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【梱包】スキルが万能すぎて、異世界で困ることは何もありません。〜時間の止まった箱から取り出す伝説の剣と、ほかほか炊き立ての白飯〜  作者: マランパチ
第三幕:技術屋メイの物語

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第104話:沈黙の岩層、聞こえない悲鳴

 砂塵の海に消えた探索隊を待ち受けていたのは、旧時代の記録から抹消された「沈黙」の地獄でした。

 逃げ込んだ洞窟で、音を司るフラウロスの鋭敏な耳が捉えたのは、岩壁の向こう側から響く無数の「這いずる音」と、愛する者の名を騙る異形の擬態。

 五感が蹂躙され、仲間たちが次々と闇に飲まれていく極限状態。頼れるのは、不器用な空き缶の集音器と、寡黙な護衛官ルサニコフの「鼓動」だけ。

 生存率ゼロの迷宮で、少女の悲鳴が共鳴レゾナンスします。

 「……ざぁこな、嵐。……これじゃ、……あたしの波導パルスが、……全部、砂に食われちゃうじゃない。」

 フラウロスの毒舌は、もはや自分を奮い立たせるための空虚な呪文と化していた。

 レゾナンスを出発して三日。探索隊を待ち受けていたのは、旧時代の記録にすら残っていないほど苛烈な「超高密度砂嵐」だった。空は灰褐色に塗り潰され、太陽の所在すら定かではない。メイが作った特製ゴーグルは、吹き荒れる微細な石英の礫に削られ、視界は白濁した霧の中にいるように混濁していた。

 「……フラウロスお嬢さん。……無理に波導を放つのは控えてください。……今の嵐の振動係数では、……跳ね返ってくる音にノイズが混じりすぎます。」

 隣を歩くルサニコフの声が、防砂布越しに低く響く。

 彼はフラウロスの風上に立ち、その細い身体を容赦ない風圧から守るようにして歩いていた。ルサニコフの背負った荷物からは、時折、メイが作った空き缶の集音器が触れ合うカタカタという乾いた音が漏れる。その音が、今のフラウロスにとっては唯一の「正気」を繋ぎ止めるくさびだった。

 「……分かってるわよ。……分かってるけど、……歩かなきゃ、……メイに合わせる顔がないでしょ。」

 フラウロスは杖を地面に突き立てた。

 トォン。

 微かな振動を地表へ送り込む。だが、返ってくるエコーは、混濁した砂の層に乱反射し、ぐちゃぐちゃに砕けた情報の破片となって彼女の耳に届く。

 (……砂、砂、砂。……どこまで行っても、厚い砂の層。……岩盤の『骨』が見えない。……このままじゃ、……あたしたち、……底なし沼に足を踏み入れてるのと同じじゃない……。)

 「……ルサニコフさん! ……これ以上は危険です! ……隊員の一人が、……さっきから足の感覚がないって!!」

 後方から、選抜メンバーの一人が叫んだ。声は風に掻き消されそうになりながらも、切迫した恐怖を帯びている。

 若者たちの士気は、物理的な摩耗と共に限界に達していた。メイが作った「皮と鉄の鎧」は砂を噛んで嫌な軋み声を上げ、一歩進むごとに体力を奪っていく。

 ルサニコフは立ち止まり、ゴーグルの奥の目を細めて周囲を窺った。

 「……北西に、……僅かに風の回折音が変わる場所があります。……巨大な遮蔽物……岩山か、あるいは旧時代の建造物跡。……あそこで嵐をやり過ごしましょう。」

 「……ざぁこな予測ね。……あたしが、……ちゃんとデータで確かめてあげるわよ。」

 フラウロスは震える手で、首から下げた集音器の木製パーツを耳に押し当てた。

 杖を、渾身の力で岩肌らしき突起へ叩きつける。

 ――トォォォォォォン……。

 その瞬間、フラウロスの脳内に、それまでの砂のノイズとは全く異なる「質」の音が飛び込んできた。

 それは、空洞の響きだった。

 広大で、冷たく、そして……あまりにも深すぎる「虚無」の残響。

 「……あったわ。……入口よ。……中に入れば、……このクソったれな砂の音から解放される……。」

 フラウロスは、それが救いであると信じて疑わなかった。

 だが、彼女の研ぎ澄まされた聴覚は、その残響の末尾に、ごく僅かな「違和感」を捉えていた。

 (……今、……何かが、……反響エコーを吸い取った……?)

 音が、反射せずに「消えた」場所。まるで、そこにある「何か」が、フラウロスの放った波導を咀嚼し、飲み込んでしまったかのような不自然な欠落。

 「……行きましょう。……誘導してください、フラウロスお嬢さん。」

 ルサニコフが彼女の肩に手を置く。その温もりに、フラウロスは一瞬だけ思考を停止させた。

 「……ええ。……付いてきなさい。……あたしの後ろが、……一番安全なんだから。」

 一行は、砂を吐き出す口のような巨大な亀裂――「沈黙の岩層」の入り口へと滑り込んだ。

 一歩、中へ踏み出した瞬間。

 狂ったような嵐の咆哮が、プツリと断ち切られた。

 訪れたのは、心臓の鼓動が耳障りに感じるほどの、異常なまでの「静寂」。

 「……助かった……。……やっと、……静かになった……。」

 隊員の一人が、安堵の溜息を漏らし、防砂マスクを外した。

 その溜息の音が、洞窟の奥へと吸い込まれていく。

 

 スゥ……、コォ……。

 返ってきたのは、彼自身の吐息ではない。

 それは、湿り気を帯びた、何かが「粘膜を擦り合わせるような」不気味な残響。

 「……何? ……今、……誰か笑った?」

 隊員が怯えたように振り返る。

 「……誰も笑ってないわよ。……静かにしなさい。……あたしが、……状況を聴くんだから……。」

 フラウロスは、冷や汗で滑る杖をもう一度、洞窟の床へと突き立てた。

 今度は、全方位への探査波。

 

 ――トォン。

 空き缶の集音器を通じて、フラウロスの耳に届いたのは。

 岩盤の硬い音ではなかった。

 (……カチ……。……カチカチカチ……。……ズズ……、……ズズズ……ッ!!)

 それは、数千、数万の「鋭利な何か」が、岩壁を高速で這い回る音。

 あるいは、巨大な肉の塊が、狭い通路を無理やり通り抜けようとして、組織を削っている音。

 そして。

 (……あ…ア……ああ…。……フラウロスちゃん……。……助け……て……。)

 ゴム管の先から聞こえてきたのは、メイの声だった。

 否、メイの声に「擬態」した、この世の生物とは思えない、汚泥を煮詰めたような醜悪な音響の模倣。

 「――ひ、……あ、……あああああああああああああ!!」

 フラウロスは悲鳴を上げ、集音器を耳から引き剥がした。

 彼女の細い指が、恐怖で激しく痙攣し、杖が床に転がって乾いた音を立てる。

 

 「……フラウロスお嬢さん!? ……どうしました!!」

 ルサニコフが彼女を抱きとめるが、フラウロスの瞳はもはや目の前の現実を映していなかった。

 「……音が、……音が来る……!! ……地底が、……笑ってるのよ!! ……あたしたちを、……食べてる音が聞こえるのよ!!」

 暗闇の奥。

 松明の光が届かない場所で。

 カサリ、と。

 何かが「立ち上がった」音がした。


 「……フラウロスお嬢さん! しっかりしてください!!」

 ルサニコフの怒鳴り声が、洞窟の湿った空気を震わせた。しかし、その声さえも、今のフラウロスにとっては、神経を逆撫でする「暴力的な振動」にしか聞こえなかった。

 彼女は耳を両手で塞ぎ、蹲り、ガタガタと歯を鳴らした。メイがリペアしてくれた不格好な空き缶の集音器は、無残に床に転がっている。だが、ゴム管を外しても、彼女の研ぎ澄まされた聴覚は、この閉鎖空間に満ちる「異常な音」を拒絶できなかった。

 (……ズズッ、……ズズズッ……。……カサ、……カサリ……。)

 それは、数千本の節足が、湿った岩肌を這い回る音。

 あるいは、巨大な肉の袋が、重力に逆らって天井を蠢く音。

 そして何より恐ろしいのは、その「音」たちが、フラウロスの脳内で、知っているはずの誰かの声へと勝手に変換されていくことだった。

 「……フラウロス……ちゃん……、……こっち……だよ……。」

 暗闇の奥から、メイの声が聞こえる。

 「……フラウロス……、……お腹……空いたね……。」

 それはエルの声。

 けれど、そのイントネーションはどこか不自然で、音節の端々に、粘り気のある「何か」が喉に詰まったような湿ったノイズが混じっている。フラウロスの能力が、地底に潜む「正体不明の何か」が発する超低周波の振動を拾い上げ、それを彼女の記憶と無理やり共鳴させていた。

 「……嫌、……嫌ぁぁぁぁぁ!! ……来ないで! ……メイの声を、……そんな汚い音で汚さないで!!」

 「……お嬢さん、落ち着け! 松明を!!」

 ルサニコフが、腰から下げた即席の松明に火を灯した。

 シュッ、という摩擦音と共に、オレンジ色の光が爆ぜる。

 だが、その光が照らし出したのは、救いではなかった。

 洞窟の壁。そこには、数えきれないほどの「穴」が空いていた。

 それも、自然にできたものではない。何千年もかけて、小さな爪が岩を削り取り、掘り進めたような、禍々しい巣穴の群れ。

 そして、その穴の中から。

 白く、細長い、人間の指によく似た「何か」が、無数に突き出していた。

 「……ひ、……あ、……あああッ!!」

 隊員の一人が、絶叫して後退りした。

 彼の足元で、カサリ、と音がした。

 

 見れば、彼の背後の影から、音もなく這い寄ってきた「白い影」が、彼の足首を掴んでいた。

 それは、人間の形を模した、けれど顔も目も口もない、のっぺりとした肉の塊。

 「……うわぁぁぁぁ! 離せ! 離せぇぇぇ!!」

 「……待て! 隊列を崩すな!!」

 ルサニコフが叫ぶが、パニックは一瞬で伝染した。

 恐怖に駆られた隊員たちは、メイが作った皮の防具を激しく軋ませながら、闇雲に走り出した。

 「……止まれ! 闇の中に走るな!!」

 だが、ルサニコフの警告は届かない。

 隊員たちの逃げる足音、激しい呼吸音、そして防具が擦れる音。

 それらすべてが、フラウロスの耳には「怪物が獲物を追い詰める音」に増幅されて突き刺さる。

 「……あ、……あああ……。……音が、……多すぎる……。……あたしの頭が、……壊れちゃう……っ!!」

 フラウロスは、自身の能力を制御できなくなった。

 洞窟内のあらゆる振動が、彼女の脳内で「最大音量」で再生される。

 一滴の雫が落ちる音が、爆音のハンマーとなって彼女の鼓膜を叩く。

 隊員の悲鳴が、神経を焼き切る高周波の刃となって彼女の精神を切り裂く。

 「……お嬢さん。……失礼します!!」

 ルサニコフが決断した。

 彼はパニックに陥った他の隊員たちを追いかけるのを諦め、蹲るフラウロスを力任せに抱え上げた。

 「……ルサニコフ……? ……離して、……あたしに、……触らないで……!!」

 フラウロスは暴れるが、ルサニコフの腕は岩のように動かなかった。

 「……黙ってください、フラウロスお嬢さん。……耳を、僕の胸に。……僕の鼓動だけを聴いてください。……それ以外は、全部『ノイズ』だと思って捨ててください!!」

 ルサニコフは、フラウロスの頭を自分の胸当てに強く押し付けた。

 メイが作った「皮と鉄」の防具越しに。

 ドクン、ドクン、ドクン……。

 

 一定の、そして驚くほど冷静な、ルサニコフの心臓の鼓動。

 

 「……聴こえますか。……これが『現実』の音です。……あそこにいる化け物どもの音じゃない。……僕が生きて、……貴方を守ろうとしている音だ。」

 フラウロスは、無意識にルサニコフの衣服を掴んだ。

 周囲からは、逃げ惑う隊員たちが闇に飲み込まれていく、湿った「咀嚼音」が聞こえてくる。

 ガリ、ボリ。

 皮の防具が噛み砕かれ、肉が裂ける音が、エコーとなって反響する。

 

 ルサニコフは松明を振り、迫り来る「白い指」を払い除けながら、迷うことなく暗闇の深淵へと走り出した。

 「……あいつらを、……助けなくていいの……?」

 フラウロスが震える声で問う。

 「……今の僕にできるリペアは、……貴方を生かしてメイさんの元へ帰すことだけです。……他の連中の音は、……もう、聞こえません。」

 ルサニコフの声は、冷徹だった。

 だが、その冷徹さこそが、今のフラウロスにとっては唯一の「正気」の拠り所だった。

 

 背後から、何万もの「カサカサ」という音が、津波のように押し寄せてくる。

 ルサニコフの足音だけが、絶望の沈黙を切り裂き、出口のない迷宮を突き進んでいく。

 フラウロスは、目を閉じ、ルサニコフの鼓動に全神経を集中させた。

 だが、彼女の耳は……。

 ルサニコフの鼓動の裏側に、もう一つの「小さな鼓動」が混じっているのを聴き取ってしまった。

 

 (……ドクン、ドクン……、……トクトク……。)

 それは、ルサニコフの背中に張り付いた、

 目も口もない「白い指」が、彼の皮膚の下で刻んでいる音だった。


 (……ドクン、ドクン……、……トクトク……。)

 フラウロスの脳髄に、その「不純な音」が突き刺さった。

 ルサニコフの背中。メイが丹精込めてリベットを打ち込んだ皮の装甲の隙間から、白く細い「指」のような触手が、まるで吸い付くように彼の脊髄へと這い登っている。その先端がルサニコフの皮膚を割り、神経系へと接続しようとした瞬間、微かな、けれどあまりに醜悪な「吸耕音」がフラウロスの集音器に届いたのだ。

 「……ルサニコフ、……背中に……っ!!」

 「……分かっています。……ですが、止まれば終わりだ!!」

 ルサニコフは絶叫した。彼の顔面は苦痛で歪み、首筋には黒い血管が浮き出ている。異形が放つ麻痺毒か、あるいは精神汚染か。彼の意識が混濁し始めているのは明らかだった。それでもルサニコフの足は止まらない。メイがリペアした頑強なブーツが岩を蹴り、飛び散る火花が、周囲を取り囲む「顔のない白い肉塊」たちの群れを一瞬だけ照らし出す。

 「……ああ、……ア、……あああ……」

 洞窟の至る所から、行方不明になった隊員たちの「なれの果て」の声が響く。彼らはもはや人間ではなかった。白い肉の壁に取り込まれ、喉だけを震わせて、フラウロスの聴覚を狂わせる擬態音を垂れ流す「楽器」へと変えられていた。

 「……ざぁこな、化け物……!! ……あたしの耳を、……メイがくれたこの『静寂』を、……これ以上汚さないでよ!!」

 フラウロスの中で、何かが弾けた。

 恐怖の飽和点が、怒りへと転換された瞬間だった。

 彼女はルサニコフの背中で、転がっていた探査用の杖を掴み直した。メイが先端に打ち込んでくれた、不純物のない超硬合金のチップ。それが、ルサニコフの必死の疾走による振動を吸収し、不気味な青い光を帯びて共鳴し始める。

 「……ルサニコフ、……伏せなさい!!」

 「……っ、了解!!」

 ルサニコフが前方の岩場へ向かってスライディングするように身を投げ出した。

 その刹那、フラウロスは杖を洞窟の天井、最も音が反響する「一点」に向けて突き出した。

 「――波導パルス・オーバードライブ!! ……あんたたちの『嫌な音』、……全部まとめてリペアしてあげるわよ!!」

 フラウロスが全神経を集中させ、自身の喉を震わせて放ったのは、破壊の周波数だった。

 彼女の能力は、音を聴くだけではない。物質が持つ固有振動数を見極め、それを増幅し、内側から「崩壊」させる共鳴の力。

 キィィィィィィィィィィィィィィン!!

 鼓膜が破れるかのような、超高周波の絶叫が洞窟内に炸裂した。

 フラウロスが放った波導は、メイが作った集音器の真鍮膜を通ることで物理的な衝撃波へと変換され、洞窟の壁を這い回っていた数万の「白い指」を、文字通り粉々に粉砕した。

 

 ベチャッ、ベチャチャチャッ!!

 

 顔のない肉塊たちが、自分たちの身体が奏でる振動に耐えきれず、内側から弾け飛ぶ。

 ルサニコフの背中に張り付いていた触手も、フラウロスの放った至近距離の衝撃で黒焦げになり、力なく剥がれ落ちた。

 「……はぁ、……はぁ、……ざぁこ、……ざぁこな、……音……。」

 フラウロスは杖を突き立てたまま、その場に崩れ落ちた。全エネルギーを使い果たし、耳からは細い血が流れている。

 「……お嬢さん、……助かりました。」

 ルサニコフが、痺れる身体を無理やり引きずり、フラウロスを再び抱き上げた。

 背後の闇からは、まだ「再生」しようとする不気味なうねり音が聞こえてくる。だが、フラウロスの一撃で作られたわずかな「空白」が、出口への道を切り拓いていた。

 ルサニコフは、最後の力を振り絞って走り抜けた。

 前方に、僅かな、けれど決定的な「光」が見える。

 それは、砂嵐が運んできた、灰色の太陽の光。

 「――出口だ!!」

 二人は、転がるようにして洞窟の外へと飛び出した。

 直後、背後で巨大な落盤の音が響く。フラウロスが破壊した岩盤の均衡が崩れ、異形たちの巣穴を完全に押し潰したのだ。

 訪れたのは、砂嵐の咆哮。

 三日前にはあんなに疎ましかった風の音が、今は、自分たちが「生きている世界」に戻ってきた証として、愛おしくさえ感じられた。

 「……ルサニコフ。……他のみんなは……?」

 フラウロスが、震える手で集音器を再び耳に当てた。

 

 砂嵐のノイズ。風の音。

 それ以外、何も聞こえない。

 かつて共に門を出た、誇り高き探索隊員たちの足音も、呼吸も、皮の防具が擦れる音も。

 

 完全な、絶望的な沈黙。

 「……誰も、……いないわ。……あたしたち、……二人だけになっちゃった……。」

 フラウロスは、ルサニコフの胸元で声を殺して泣いた。

 ルサニコフは何も言わず、ただ彼女の震える肩を抱き、真っ白に塗り潰された地平線を見つめていた。

 方位磁石は狂い、食料も資材も半分を失った。

 何より、仲間という名の大きな財産を失った。

 資源探索隊、第一次遠征。

 それは、資源を見つけるどころか、国の「明日」を担う若者たちを地底の胃袋に捧げるという、最悪の結果から幕を開けた。

 「……帰ろう、フラウロスお嬢さん。……生きて、メイさんの元へ。」

 「……嫌よ。……このままじゃ、……帰れないわよ。……石も見つけずに、……仲間だけ死なせて……あたし、……そんな『ざぁこな報告』……絶対に、……したくない……っ!!」

 フラウロスは涙を拭い、泥にまみれた杖を、もう一度荒野の砂に突き立てた。

 耳から流れる血が、メイが刺繍してくれたミニフラッグを赤く染める。

 

 惨劇の果てに残されたのは、傷だらけの隊長と、寡黙な護衛官の二人だけ。

 けれど、フラウロスの耳は、砂嵐の咆哮を突き抜けたその先、地平線の彼方から届く、微かな「金属の反響」を捉えていた。

 それは、絶望が奏でる弔鐘か。

 それとも、血と涙のリペアが導く、真の「黄金」への鼓動か。

 二人の、本当の意味での「地獄の冒険」は、ここから加速していく。

 ご愛読、ありがとうございました!

 フラウロスの「波導パルス」が怒りとともに覚醒し、最悪の窮地を脱したものの、残されたのは傷だらけの二人と、帰らぬ仲間たちの沈黙でした。

 建国という夢の途中で突きつけられた、荒野のあまりに冷酷な「現実」。泥を啜り、仲間を失い、それでも立ち止まれない彼女たちの足音が、血に染まった砂に刻まれます。

 次回、第105話「砂の墓標、反撃の火種」。

 絶望の淵でフラウロスが捉えた微かな「金属音」。それは救いの鐘か、それとも新たな地獄の予兆か――。

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