ミッション 領主邸を探索せよ
カレンへの怒りもあるが真面目な問題、光の精霊さんが頑張れるのはあと1時間、多くても2時間は無いだろう。それまでに領主邸の中の植物まで出来れば除去したい。
よって俺はジェシカさんに腕を組まれて走っている。ランスさんから見たら、左腕どうしたと言いたくなるような走り方だと思うが時折肘に当たる柔らかな感触を楽しむ為にも俺は走る。
「アンタ、次は四角くしなさいよ。丸いのは歩き難いわ。」
確かに只の筒状の中を走るのとは違う。切断面としてはフラットになっているが、元々蔓が無かった場所もあり、段差がついて走りにくい。
「あと、少しでロータリーですわ。もう一度お願い出来ますか。」
「あ、はい。光の精霊さん、いける?」
ポンと出て来たが寝ぼけているのか、目を擦っている。
「ちょっとだけねー。」
「ごめん、それでいいから頼む。」
「はーい。」
無理矢理、精霊さんにレーザーサーベルを作り出してもらい、刃のないショートソードを左右に振り回して屋敷の周りの植物を薙ぎ払っていく。ロータリーや外回りに有った彫刻や庭木なども一部何処かへ行ってしまったが不可抗力だ。俺は精霊に御礼を言うと、おやすみと返事が返って来た。残念ながら電池切れらしい。
「カレン、打ち止めだ。おやすみだってさ。」
「ありがと、精霊さん。」
光の精霊の手助けによってどうにか、屋敷の入口には辿り着いた。植物の内圧によって開け放たれていたドアから覗いた中の様子は外よりも植物の密度は低くタリリでも切り拓いて行けそうだった。
「フッ!ハッ!ヤア!」
タリリは全身を使いながらショートソードで通路を切り拓いて進んでいく。奥に行くに従い緑の植物が減りやや灰色がかった蔓が混じって来ている。
「どこかしら?」
「内緒でやってたなら地下室が怪しいな。しかも別棟ならば尚更怪しい。」
「けれども、これには領主邸とあるのですから、別邸では無いのかと思われますが。」
マリリさんは視界の右上の文字を指差すとカレンを見た。
「アンタ、領主の山とか別邸や領主の建物とか書いて無いわよね。」
ヨナーちゃんの時のミッションの言い回しを思い出したのかカレンは俺の読み間違いや自分勝手な解釈が無いかを気にして注意を促してきた。
「ああ、無いな。領主邸と記載があるな。」
「あのー、下の使用人の家も領主の持ち物ですよね?貸し与えているだけでー。」
ジェシカさんが恐ろしい事を言い出した。大きな意味ではこの山の建物が全て領主邸と解釈出来てしまう可能性が出て来た。
そんな俺の不安をミカンちゃんが払拭してくれる様で、黙って成り行きを見守っている。
「秘密なら下は無いです。下はみんな見るです。上は誰も来ないです。」
ミカンちゃんの考えでは使用人の家は無いと、より人の目が少ないのがこの邸宅が怪しいと判断している様だ。
「大切なら自分で何度も確認するです。」
なるほど、領主がしていた精霊石による実験結果が大切な物ならばその結果を自分自身で見るはずって事か、大事な物なら手元に置いておきたいってのも良く分かるな。とくに盗賊やモンスターが跋扈するこんな世の中なら尚更のことだ。
今の場所は玄関から真っ直ぐ入ったホールでは2階には上がらずに、そのまま奥に入って来ている。2階には俺たちが案内された食堂が有った筈だ。
目の前はT字路になっており、左に行けば客用では無い調理場からの配膳ようの2階への階段があり、右に行けば調理場、食料品倉庫、ワイン保管庫となっていた。見渡す限りでは地下への扉は見当たらない。
そしてT字路の分かれ目の壁には、不自然な大きさの手織りの絨毯が掲げられていた。模様は小さな多数の木の中に一際大きな木が一本描かれている。右下に何やら刺繍で文字が描かれていたがまるっきり読めなかった。
「ほらビンゴ!」
俺は掛け声と共に壁掛けの絨毯をめくり上げるが、そこは石の壁だった。
「何がビンゴよ。」
文句を言いながらもカレンも怪しいと思ったのか、コンコンと杖で叩いて確認している。ミカンちゃんは床をメイスで叩いている。
「あのー風の精霊さん、出て来てくれませんか。」
フランシスカさんが手のひらを合わせて、受け皿を作りながら虚空に話し掛けた。するとフランシスカさんの左の髪が後ろから前にふわりと流れた。
その風に乗るように風の精霊がするりと、手のひらに滑り込む。
「フランシスカ、何の用?」
「隠し通路を見つけられないのでしょうか?」
「隠し通路?そうね。」
風の精霊はフランシスカさんの手のひらの腕をでうつ伏せになり足をバタバタさせながら、頭をひねっている。
「風をクルクルってやって!フランシスカの周りに。」
「こうでしょうか。」
フランシスカさんは自分の周りを風が巻くように、イメージをしていく。そよ風が段々とつむじ風になっていくように。
ブワッと風が渦巻くと、プリーツスカートの裾がはためいて裏地がチラチラと見え隠れする。彼女の滑らかな金色の髪も風に乗って棚引いていく。
「おっ?!」
「何期待してるんですかー。見えませんよー。」
つい翻ったスカートにドキドキとしてしまう。もちろんジェシカさんの言う通り下着なんて見える訳が無い。彼女は黒の厚手のレギンスをスカートの下に履いているからだ。しかしそれが分かっていてもつい目が行ってしまう。
フランシスカさんはそんな視線は気にも留めずに、精霊さんをじっと見つめている。すると精霊は手のひらから滑り出ると、渦巻く風の流れに沿ってフランシスカさんの周りを2周まわるとその風に乗って2階への登り口の横の壁に向かって飛んで行く。だれもがぶつかると思ったそのとき、精霊は壁の中にスウっと入って行った。
「そちらでしたか。」
フランシスカさんは風の精霊が消えた方へと歩いていく。彼女が階段の下に辿り着いた頃、風の精霊は再び壁の隙間から顔を出した。
「ありがとうございます。」
感謝を口にすると精霊はフランシスカさんの周りを足元から頭頂部へとシュルシュルと回るといつの間にか見えなくなっていた。
「アンタ、どうやって開けるのよ。」
「ん?仕掛けがあるはずだよな。」
床を踏み鳴らしても、階段に登ったり蹴ってみたりしたが変化は無い。
(ポケットに入れますー?)
(それは最後ね、まだ時間はあるから。)
(了解でーす。)
ジェシカさんとカレンの秘密の会話に俺たちは耳を寄せていると、何やら別の囁きが聴こえてきた。
(ヨナーちゃん2人でやるです。)
(2人で?)
(そうです。特製肉厚ジューシーカツサンドは美味しいです。)
(食べる!)
あれ?ナポリタンドックやホットサンドは作ったけどカツサンドなんて作った記憶が無い。だけどこの会話はみんな聞いてない振りをしているからミカンちゃんに確認する訳にはいかない。思案に暮れていると視界の隅で両手を顔の前で合わせて俺を拝んでいる奴がいる。そう謝っているのはこの事件の容疑者ジェシカさんだった。
ジェシカさんに問い詰めたいが、2人のいないタイミングが必要だ。それは今ではないのは空気の読める俺には簡単に理解出来る事だ。
(こっちです。これです。)
ミカンちゃんが引っ張っているのは絨毯の端だ。その上には文字が書かれていいる。
(ヨナーちゃん、これが怪しいです。)
その文字はこちらの言葉に翻訳するとハッピーバースデーである。この絨毯はベリス辺境伯に誕生日プレゼントとして贈られた、平民ではとても手が出ないほど高価な逸品で有った。
(ヨナーちゃん、誕生日に欲しいです?)
ミカンちゃんの言葉にヨナーちゃんは無言で、頭を振り明確な否定の意思を表明している。その考えを見越していたミカンちゃんはこちらも無言で頷いている。
(絨毯は敷くもの。絵も変。)
ヨナーちゃんは絨毯が壁に掛かっている事が納得いかない上に、刺繍で丁寧に描かれた神聖な雰囲気の大樹にも駄目出しをしている。何が変なのか迄は俺が絵を見ただけでは分からないが。
そんな2人は見易い足元から観察していたが、今は揃って絨毯を見上げている。彼女達の身長からは3メートル近い天井の際まである絨毯の上の部分は見辛いようだ。必死に背伸びをしているがその健気な様子にホッコリとしてしまう。ミカンちゃんはやっぱりかわいいと再認識していると、当人からお呼びがかかった。
「カケル見えないです、早く下ろすです。」
「この絨毯か?」
俺は会話を聞いていない振りを意識しながら、ミカンちゃんに確認をとる。質問への回答として2人は返事の変えて、揃って絨毯を指差した。
この重そうな絨毯は壁から突き出た1点の突起に掛かっているだけだ。俺はショートソードで壁の突起に掛かっている部分を外そうとするが、腰のショートソードが見当たらない。
簡単なのはジェシカさんに一旦収納してもらい、再び出すことなのだが、ランスさんがいるからそれも憚られた。最近はポーター用の大きな背負い袋を背負って無いから予備のショートソードも直ぐに出す事は出来ない。
「タリリ、すまん。あの引っ掛かってる所、届くか?」
ならば他のショートソード保持者に頼むしかない。俺からは騎士様には頼め無いから、エセ騎士の方に頼んだ理由はただそれだけだ。
俺の頼みにも嫌な顔はせずにタリリは腰から外したささささ鞘ごとのショートソードで吊り下げている紐を引っ掛け様と試行錯誤している。鞘の先は辛うじて届いているが上手く掛からない。
「アンタ、踏み台になりなさいよ。」
「はあ?そこから椅子でも取ってくるから待て。」
何も無いダンジョンなら知れず、ここは領主邸であり、キッチンもそこだ。椅子が無くとも料理素材が入っていたであろう木箱ぐらいは残っているだろう。
食料品倉庫を覗くと壁に2メートルを超える木の棒の先端にL字の金具が付いた如何にもと言う道具が置かれているのが目に入った。それをガッと握り締めると聖剣を手に入れた勇者の如く意気揚々と戻って行った。
「ジャジャーン!どうだミカンちゃん。」
「カケルナイスです。」
まだ苦戦し続けていてくれたタリリと変わると、先端の金具に絨毯の紐を通すとズッシリとした重みを感じた。少しプルプルと震える腕を酷使しながらゆくっりと外していく。
「ねえ、アンタ。こっちの壁にも有るわよ。」
カレンが指差す頭上には確かに、壁から同じ突起が出ていた。




