風を描く〜絵師・英一蝶異聞〜
これは、身分、性別、時代の壁に抗い、愛と芸術を武器に、残酷な運命に立ち向かう二人の物語。彼らは、吉原という闇の中で、光を見出し、世界を変えることができるのか——。
江戸時代前期、伊勢亀山の鈴鹿の里で出会った八歳の少年・多賀一郎(のちの英一蝶)と少女・胡蝶。侍医の息子である一郎は、村の童に虐められる胡蝶の姿に胸を衝かれ、声をかける。胡蝶は、関ヶ原で西軍に与して滅んだ岡本家の末裔であり、今は水呑みに身を落としていた。だが、彼女は一郎の絵を心から褒め、「絶対、絵師になれる!」と彼の夢を引き出す。しかし、一郎の父が胡蝶の秘密(両性具有であること)を知り、二人は引き裂かれる。別れの朝、一郎は丘の上に立つ胡蝶が、赤い衣をまとって舞う姿を目に焼き付ける。それは、彼の絵師人生の原風景となる。
十一年の時が流れ、一郎は江戸で狩野派の絵師・多賀朝湖として頭角を現す。一方、胡蝶は板倉重常の陰謀により、母を殺され、自身も陵辱された末、吉原の太夫となっていた。過酷な運命に耐えながら、胡蝶は板倉への復讐を誓う。吉原で再会する二人だが、胡蝶は一郎が自身を覗き見たと思い込み、一郎は胡蝶の置かれた地獄を知る。
◇歴史的事実
江戸時代の絵師・英一蝶(はなぶさ・いっちょう)は、伊勢亀山藩(三重県)の侍医の息子で、江戸で狩野派に入門し、伝統的な絵画のみならず、市井の人々を活写した独自の風俗画で人気の絵師となる。しかし人気絶頂の元禄11年 (1698)に47歳で三宅島への流罪になるという異色の経歴も持つ。時の将軍「犬公方」徳川綱吉の生類憐れみ令を批判したからとも、吉原に出入りし大奥の関係者に女郎の身請けをさせたからとも言われるが、理由は不明。宝永6年(1709)、綱吉が亡くなると、将軍代替わりの恩赦によって江戸に戻り、それまで名乗っていた「多賀朝湖」から、画名を「英一蝶」と改める。英は母親の実家の「花房」から、蝶は、島流しされて江戸に戻ることは望み薄だったことから「胡蝶の夢」の逸話から取ったーーとの説があるが、本当の理由は本人しか分からない。そんな英一蝶と、歴史には一切名の残らない「岡本胡蝶」の物語。
江戸時代前期、伊勢亀山の鈴鹿の里で出会った八歳の少年・多賀一郎(のちの英一蝶)と少女・胡蝶。侍医の息子である一郎は、村の童に虐められる胡蝶の姿に胸を衝かれ、声をかける。胡蝶は、関ヶ原で西軍に与して滅んだ岡本家の末裔であり、今は水呑みに身を落としていた。だが、彼女は一郎の絵を心から褒め、「絶対、絵師になれる!」と彼の夢を引き出す。しかし、一郎の父が胡蝶の秘密(両性具有であること)を知り、二人は引き裂かれる。別れの朝、一郎は丘の上に立つ胡蝶が、赤い衣をまとって舞う姿を目に焼き付ける。それは、彼の絵師人生の原風景となる。
十一年の時が流れ、一郎は江戸で狩野派の絵師・多賀朝湖として頭角を現す。一方、胡蝶は板倉重常の陰謀により、母を殺され、自身も陵辱された末、吉原の太夫となっていた。過酷な運命に耐えながら、胡蝶は板倉への復讐を誓う。吉原で再会する二人だが、胡蝶は一郎が自身を覗き見たと思い込み、一郎は胡蝶の置かれた地獄を知る。
◇歴史的事実
江戸時代の絵師・英一蝶(はなぶさ・いっちょう)は、伊勢亀山藩(三重県)の侍医の息子で、江戸で狩野派に入門し、伝統的な絵画のみならず、市井の人々を活写した独自の風俗画で人気の絵師となる。しかし人気絶頂の元禄11年 (1698)に47歳で三宅島への流罪になるという異色の経歴も持つ。時の将軍「犬公方」徳川綱吉の生類憐れみ令を批判したからとも、吉原に出入りし大奥の関係者に女郎の身請けをさせたからとも言われるが、理由は不明。宝永6年(1709)、綱吉が亡くなると、将軍代替わりの恩赦によって江戸に戻り、それまで名乗っていた「多賀朝湖」から、画名を「英一蝶」と改める。英は母親の実家の「花房」から、蝶は、島流しされて江戸に戻ることは望み薄だったことから「胡蝶の夢」の逸話から取ったーーとの説があるが、本当の理由は本人しか分からない。そんな英一蝶と、歴史には一切名の残らない「岡本胡蝶」の物語。
第一章 人間の谷を渡る風
第1話 多賀一郎と岡本の姫 八歳の出会い
2025/05/12 19:00
(改)
第2話 多賀の父、母、息子
2025/05/12 19:10
(改)
第3話 十二日目の夜
2025/05/12 19:20
(改)
第4話 陰陽の娘
2025/05/12 19:30
(改)
第5話 寛文十年(1670年) 多賀一郎 十九歳
2025/05/12 19:40
(改)
第6話 狩野派宗家と画塾
2025/05/13 16:00
(改)
第7話 天国と地獄
2025/05/14 16:00
(改)
第8話 十二単の破瓜
2025/05/14 19:00
(改)
第9話 吉原へ
2025/05/15 06:00
(改)
第10話 金沢屋の秘密
2025/05/15 17:00
(改)
第11話 胡蝶の夢
2025/05/16 06:00
(改)
第12話 コチョウと胡蝶
2025/05/16 12:00
(改)
第13話 京の雁金屋、尾形の燕子花
2025/05/16 19:00
(改)
第14話 薩摩の白焼き
2025/05/17 06:00
(改)
第15話 十一年ぶりの再会
2025/05/17 12:00
(改)
第16話 天国の地獄
2025/05/17 20:00
(改)
第17話 金沢屋の目覚め
2025/05/18 06:00
(改)
第18話 芭蕉と朝湖
2025/05/18 12:00
(改)
第19話 狩野派大博覧会
2025/05/18 19:00
(改)
第20話 胡蝶の疑念
2025/05/19 06:00
(改)
第21話 吉原のルール
2025/05/19 19:00
(改)
第22話 茗荷屋出禁
2025/05/20 06:00
(改)
第23話 胡蝶の恨み
2025/05/20 19:00
(改)
第24話 平家物語大作戦
2025/05/21 06:00
(改)
第25話 勃たないあいつ
2025/05/22 12:00
(改)
第26話 胡蝶の夢
2025/05/22 19:00
(改)
第27話 板倉の正妻
2025/05/23 06:00
(改)
第28話 結ばれた二人
2025/05/23 19:00
(改)
第29話 人間の谷を渡る風を描く
2025/05/24 06:00
(改)
第30話 一郎と芭蕉
2025/05/24 19:00
(改)
第31話 それぞれの吉原(一)
2025/05/25 06:00
(改)
第32話 それぞれの吉原(ニ)
2025/05/25 19:00
(改)
第33話 江戸城 松の廊下
2025/05/26 19:00
(改)
第二章 日ノ本を変える芸術
第34話 延宝二年(1674年)狩野探幽の死
2025/05/27 19:00
(改)
第35話 吉原にて多賀一郎、胡蝶 ニ十三歳
2025/05/30 19:00
(改)
第36話 金沢屋の正体
2025/05/31 19:00
第37話 日ノ本を変える芸術(げいのわざ)
2025/06/01 19:00
第38話 胡蝶の現実
2025/06/02 19:00
第39話 狩野探幽の一人語り
2025/06/03 19:00
第40話 狩野探幽と夜ふかし
2025/06/04 19:00
(改)
第41話 探幽のアミーゴ
2025/06/05 19:00
第42話 若者の時間
2025/06/06 19:00
(改)
第43話 悪の華
2025/06/07 19:00
(改)
第44話 忍者のヒミツ
2025/06/08 19:00
(改)
第45話 絵師の性(さが)
2025/06/09 19:00
(改)
第46話 延宝三年(1675年)
2025/06/10 19:00
(改)
第47話 菱川師宣
2025/06/12 19:00
(改)
第48話 林檎と桜
2025/06/19 19:00
第49話 師宣と初音
2025/06/20 19:00
(改)