029 日常
ユキ様の日常。
「ユキ様、少しよろしいでしょうか」
麓の村長がうちに来た。村長といっても『影』の先代リーダーである。私との付き合いもそれなりに長い。
「どうしたシグレ、ウチに来るなど珍しいな」
「実は2日前くらいから結界の前にたむろする集団がいまして、放置するのもどうかと思いご相談に参りました」
ふむ、結界の外からは中を伺うことはできない…。外からは世界樹は見えないのだ。
が、内側からは丸見えである。
「この場所を突き止めたのか…何者だ?」
「どうやら真魔王と名乗っております」
「魔王?魔族の国とは別件か?」
「おそらくは…如何しましょう?追っ払いますか?」
うみゅ、何やらメンドくさそうだが…。
「シグレ、お前は引退した身だろう?そんな厄介事に関わらなくていいんだよ」
「なんの、まだまだ若い者には負けませぬぞ!」
「うん、その力は村の危機があった時に使ってくれ。今回は私が行く!」
「ハッ!」
「ところでその自称魔王は何処にいるんだ?」
私とマールとミクは世界樹の南の街道沿いにいる魔王と対峙した。
「フン、貴様が天魔の魔女かっ!我こそは世界を滅ぼす者である!ひれ伏すがいい!」
…、酒も薬も使わずこのテンション。ある意味スゴいと感心してしまう。
「どうした、恐怖で言葉も出ないか。見れば中々の器量だ。魔王様、よろしければ私にこの女を頂けませんか?」
取り巻き3人にうち1人の戦士が下卑た視線で私を見ている。
「ああ、いいだろう!私は銀髪の方が好みだ!」
うわぁ、コイツロリコンかっ!
マールの顔が引きつっている。
うちの場所をどうやって知ったか聞きたかったがもういいや。
「目障りだ!消えろ!!」
私は『風圧』を最大で放った。
自称魔王達は悲鳴をあげることもできずに空の彼方へ消えて行った。
魔王を名乗るくらいなのだから、それだけでは死にはしないだろう。もっとも上空5000mから帰還できる実力があればだが…。まぁもう会うコトもあるまい。
「さ、帰るか…」
「そうですね」
「今日のお茶菓子はなんだい?」
「今日はシフォンケーキですよ!」
「ヤッター!」
「うみゅ!」
今日も平和な1日である。
名乗る間も無く星となった真魔王。




