037 大虐殺
26話の続きです。
バーン帝国のドワーフ王国への侵攻はまだ終わってはいなかった。
様子見だったのだが、帝国内で新たな行軍の動きがあるようだ。
まぁ、追っ払ったと言ってもあの時は死者はほとんど無かったのだから兵を再編するのは容易だったのだろう。
もともとバーン帝国は他国を攻めることで自国を潤してきた軍事国家だ。そんな国に戦争はダメだと言っても聞き入れてはもらえない。
「うーん、ここは実力行使しかないのではないか?」
「しかし、そうなると明確にユキ様が状況に干渉した事になりますがよろしいので?」
「まぁ、この間は新術の実験というかたちで体裁は繕ったが…、いいんじゃない?」
「天魔の魔女の名に傷が付く事になりますよ?」
「今更?まぁ最近私も舐められてるのでチョット存在感を出した方がいいかなーって感じ?」
「ユキ様…」
ムスターファは心配性である。
「くれぐれも本気は出さないで下さいね!それと、大陸の地形を変えちゃダメですからね!」
「そっちかよ!」
さて、ムスターファにクギを刺されたので『流星群』は使えない…。楽なのに…。
今回はマールとミクはお留守番だ。特にマールは過去のこととはいえバーン帝国には悪感情しかない。ミクの影響も考慮すると同行させない方がいいだろう。
私は眼下にバーン帝国軍を見下ろしている。場所はバーン帝国内の平野。7軍が列をなして北上している。
今回は殺戮が目的である。人の世は綺麗事だけでは生きていけない。軍に志願した以上死ぬこともあり得る。
一応最後通告はしてみる。『拡声』を展開して告げる。
「私は天魔の魔女である。バーン帝国軍に告げる。これより大虐殺を開始する。死にたく無い者は武器を捨て逃げろ。逃げる者は見逃してやる。逆に刃向かうものには容赦はしない!10秒待つ。賢明な判断に期待する」
しばらく軍の兵士は茫然としていたが、武器を捨て逃げようとする兵が指揮官らしい者に粛清されているようだ…。
「惑わされるな!逃げ出す者は私が許さん!」
そーなるだろうな。よし10秒経ったし…。
私はドワーフ達から粗悪品の剣を200本もらってきていた。どうせ今回にしか使わないし…。『指揮』を使い地面に刺さっていた剣が宙に浮かせ、剣を私の周りに円を描くように展開した。おそらく、下にいる兵士には剣の中心にいる私は剣の女神のように見えてるんじゃないか?
なんだか怯えているようだが…。
私は指揮官を指差して…。
「『射撃』」
1本の剣が錐揉みしながら指揮官をえぐる。
指揮官は悲鳴をあげることも出来ずに馬上から落ちる。
「『加速』」
その剣はさらに加速して近くにいる兵士を斬りつける。
「『重複』」
さらに50本の剣が追加される。これで1軍は半壊状態だが右翼の方から私に向かって矢が放たれていた。
「『指揮』」
展開している剣を制御して高速で回転させる。
キンキンキンキン…。私の周りに3重の回転する剣の盾が矢を次々に撃ち落とし、ついでに超高速で剣を1本撃ち出す。
ドゴォォン!!弓兵のいた辺りはクレーターになった。
…やっぱりめんどくさいな、ケリをつけるか!
私は剣を戻し旋回させると兵士がかたまっているところを狙って『電磁砲』の術式を展開する。今回は鉄球ではなく剣。空気抵抗は以前より激しいはず。つまりプラズマが縦横無尽に7軍に襲いかかるということだ!
バリバリバリバリっ!
ズドドドドドドドド‼︎‼︎‼︎
平野に200のクレーターが出来て巨大な盆地が形成された。土煙が舞い、戦闘地震が起きている。震度5といったとこか。
もはやバーン帝国全軍はほぼ壊滅状態。かろうじて生き残っている者は味方の死体を足蹴に逃げ出す。前言の通り追撃はしない。この先バーン帝国兵の中で私を敵に回す者はいないだろう。
問題は解決したが、数万の人間が1時間もせずに死んでいったのだ、いい気分ではない。
餞代わりに私は『獄炎』を盆地に落とす。3日はこの辺りは炎に包まれる。これで死体も腐ることはないだろう。遺族には悪いが盛大な火葬をする。
今回のことでバーン帝国はドワーフ王国への進軍は諦めしばらくは弱体した軍の立て直しに追われる事になるだろう。
戦争は多くの物を奪い奪われます。




