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ミッション ドールのダンジョン31階層を攻略せよ。

「30階層のガーゴイルは魔法のほぼ全てを無効にするらしい。完全魔法防御では無いから、時間を掛ければ魔法使いだけのパーティでも攻略しているらしいな。」


「どれどれー。うわ?!魔法使いのみの12名パーティで1週間が最短記録って書いてありますよ。」


1つのパーティが1週間もボス部屋を占有した事実の方に俺はショックを受けた。暴動が起きそうだと思っていると、ボス部屋の前まで辿り着いてしまう。


そしてそこにはボス部屋の前で順番待ちをするパーティがいた。嫌な予感しかしない。さっきのはフラグでは無いはずだ、そんなのは辞めて欲しい。


ボス待ちは3パーティだった。3パーティ目がやや後衛が多い気がするが、魔法使いのみのパーティでは無かった。


カレンがダメ元で合同パーティを組まないかと尋ねたが、ランク3の為の力試しだからと断られていた。


1時間ほど休憩がてら待っていたが、扉が開くそぶりは無い。時折先頭のパーティが扉に手を掛けていたから駄目なのだろう。


1組目のパーティを残して、他のパーティはその場で

簡単な食事を取ると横になりだした。なるほど、もうそんな時間なのか。


「一旦戻りましょ。」


進まない順番に、疲れもありカレンの言葉で俺達は通路を引き返していく。角を曲がり他のパーティの視線が無い事を確認するとダンジョン入り口に跳んだ。


時刻は20時ぐらいだったが、公爵様は食事もせずにフランシスカさんを待っていた。俺がメインとなってパスタと鶏肉をトマトとガーリックで煮込んだイタリアっぽい料理をつくる。それをフランシスカさんがいそいそと盛り付けてお父様へと運んでいく。


メンバーに疲れはあったが、今日だけで14階層も進んでいるのだ。十分な成果だと思うとみんな笑顔になっている。そして家のベッドで休めるのはいい。いつ敵が現れるかも知れないダンジョンで交代の見張りをする必要が無いのは身体にも精神的にも大きい。


ゆっくりと十分な睡眠を取った俺たちは、食事をすませて30階層のボス部屋の近くの通路へと跳んだ。タリリを先頭に歩いて行くと何やら騒がしい。


遠目に見ると、今ボス部屋から出て来た満身創痍の魔法使いが部屋の前に居た採掘者たちによって文字通り吊るし上げられている。


怒っている採掘者たちには見覚えがある。昨日の1組目のパーティだ。今まで待たされてキレたのだろう。


「馬鹿野郎が!どうして早く逃げなかった!!中からは開くはずだ!クソが。」


ローブの魔法使いの男を軽々と持ち上げて、文句を言い終わると無造作に手を離した。魔法使いの男は咳き込みながらも顔面をくしゃくしゃにして号泣している。


「回復してやってくれ。俺達は装備を拾ってくる。」


マリリさんの姿を目に留めた、怒っていた男は魔法使いの男のヒールを頼むと仲間と部屋の中に入って行った。


そして5分ぐらい経ち、再びボス部屋の扉が開くと男達がローブや杖を抱えて出てきた。チラッと見た感じではガーゴイルはまだ健在だった。


「ほらよ。」


「あ、ありがとうございます、ううう。」


魔法使いの男は仲間の形見となった装備品を抱えて泣き続けている。懺悔のつもりなのか男は当時のことをポツリポツリと話し出した。


「私達は5つの精霊と言う名の魔法使いだけのチームだった。魔法使いだけでここのボスを倒す事、最終的には記録を更新する事を目的に結成されたチームだ。」


「作戦は12名を各壁に盾1人とアタッカー2人の3人づつに分けて配置して、ガーゴイルを削っていく方法だった。」


「ふむ、タイトル保持者と同じ戦法だな。」


魔法使いの男は頷いて先を続ける。他の採掘者達も納得したかの様にしているが、そんな適当な戦法で1週間も保った方が異常だ。自殺行為としか見えない。


「今朝方までは12名で順調に行っていた。しかし、盾役のアルスの奴が護符の付け替えを忘れたのを切っ掛けに崩れだした。」


「盾役がいない魔法使いほど脆いものは無いからな。」


「ああ、その通りだった。残りの3人の盾役で立て直そうとしたが、アタッカーに被弾が増え護符が不足しだしたら3人が犠牲になった。だが!」


魔法使いの男は語尾を荒げ、絞り出すように叫んだ。


「突然上手く行きだした、だから…。」


「そこで引くべきだったな。守る対象が減って安定している内に。」


そうなのだ、上手くいきだしたのでは無く、盾役1人に対してアタッカーが2人以下の元の状態に戻っただけだ。12人でダメだったのだから、8人で倒せる訳が無い。この男の言う通り引くべきだった。


上手くやれていると錯覚し、欲をかいた事でチームを壊滅に追いやった原因は明らかに魔法使いの男だ。しかも自分だけは逃げ出している。


俺なら自己嫌悪マックスであーあー叫びながら走り回っているかも知れない。けどこの男は絶対に死ぬ事はしないだろうとボンヤリと感じていた。


ここでハプニングが発生した。採掘者の男がボス部屋から出た時に扉が完全に閉じていなかった為にガーゴイルが採掘者を追って扉を開けたのだった。皮肉にも形見のローブの端が挟まっていた事が引き起こした物だった。


「ヒィ?!」


「何!!」


採掘者の男は魔法使いの男のローブを掴んで、通路側へと跳んでガーゴイルと距離を開けた。仲間の採掘者も咄嗟の事で武器を確認するだけで精一杯の様だ。


「ファイア。」


ガーゴイルが顔を上げて、ローブの男をターゲットした瞬間にカレンの声と共に青白い炎が天井を焦がした。一瞬で背中の羽が燃え尽きて、ガーゴイルは重力に引かれて落下を始める。


「おお?!」


「何だこれは!」


男達が声を発した時には既にガーゴイルは消滅しており、床に落下する事すら無かった。


「先に通して貰うわ。このまま31階層に行くからいいわよね。」


カレンは男達に一言告げると、ボス部屋へと進んで行った。ハッと我に返った俺達は走って彼女を追い掛けた。


「おい?ガーゴイルの魔法での最短撃破は1週間だったよな。今のはなんだ。」


「アハハハ…。」


部屋に入って行った俺の耳には採掘者の男の太い声に掻き消されそうな、魔法使いの男の乾いた笑い声が微かに届いていた。


「コインが勿体無かったけど、あと3パーティ待つよりは良いわ。」


「ああ、俺たちにとってはラッキーだな。」


カレンは泣きそうな顔をしながらも、精一杯の明るい声を出している。あの場で11名の採掘者が命を落としているのは事実だ。形見の装備品を遺してダンジョンに吸収されてしまっている。


だから俺も努めて軽く返していく。カレンが責任を感じる必要は無い、ただ11名の採掘者達に敬意を払えばいいだけだ。



31階層からはリビングメイルにリビングウエポンだ。その名の通り動く鎧に動く武器だ。


「えーと、剣と鎧が硬くて、杖とローブが魔法に強いのよね?」


リビングメイルって名前だが、実際には銀色のフルプレートアーマーと黒色の魔法使いのローブの2種類がいる。


リビングウエポンもショートソードとロッドの2種類がいる。


それの武器と防具が単品で襲ってくるのが、この階層の特徴だ。


「杖だぞ。」


「みんな魔法に注意して。」


タリリが通路の先で発見したのは木製の杖だ。タリリが発見時にはこちらに先端を向けてクルクルと回っていた。


埃が舞いながら近づいてくる。良く目を凝らすとチリや埃が渦を巻いているのが見える。風の魔法だ。


「ストーンウォール。」


マリリさんの作り出した壁に遮られた風は、ビュウと鳴きながら、消えていった。


「ガーゴイルと違って魔法を使ってくるから、用心して進むわよ。」


次は抜き身のショートソードだ。タリリが気付く前に切っ先を向けて飛んで来ていた。それでもタリリは反応してラウンドシールドで受け流していた。


「フッ!」


ショートソードにショートソードで迎え撃っているが、タリリが打ち付けても、空中をクルクルと回りながら衝撃を逃すように飛んでいく。


そして床に打ち付けられる前に、体勢を整えたリビングウエポンは再びタリリ目指して迫ってくる。


「タリリ、エアリアルスマッシュ!」


その技も固定されていない剣には効果が薄かった。

受けた勢いをそのまま、柄の先端を中心にして回転するとタリリに強打を浴びせて来た。


タリリの右手は下がったままの為、ショートソードで迎撃するには時間がない。右半身を前にした全力な一振りだった為に左手の盾も若干距離がある。


タリリ自身も防御が間に合わないと判断し、身を固くして来たる衝撃を鎧で受けようと備えている。ミカンちゃんがメイスを間に挟もうと手を伸ばしているが間に合わない。


ガンとショートソードがタリリの鎧の肩を撃つ。衝撃と打撃音が響く。タリリはそのダメージに膝をつくが、辛うじて握っている武器を手放す事は無かった。しかし、リビングウエポンはタリリを突き刺そうと切っ先の向きを変えた。


「ヒール」


マリリさんの声と同時にガンと鈍い音が響く。それはミカンちゃんがリビングウエポンを跳ね上げた音だ。リビングウエポンは力に逆らわずにふわりと距離を置いてその衝撃を反らしていた。


ただそれだけで十分だった。


「ファイア。」


カレンの炎が鉄を溶かす。一瞬リビングウエポンは生命があるかの様に震えたが、炎には抗えずに消えて行った。


次は黒いローブが浮かんでいた。エイミーさんが鉄球を投げる。しかし当たりはするが正に暖簾に腕押し状態でダメージは入っていない。


タリリのショートソードを叩きつけても、その刀身にまとわりつくだけで、断ち切る事は困難だった。


「イライラするぞ。」


タリリはその不機嫌さを隠す事なく、足でローブの裾を踏みつけ、フードを左手で引っ張って黒いローブをピンと伸ばす。そこにショートソードを突き刺して横に力強く引いた。


ビリビリと音を立てながらローブが破れていく。すこし切り口が出来れば、左手の引く力によって次第に穴が大きくなり、千切れる前にバタバタしていた袖がパタリと力無く垂れた。


こんな泥臭い戦い方はお気に召さないようで、タリリはカレンに見つけ次第燃やしても構わないと伝えていた。

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