ね、こっち見て?」


彼女はアダムの頬を両手を包み、無理矢理に目を合わせる。

吸いこまれそうな青い瞳に、頭がクラクラする。

ドクドクと、心臓が高鳴る音が響く。

彼女に見つめられると、頭が痺れるような感覚がした。

たまに感じる彼女への違和感。これは一体なんだろう。

吸い込まれるような瞳に、理性が溶けそうになる。

まるで、自分の意志を捻じ曲げるような何か。これは。


ーーーアダムは気付いた。


「ソレ、やめてくれ。」


「…それ?」


「とぼけたって無駄だせ。俺は鋭いんだ。君のその…うん、なんと表現したらいいのだろうか…」


自分は賢いノエルと違って語彙が少ない。

ぶつぶつと言葉を並べ、これを明確に表現できる言葉を必死に探す。


「焔さんの盾としての引き付け能力に似たような…いやもっと好意的な…注目…?誘惑…?」


そうか、とアダムは納得したように顔を上げる。


「魅了だ。」


違和感が言語化されたことにより、スッキリと頭が冴えていくのを感じた。


「君のその能力。意図的に他人の感情を操作して自分への好意を向けるものだろう。」


「何を言ってるかわからないわ。」


彼女は無邪気な笑みで小首を傾げる。


「誤魔化さなくていいぜ。君は感情が高ぶったり警戒心が強くなると無意識にその能力を発揮する。そして、自分の意志で望む相手により一層その能力を強く当てられる。…違うか?」


「さっきから何の話?」


「あくまで誤魔化すつもりか。だが、俺には効かないぜ。俺は鈍感だからな。」


自分の分析は間違ってはいないだろう。

それを証明するように、彼女は押し黙る。

謎に包まれた彼女の片鱗が見えた気がした。

あと少し。今この場で、全てを暴いてやる。

アダムはスーツの内ポケットに手を伸ばす。


「君は何者だ。」


彼女を押し倒し、銃口を彼女の胸に押し付ける。

中心部より少し左寄り。心臓を確実に貫ける位置だ。

彼女は顔色一つ変えずにアダムを見つめ返した。


「…驚かないんだな。」


「驚いているわ。貴方、銃も使うのね。」


「付け焼き刃だがな。」


「ふぅん。」


「護身用の小型ピストルだ。殺傷能力も充分にある。それに、この距離なら外さない。」


銃口を突きつけられているのに、彼女は怯えや恐怖する様子もない。

笑みさえ浮かべて余裕そうな表情を見せる。


「質問に答えろ。君の正体が知りたい。君は何者だ?どうして俺を誘惑しようとした?」


「酔っていたのよ。ちょっと人肌恋しかっただけ。」


「真面目に答えろ。俺は君と恋愛ごっこをするつもりはない。」


そう言うと、アンジェラは諦めたのか笑みを崩し、面白くなさそうに溜息を吐いた。


「これ、やめてくれない?大きな声を出すわよ。」


トントンと、指先でピストルを叩く。


「出せばいい。君が人を呼ぶより、俺が引き金を引くほうが早いさ。」


「じゃあ、撃ってみる?貴方に撃てるかしら?」


「撃てる。」


「そう。じゃあ試してみましょ。」


引き金に掛かったアダムの指に自身の指を重ねる。

そして彼女は口角を上げ、力を込めた。

引き金が、軋む。

反射的にアダムは銃口を上に向け、彼女の上から退く。

銃弾は発射されることはなかった。


「ダメじゃない。本当に撃つならセーフティ外しとかないと。あはっ、あははははっ。」


彼女は声を上げて笑う。


「それとも、撃つ気なんてなかった?貴方…案外臆病なのね。残念だわ。」


肝が据わっているとか、そういうレベルじゃない。

酔いが一気に冷めていく。嫌な汗が噴き出る。

月明かりに照らされた彼女は、何か恐ろしい怪物のように見えた。


「正気じゃない…。」


アダムは逃げるように彼女の部屋を飛び出した。





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