060 勇者
59話の続きです。
ムスターファ視点です。
ムスターファは昨日の夜から大忙しである。カッツネラ教国から、勇者が現れたと報告があったのだ。だが、勇者本人は行方知れず。カッツネラ教国の強い要請により世界会議の開催をすることになった。緊急なので全ての国という訳にはいかない。
その4時間後…。
「で、勇者は何処におるのだ?」
「100年ぶりの勇者だ!とうとう魔王を倒すのか?」
「いや、魔族は最近おとなしい…。何をする勇者なんだ?」
各国の代表も勇者の出現に興味があるようだ。
そしてカッツネラ教国の代表である教皇が口を開く。
「勇者は出現した…、ようだ」
「ようだ?」
「何をいっているんだ?」
「我が国の、いや、世界の宝である聖剣が自ら鞘から抜けて勇者の元へ飛んで行ったのだ!これは久方ぶりの勇者出現に聖剣が向かって行ったという事だ!」
「…、つまり、聖剣が無くなった…と?」
「無くなってはいない!勇者の元にあるはず!幸い鞘が残っている。ということは勇者は自ずと鞘の元へやってくるはず!」
代表達は騒つく…。それもそのはず。聖剣が所在不明なのだ!
「では勇者は何処にいるのだ?」
「…偉大な神の御意志は私如きには判りかねる」
「…御身は教皇では無かったのか?その発言は問題だぞ?」
「いや、決してそのような意味では…」
ムスターファはイラっとして両手を叩いてパン!と音を鳴らす。
「とりあえず、勇者の出現は保留。聖剣の所在を確認するにあたって各国の協力を求める!」
「なっ、ムスターファ卿、勇者の存在を保留などと、不敬であるぞ!」
「誰も確認していない勇者などいないも当然!そもそも勇者認定は私の役目だ!異議があるならばこの場に連れてくるがいい!」
「……」
「真贋判定は鞘で行う!各国は抜身の剣を持つ者、最近新たな剣を手に入れた者に聞き込みをすること!」
久しぶりにキレた!何百年ぶりだろう?
「さて、教皇には聖剣が飛び去った状況を詳細に語ってもらおう」
「…って事なんですがユキ様も協力して頂けませんか?」
「やだ、めんどくさいから!」
即座にユキ様は否定する。この冷たい態度にドッキっとする。
「そんなことを言わずに…」
「各国が動いているのだろう?私の影も少数だし…今回はやらないから!」
まぁ、確かにユキ様の勢力は腕利きだが、数は少ない。今行なっている仕事を考えると無理は言えないか…。
「わかりました。それではこの件は各国に任せましょう。しかし…」
「なんだ?何か不満なのか?」
「いや、今更勇者が本当に出現したのかと…」
「ああ、聖剣の持ち主か」
「なんのための勇者なのかわかりませんし…。聖剣もカッツネラ教国の秘密保持でよくわかりませんし…」
「まぁ、人の世のことはお前に任せる。じゃあ…」
「あっ、お茶のお代わりでも…」
ユキ様は素っ気なく帰還してしまった。
まぁ、ユキ様も勇者にはあまりいい思い出が無いのだろう。今回はこちらで頑張るしかないようだ。
とはいえ勇者か…。鞘が抜けた時点で他者の犯行の線は無いし…。一体聖剣とはなんなのだろう?
ムスターファ…相変わらずである。




