33 異形の足音
夜0時過ぎ。
この日アダムはなかなか寝付けなかった。
眩いくらいの月明かりが気になってカーテンを開けた。
窓の外からはまん丸と大きな月がアダムを照らしていた。
今宵は満月か。
そう思って月を眺めていると、ふいに外から騒がしい物音がした。
歪んだ声とカラスの羽音。
そして、遠くから聞こえる人々のざわめき。
アダムは身体を起こし、リビングへと向かう。
ベランダでは無数のカラスたちがラウムを囲んでいた。
「何かあったのか。」
その問いに、ラウムは緊張した面持ちで「すぐに全員集めて。」そう言った。
何かよくないことが起こったのだとアダムは察した。
ジャックとリリーを起こし、全員がリビングに集まる。
ラウムの口からは、意外な言葉が紡がれた。
「侵入者よ。」
「侵入者?」
「北の森から3人この国に入ったわ。」
「今この国は鎖国状態で外部からの人間は入れないんじゃ?港にも見張りの戦士がいるでしょう?」
「全員殺されたわ。」
ラウムの言葉に空気が凍る。
「敵は人間じゃない。吸血鬼よ。港の見張り番は全部で10人。一瞬のうちに殺された。」
「一体何が目的で…。」
「彼らはアンジェラを探しているみたいだわ。森を進み、街へ向かっている。駆け付けた戦士は全員殺されてるわ。」
「なるほど…これが滅びの魔女と呼ばれる所以か。」
「冗談じゃねえです。そんなヤツら、街に入ったら何しでかすかわかりませんよ。」
「そうだな、すぐ対処しよう。」
すぐに作戦会議に取り掛かった。
ラウムの情報と知識を頼りに、情報を確認する。
「相手は大人の男が1人、男の子が1人、女の子が1人の計3人。」
「人数としては少ないが…。その3人で充分アンジェラを捕縛できると考えているのだろうから、相当な実力があるんだろう。」
「そうですね。吸血鬼は俺達人間よりも遥かに身体能力が高い。加えて魔術や幻術を使う。子供に見えても油断できねえです。」
「吸血鬼の弱点はなんだ?どう倒せばいい?」
「彼らは銀を嫌うわ。彼らは多少の損傷ならすぐ傷を再生できる。けれど、銀で傷付けられたら再生が出来ないの。だから銀の銃弾が入った銃で頭や心臓を狙うか、銀で出来た刃物を使うしかないわね。」
「普通の武器ではダメなのか…厄介なんだな。」
「リリー、銀の弾丸のストックは?」
「少しだけ…。無闇に打てる数はないけど…普通の弾と併用すれば戦えなくないことない…かな。」
「貴方たちにもこれを渡しておくわ。」
ラウムがアダムとジャックに差し出したのは、銀で出来たダガーだった。
「俺、こういうの得意じゃねえんですけど。」
「ジャックはお守りだと思って持ってて。無いよりマシだわ。」
「俺も小さい武器は苦手だ。」
「仕方ないでしょ。急に銀の大剣なんて用意できないわ。それに、なにもこれでずっと戦えって言うわけじゃない。トドメとして使って。」
「なるほど。わかったぜ。」
アダムとジャックは懐にダガーをしまう。
リリーは話しを聞きながら弾丸のストックを確認し、テーブルに並べられた様々な銃器に装填していた。
「でもこれが効くのは下級の吸血鬼だけ。上位の吸血鬼にはそれほど効果がないわ。彼らを倒すためには、日光が必要よ。日光を浴びれば吸血鬼は灰になって消えるわ。」
「日光って…日が昇るまで5時間近くあるじゃねぇですか。」
「そう。だから時間を稼ぐしかないわ。」
「持久戦か…。あまり得意じゃないな。」
「動きを止めることが目的なら…足を狙うのが1番。足を狙って身動きができなくなったところを拘束して…朝が来るのを待つのはどう…かなあ…?」
「大人しく拘束されてくれればいいけどね。」
「朝まで耐えればこっちの勝ちか…。長い戦いになりそうですね…。」
「それでも俺は戦うぞ。この国の王として、俺は国を守る。」
アダムは力強い瞳で全員を見据える。
張り詰めた空気の中、ジャックは緊張感のない笑い声を上げた。
「元ですよ、元。今のお前は王じゃない。ただのアダムです。」
「そうだったな。けど、やることは変わらない。君たちもトップ7としての働きを見せてくれ。」
「お前は変わらないね。いいですよ、俺もやるときゃやる男なので。好きな女の1人や2人守ってやりますよ。」
「わ、私も!守られてばっかりは嫌だから…!守るために戦う…!」
「決まりね。厳しい戦いになるわ。みんな、くれぐれも気を付けて。」
4人は頷き、戦場へと向かった。
ーーーーーーー
「サヴァリア、ね。本当に何もない辺鄙な田舎の国だね。」
耽美を絵に描いたような風貌の男が、ゆっくりと周りを見渡しながら呟く。
「確かに面白いものも何もない。ほんと、つまらない国ねー。まあ地味な国だからこそ、身を潜めるにはちょうどよかったんでしょーね。」
桃色の髪を高い位置で括った大きな瞳の可愛らしい容姿の少女が男に同意する。
「でも、ブラッドリー様。僕たち3人だけで本当に良かったんですか…?」
露草色の髪をした少年が伏し目がちにおずおずと男の顔色を伺った。
「ここは何の能力もない人間だけが暮らす国だろう?弱い人間なんて、私達にとっては何の脅威にもならないさ、ルイス。」
「港の兵士たちもただの雑魚だったわ。人間ってほんとに無力よね。」
「油断してはいけないよ、オリビア。ここにはあのカグツチがいるんだ。」
「鬼神…カグツチ…。あの男の側に本当にアンジェラはいるのでしょうか…。」
「ルイス!アンタ私の情報が信用できないの!?」
突然のオリビアの大声に、ルイスは肩を震わせる。
「そ、そういうわけじゃ…ないけど…。カグツチはもうだいぶ歳を取ってるって…。アンジェラに捨てられててもおかしくないんじゃないかと…思って…。」
「そうだね。人間は私達と違ってすぐ老いる。彼に過去のような力は残ってないのかもしれないね。でも、可能性があるなら僕はアンジェラを探したい。彼女は僕の愛しい女神なんだ。」
「ブラッドリー様…。」
話しながら歩いていると、森が開けて街が見えてきた。
夜も更けた午前1時。
外を歩いている人間など、誰もいなかった。
「ここからは分かれて彼女を探そう。私はあの城の方へ行ってみようかな。権力が大好きな彼女のことだ。あそこが最も可能性が高い。」
ブラッドリーと呼ばれた男は街の中央に建つ大きな城を指差す。
「じゃー私は南の方から行ってみようかな。意外と静かな場所に身を隠してるのかもしれないし!」
「えっと…僕は…。」
「アンタは適当に街中虱潰しに探しなさい。ノロマなアンタでも、数撃ちゃ当たるかもよ?」
「そんな適当な…。」
オリビアの言葉にルイスは困惑するように眉を下げた。
「じゃあ2人とも、よろしく頼むね。」
「「はい!ブラッドリー様、仰せのままに。」」
こうして3人は別々の方角へと歩き出す。
サヴァリアの長い長い夜が始まった。
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