何が「ステータス、オープン︕」よ!
「ステータス、オープン︕」
目の前で、直前にトラックに跳ねられて死んだ男が両⼿を広げて叫んでいる。
その目は「これから俺のチート無双ハーレムライフが始まる︕」と⾔わんばかりの輝きに満ちていた。
……いや、無理だから。
いくら叫んでも、君の目の前に半透明のブルーライトな画⾯なんて現れないから。
「あのー、もしもし︖ 聞こえてますかー︖」
「ステータス、オープン︕」と何度も叫ぶが何も起こらない。
(ここってチュートリアルの空間かでいいんだよな?綺麗な川も流れているし…)
しかし、川の向こうには美しい森が広がっているし、先ほどトラックに跳ねられたばかりの男は呆けた顔で突っ立っているだけだ。
遠くから何人かの人影がこちらに向かってくるのが見える。
(おっ!結構みんな可愛いじゃん。これぞハーレム展開って奴か)
「やあ、新入りさん?」
一人の女性が明るい声で話しかけてきた。緑色の髪が風になびいている。彼女の背後には数人の女性が立っている。皆一様に柔和な笑みを浮かべていた。
(やっぱり来た! もう確実に異世界転生のテンプレ通りじゃん!)
男は内心ほくそ笑みながらも、少し緊張した面持ちで答えた。そしてその子たちが近づいてきたので
「ステータス、オープン」と空を指さしどや顔で再び叫んだ。
(ステータス画面が出てくるところを見せて、優越感に浸りたいな) そう思ったものの何も起こらず、ただ虚しい沈黙だけが返ってきた。
さらに焦る様子を見せつける男だが、それに構わず一人の金髪の女性が優雅に一歩前に出た。
「また言ってる人がいるよ。流行ってるのかしら?」と水色の髪の少女が呟いた。
「ステータス、オープン!」
男はさらなる決意を持って叫ぶが、やはり何も現れない。
「なんなの?そのステータス・オープンて言うのは?最近ここへ来た人が妙に使いたがる言葉だけど」
「え!最近ここへ来た人?来た人って言うからには俺以外にも異世界転生して来た人がいるのですか?」と男性は尋ねた。
しかし誰も答えない。それどころか皆冷たい目で見つめてくるばかりだった。それに対して男性はもう一度気合を入れるよう大きく息を吸い込むと大きな声で言った。「ステータス、オープン!!!」
……
「ちょっといいかな?」と緑色の髪をした女性が話しかけてきた。
「うん?」
「異世界転生とか言ってるけどここ異世界じゃないから」
「え?」
「つまり貴方たちは幽霊と言うことですか?」と尋ねると全員が首を振った。
「違うわよ」と一人が微笑む。その隣では他の者達も頷いている様子だ。
「え!それならどこなんですか?」
「そこにある川わかる?」と指差す先には穏やかな流れのある清流があった。「三途の川と言う所らしいわ」
「じゃあここはまさか……」と言いかけて止めた。それはとても信じられないようなことだったからだ。
「天国と地獄の境目。いわゆる死後の世界と言う所ね」
「え?だってあなた達は妖精かエルフなどじゃないんですか?」男は頭を抱えながら尋ねる。
「妖精の訳ないでしょ。私の名前は羅夢。ほらこれ見ても解らない?」と自分の頭に指を指したので見てみると小さいけど角が生えているのが見えた。
(まさか‥お、鬼…げっ!)
男は驚愕し思わず後退った。「大丈夫よ」と笑顔で言ってきた瞬間、ゾクッとする恐怖を感じた。
(やばい……逃げないと殺される、いや、もう死んでるんだっけ)
と考えてさらに怯えた表情になった時、「ねぇ」と声をかけられたため振り返るとそこにはさっきとは違う雰囲気になった鬼のお姉さんが立っていた。
「貴方どうしてそんな顔をするの?もしかして私のことを怖がっている?」と言われた途端慌てるように否定するため必死になって返事をした結果、
「ごめんなさい!」と言い放ってしまった瞬間に「謝って済む問題だと思うのかしら?」という言葉と共に不気味な笑みを見せられてしまったことで心臓まで凍り付きそうな思いになる事態となったのであった。
この世界について詳しく知るために質問をすることに決めたようです。「あのー、少しお伺いしても宜しいでしょうか?」と言うと
「何?」という言葉が帰ってきました。「あのぉ~そのぅ〜ここは死後の世界と言うお話でしたよね?」と聞くと「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」と言う反応を見て少しだけホッと胸を撫で下ろしました。
「これから、どうしたらいいのでしょう?」と聞くと
「まあ、その質問に答える前にきちんと自己紹介しておくわね。さっきも言ったように私の名前は羅夢。衆合地獄の獄卒長よ。そして彼女たちは私の部下ね」
羅夢は指をパチンと鳴らし、青い髪の女性が近づいてきた。
「初めまして! 私は青嵐といいます! これからあなたの担当になるので、仲良くしてくださいね!」
(この子も可愛い……)
「青嵐ちゃん、可愛いし優しそうだし、こんな可愛い子が担当でラッキーだよ。ところで……青嵐ちゃんって“ちゃん”付けで呼んでもいいかな?」
「なれなれしくしないの!これからあなたを閻魔大王さまの所へ連れて行きます」
その言葉を聞き男は激しく拒絶しイヤイヤして地面にへばりついた。
「いい年こいた大人がイヤイヤしないの!恥ずかしいですよ。おとなしくしてください」
(この子……見た目より力強いんだな。まあ、そりゃそうか。鬼だもんね)
「さぁ、急ぎましょう。時間がありませんから」
そう言って鬼の姉さんは男の手を掴んで無理やり起き上がらせようとしてくる。男はそれを必死に抵抗しながら声を張り上げた。
「い~~や~~! 地獄へは絶対に行かないぃ~~!!」
「ふざけたこと言ってないでください! それにあなたさっき自分のステータス知りたがっていたじゃない。閻魔様の所へ行けば浄玻璃鏡でちゃんとステータス確認できるから」と笑顔の羅夢が脅してきた。ちなみに浄玻璃鏡って言うのは生前の行いを暴く不思議な鏡のことらしい。そんなもので覗かれたら変な性癖バレしちゃう……
「そうだ! なんか今思ったんですが私前世で仏教徒ではなかったと思うんですがそんな私が閻魔大王さまのところ行って大丈夫なのですか?」
「何を言っているんですか?宗教は関係ないです。そもそも閻魔大王さまは万物を見通す能力を持っているんですよ。もちろんあなたのことも分かっています。だから安心しなさい」と言ったあと一呼吸置いた後に「ただし嘘だけはつかないように。嘘だけはすぐにバレますからね」
「あとあなたの欲しがっていたチート能力って言うのもちゃんと備わっていますから」と青嵐にっこり話す。
「え?チート能力!何?何?」
と興奮している男に対し、羅夢は冷静に言葉を続ける。
「不死身の肉体よ。絶対死なないの。いや死んでるんだけどね」




