酒呑童子
そして黄鬼は再び地獄の獄卒として働く事になったのである。
黄鬼は再び、あの巨大な業火を見ながら仕事をしていた。それはまさに地獄絵図そのものだ。
焼かれ続けている亡者達を見て黄鬼は思う。
(ああ、やっぱり俺にはこっちの方が合ってるな……)
そんなことを考えながらふとあることに気付いた。
「そういえば、羅夢さんは?」と周りを見渡してみると少し離れたところで必死にシャドーウボクシングをやっていた。
「シッシッ!ジャブジャブ、ここでストレート!」などと楽しそうにやっている。
そして気付いたら、こっちに歩いてきたので黄鬼は声をかけた。
「羅夢さん!お久しぶりです!戻ってまいりました!」
そう言うと羅夢はニコッと微笑んで答えた。
「おう、お帰り。やっと戻ってこれたな」
「ええ、おかげさまで…いやー体が鈍って仕方がなかったですよ」と苦笑いしながら答えると羅夢は笑いながら言った。
「ははっ、そうだよな。まあ、ゆっくりでいいから慣れてくれよ」
そう言って羅夢は拳を握りながら構えを取った。それを見て黄鬼はゾクッとする。何という迫力だ……まるで獣のように鋭い眼光だ。
「おい黄鬼!準備運動とばかりに軽く打ち合いをするぞ!いやーこっちはお前から貰った宝石のおかげでもう体中にエネルギーが満ち溢れてさ‥何かをぶっ飛ばしたくて仕方がないんだよ」
と笑顔で言ってくる。
(えぇ~マジで言ってんの?)と顔面蒼白になりながら黄鬼は思った。
「え、ええっと……羅夢さん?俺、まだそんなに体力が回復してないんですけど……」と言ったのだが聞いていないようで……。
「そんなのいいって!亡者ぶっ飛ばしてもなーんか物足りないんだよな」
と言いながら黄鬼の前に立つ羅夢。
(駄目だこりゃ……)と思いつつも黄鬼は覚悟を決めて構えを取る。すると次の瞬間!
「うおりゃああああ!!」と言う雄叫びと共に羅夢が襲い掛かってきた。そのスピードは尋常じゃないくらい速い。
(ひえええ!やっぱ辞めときゃ良かった)と思いながらもなんとか防ぐが……
ガシィッ!!
「ほら!「ジャブ!ジャブ!ここでアッパー!」
凄まじい衝撃で頭が跳ね上がる。
更に……
ドゴォッ!!
「お次は左フックから右ストレートだ!」と目にも留まらぬ早業でボコボコにされる黄鬼であった。
「ほ、本気で殴らなくてもいいじゃないですか~」と言って抗議するが全く聞き入れてもらえない黄鬼だった。
それどころかどんどんヒートアップしていく羅夢。
そして遂に……
バキィッ!!
黄鬼は吹き飛ばされ、地面を転がりながら悶絶する。
「ぐへぇ……」と言っていると目の前に羅夢の拳が迫ってきた。
ドゴォッ!!
再び殴り飛ばされる黄鬼を見て羅夢は言った。
「おいおい、どうした?これじゃー人間サンドバッグじゃねーか。ちっとは抵抗しろよな」
「無茶言わないで下さいよ」と言うがそんな事お構いなしに羅夢は襲い掛かってくる。
そして黄鬼はサンドバッグのようにされるがままだった。
やっとのことで立ち上がる黄鬼だったがフラフラ状態だ。
(これ、いつ終わるんだろう……)と思いながらも黄鬼は再び立ち向かっていくのであった。
そして……
「はぁ……はぁ……」と肩で息をする黄鬼の姿を見て羅夢は満足そうに言った。
「まあ、こんなもんかな。よく頑張ったな!」とニヤリと笑いながら頭をポンポンと叩いてきた。
それに対して黄鬼は苦笑しながら答える。
「そ、そりゃどーもです」
そう答えるのが精一杯だった黄鬼はゆっくりと地面に倒れ込む。
「はぁ~、疲れたぁ~」と言っていると、羅夢が笑顔で近づいてきた。
「お疲れさん。さ、帰るぞ!」
「…あの…呪いのエメラルドを身につけてるのになんでそんなに元気なんですか?」
「え!ああお前は知らなかったようだな。こういう呪いのアイテムを地獄の者が身につけるとパワーアップするんだ。こんな素晴らしいもの私にくれるなんてな」
「いやあ……俺も今初めて知ったよ……はは……」と乾いた笑いを浮かべる黄鬼。
「まあ、それはさて置きさ。その代わりというのも変だけど……、何か欲しいものはないか?」
「欲しいものですか?特にはないけど……」
そう答えながら立ち上がると羅夢は
「そっか、別に物じゃなくていいんだ。何か欲しいものがあれば言ってみろ。何でもいいぞ?」と言ったので黄鬼は少し考えた後答えた。
「えっと、じゃあ俺も羅夢さんの胸触っていいかな?」
それを聞いた途端羅夢は真顔になって言った。
「ふざけてるのか?真面目に答えろ。別に物じゃなくていいんだ。何か欲しいものがあれば言ってみろよ」と言うので黄鬼は考える。
そして出た言葉は……。
「羅夢さんが欲しいです」
そう言った瞬間、踵落としが脳天に炸裂した。
「うべぇ!」と奇妙な声を上げて倒れ込む黄鬼に羅夢は
「テメー!クソが!ふざけんな!もういい。今日のところは帰らせてもらうわ」と言ってスタスタと去っていったのである。
「ちょっ!待って下さいよぉ~。今度は本気で答えますから~。現世で飲んだお酒が飲みたいんです。これは本当であります。信じてくださいであります」と言いながら立ち上がり追いかける黄鬼。
「お前何、ケロロ軍曹やってるんだよ」
「あ、いや、現世に行ったときちょっとはまってしまいまして…つい」
「そんな理由かよ……。まあ、いいけど。で?お酒が飲みたいだと?」
「はい!」と元気よく返事をする黄鬼を見て羅夢は言った。
「分かった。では明日、楽しみにしておけ」
「はい!」と言うと黄鬼はスキップしながら帰って行った。
その後ろ姿を見送りながら羅夢は
「まったく……しょうがない奴だな」
と言ってニヤリと笑うのだった。
そして次の日の事……。
「現世の酒か…さて、と。どうしたもんかな」と考えていた時、少し閃いた。
「酒呑童子の旦那ならありそうだな」
そう呟くとすぐに酒呑童子のもとに向かう事にした。そして……
「よう!酒呑の旦那!邪魔するぜ!」と言ってズカズカと入り込む羅夢に対して酒呑童子は迷惑そうに言った。
「ん?羅夢か。何の用だ?」
そう聞く酒呑童子に対して羅夢は答える。
「ああ、実はな。ちょっとした相談があって来たんだが……」
「何だ?言ってみろ」
「ああ、実はな。黄鬼がさ、現世の酒が飲みてえって言うんだよ。で、なんか持ってないか?」
そう聞くと酒呑童子は
「俺を誰だと思ってんだ!酒なんて浴びるほどあるけどな。でも渡さんよ!」と。
それを聞いた羅夢はニヤリと笑って言う。
「なら、勝負しようか?」そう言われて酒呑童子は目を丸くする。
「何?」
「勝負だよ!勝負!現世のお酒を賭けてだ」
それを聞いた酒呑童子はニヤリと笑って答えた。
「ほう……面白い!いいだろう。受けて立つぜ!」
「よし!それじゃ早速始めようか!」
こうして二人は勝負をする事になった。それは腕相撲であった。ルールは簡単。
どちらかが相手の手を机に付けたら勝ちである。
互いに全力で力を込める。グググッ……。ん!?なんだ?羅夢の力が急激に上がっていく。
「な、なんだ、羅夢の力が…あれ?今まで俺に勝ったことなんてなかったのに」と言うと羅夢は答える。
「いやあ、黄鬼の野郎にもらった呪いのエメラルドが効果覿面でねえ」
そう言って羅夢は首にかかったネックレスを見せた。緑色の宝石は妖しく輝いている。
「ふん!そんな玩具ごときに頼って……情けない奴め!」
「まあまあ、そういうなよ。勝てればいいんだよ!」
そう言ってさらに力を込める羅夢。酒呑童子も負けじと力むが……。
ググッ……
「なっ!?」酒呑童子の手がどんどん机に近づいていく。
「うおおおおおお!!」と叫びながら酒呑童子は力を振り絞る。しかし……。
ドンッ!
「勝負あり!」
羅夢の勝利だった。
「くそっ!なんたることだ……。この酒呑童子がこのような若造に敗北するとは……。しかしこれってどう見てもインチキだろ!」
と悔しそうに言う酒呑童子に対して羅夢は答える。
「はっはっは!負け惜しみはよすんだな!勝てばいいのさ!勝てばね!」
「くそったれが……」と言って舌打ちする酒呑童子に羅夢は言う。
「さ、約束通りお酒頂くよ。じゃあね!」
そう言うと羅夢は酒樽を持って自分の担当している衆合地獄までスキップして帰るのだった。




