093 邂逅
ユキ様の500年前の話です。
「そういえば先生はどこで高位存在と接触したんですか?」
「ん?どうした急に…」
「いえ、どこかの封印の地なのかなと…」
「ああ、そういうことか。…そっか、今は地図や歴史に無いからね」
智者の洞窟。ロンド大陸の東にある洞窟。その際奥に知識の泉があった。ネタバレしてしまえばそこに安置されていたのはアオだった。コイツ泉の中に沈んでやんの。
あの時は未だ私も知識探求をしている一介の魔術師だった。力が欲しい、高度な魔術が欲しいとあがいていた。当時は高等魔法は軍事力に直結するものだったので、当然軍関係者にしか開示されない。軍に入れば退役後も監視される。しかも、高度な魔術といっても偏りが激しく、ある国では炎系のみだったり、ある国では風系の伝承しか残っていなかったり…。
魔法には属性の相性がある。それを無視すれば、1流魔導師もヒラ魔術師になってしまう。が、ボタンを掛け違えてしまうとなかなか戻すことはできない。
そうすると、独自での研究しか方法は無い。今も若干そうだが、エルフと人族の関係も淡白で、教えを請うとかありえなかった。という訳で私は伝説に頼ることにした。
知識の泉。そこには神の知識と謳われる大いな禁書が眠っている。その噂を頼りに世界を旅していた。
人族以外の種族に恩を売り、情報を集める。ドワーフの時は希少な酒を。ホビットの時には甘いお菓子を。といった感じでとうとうその場所らしいところを突き止めて、単独探索した。
この洞窟は複雑で、途中地底湖があったり、飛空が無いと先に進めなかったりと行き止まりと思うところにはいやらしい感じで先があった。
そして最奥の知識の泉にたどり着く。
それらしいクリスタルを泉から引き上げるとアオが頭の中に直接語りかけてきた。
「…覚醒するのは3000年ぶりかしら。貴方は誰?」
とりあえず名乗り、私は矢継ぎ早に質問をしていた時にアオがイタズラっぽく語ってきた。
「神の知識…貴方は本当に欲しいの?」
「…欲しい!」
「死んじゃうかもしれないわよ?」
「かまわない…とは言わないが、目の前にあるのに手を伸ばさないヤツはいるのか?」
「好奇心旺盛ね!果たして猫を殺しちゃうのかしら?もう一度聞くわよ?貴方は不相応の力を死を覚悟で望むのね?」
「…ああ!」
このまま帰ってしまったら絶対後悔するだろう。もし知識を得られなければ生きていけるかもしれないが、魔術師としては終わるだろう。ならばここで賭けに出るのも悪くない!魔術を捨て、女1人で生きるにはこの世界は甘くない!ただでさえこの容姿の所為で襲われかけたのは数知れずなのだ。
「じゃあ、私に触れて」
「わかった」
私は両手でアオに触れる。っと、なんだ⁈
頭の中…いや身体中に何かが入ってくる!見たことの無い景色や、色、形、なんだ…、パンクする‼︎
私は両手を思いっきり離す!
「…へぇ、まだ正気を保っているんだ?」
「……」
話す気力も無くひっくり返っているとフッと周りの光が消えた。
「え?なんで?ま、まさかご降臨‼︎」
アオが震えるような声で叫ぶ。
真っ暗になったと思えば私を中心に光だす。虹色?なんだろう。色という色が混ざり合って…。
っ‼︎‼︎‼︎
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁあぁ‼︎‼︎」
頭がっ、身体がっ!さっきの比ではない!溢れて溢れる、無理無理無理むりむむりっっ‼︎‼︎
「♭〻‖‡》‥†﹆⊿‼︎」
『 』
「∇∃Å∫ヾ」
…津波の様な濁流は少し収まり川の流れくらいになった。…さっきよりもなんか分かる気がする…。
「今、私を介して神さまの意識を伝えているから…」
『ॐ 』
「‼︎→≒∝」
まるで私の身体が私じゃ無いような、浮遊感?相変わらず頭が割れるように痛い!しかし流れてくるのは膨大な知識‼︎
私という存在が無くなる寸前で終わった!痛い感じは変わらないが知識の濁流はすでに無い。
この世界は、いや、宇宙は神‥いやこの高位の存在に創られた。それも気まぐれのような感じで!いやそれも違う!気まぐれというより…、好奇心?
そして飽きたら全てを無くす用意もあった。この世界はなんとも脆く…。
これが絶対者ということか!
「…どうやら意識はあるようね。貴方は神に触れた。いわゆる『接触者』になったわ!」
「接触者?」
「要するに、神さまに気に入られたってことよ!」
気に入られた?
なんだろう、あまり嬉しく無い気がする。
「私は『使徒』。神さまの意思をこの世界で具現するために作られた存在よ。今後は、貴方の元にいるから」
「…つまり、持って帰れってことか?」
「そうよ。よろしくね。ああ、でもしばらくはまた眠りにつくから…、次は300年後くらいかしら?」
うーむ、このまま放置するのもヤバイ気がするから持って帰るか
「ああ、この洞窟はもう少ししたら崩れるから早く脱出したほうがいいわよ?」
「それを早く言えっ!」
といっても、すでにこの世界の魔法は全て使える!私は天井に向かって手をかざし魔方陣を描く。地上まで一直線に穴が空き飛空する。脱出した後すぐに地盤沈下が起こり洞窟は跡形もない。
とりあえず、アオのクリスタルは回収したので当面は持ち歩くか…。
こうして私は高位存在の知識を手に入れた。
「てな感じだったか?」
「はー、そんなことがあったのですね!」
「…私はもう少し優しかったわよ。ユキちゃん?」
「そうか?今とあまり変わらない気がするが…」
アオが私の回想に文句をつける。だいたい合っていると思うが…。
500年経ってもあの時のことは忘れない。というか忘れられない…。まぁ、アレがあったから今に繋がっているのだから、あの選択に後悔はしていない。
今後何があろうとも!
この時点でユキ様は最強になりました。




