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第7層「集落へ」

 翌日、迷宮の入り口前で欠伸をしていたジャックスに昨夜のことを伝える。


「へぇ~、いいんじゃねぇか?」


 と納得したので、一応あんたも護衛役やその自慢の鼻役として連れて行くからと伝えた。快諾した彼を連れて部屋に戻り、前日寝る前に作った紐が短めでそこそこ大きめのショルダーバッグを渡した。迷宮前の森側以外の場所での薬草採取や山菜集めの意味もある。


 俺たちは水や途中休憩用にと弁当代わりの干し肉と、

 贈呈用の毛皮やら肉などを準備して出発した。


 アベさん情報では、迷宮入り口の洞穴のある岩山沿いを辿ってぐるっと周り岩山の上に出ると、少なくない魔物とかもいるとのことだった。そのためにジャックスには火炎包丁を渡している。

 同じような薬草があったり、見たことがない毒々しい野草があったりもしたので、ジャックスやアベさんが分かる範囲で採取していくことにした。


 途中途中に魔物がこちらに顔を見せることもあった。


「あの狼はあんたの親だろ?......ほら、母さんに笑顔みせてやれよ」


「なわけねぇだろ!」


 そんなやり取りをしながら西北西のほうでこちらの様子を伺う魔物は、ジャックスによれば『ウルグルフ』という種類の馬くらいの大きさの狼だった。見た目は狼だが、影のように黒く艶やかな毛並みでうっすらと全体に白い線が走っている。尻尾の部分は白と黒の斑のようになっていて全体的に見ればとてもかっこいい勇ましさが伺えた。

 強さ的にも、素早さと牙の鋭さからして相当なのだが帝国や自分の出生地にいたモノよりも今見かけているものは大きくて実力も相当ありそうとのことだ。


 しかし、彼らはアベさんの影響力か遠くから見るだけで襲ってはこないようだった。ちなみにアベさんがたまに狩ってくる猪は『バーゲージ』と呼ばれるやつでこれも3mを超えるような大きさじゃないそうだ。

 まぁ、あの猪は誰であろうとも突撃してくることから『突撃猪』や『突貫兵』という呼ばれ方もしているそうだが。


 しかし、未開拓地域という理由にジャックスは納得したそうだ。

 こんなやつらがいる森では誰も入りたがらないだろうということらしい。アベさんによれば、『オウルバード』と呼ばれる羽を広げれば2mはあるほどの大きい梟もいるそうだし。そいつは、人も獣も魔物もかまわずに襲ってくるようだ。


 そんな魔物談義をしながら2時間ほど歩いたところで一旦休憩を取り、改めて北の方角を見ると昨日ジャックスが言っていた山脈が見える。

 彼のいうあの山脈の向こうに宗教国家があるのだろう。ここ最近気温が下がったのか、俺には感じることはできないがその頂にはうっすらと白いものが見え隠れしているのが見て取れた。


「なぁ、ここらへんって雪とか降るのか?」


 気になったので、ジャックスに聞いてみると、


「ああ。あっちじゃあ降り出しは水瓶月後半くらいだった、な。ここもおんなじようなもんだろ?」


 といって、干し肉をバチンっといい音で噛み千切って咀嚼した。

 西側とここの距離が分からないので、鵜呑みにできる参考ではないのが、雪も降るかもしれないと頭に入れておこう。


 てか、冬の季節があるのなら、押入れから冬服用の生地の厚いジャージを早めに取り出さないといけないなと思った。


 ちなみにジャックスの服は、血とかでひどいことになったので、それを素材に

 押し合いへし合いで大量に余った魔物の皮をプラスして錬金術式練成(アルケミクリエイト)で作ったジャケットのようなものを着させている。下は皮の短パンで動きが阻害されないように元々彼の履いていたズボンを参考に作った。


「あとどれくらいかかるの?アベさん」


「ガウ」


 爪を2本立てたのでどうやら、あと2時間ほどのようだ。

 それくらいなら体力が持つな。


 マスコミの嫌がらせのような張り込みで、すっかり外に出ることができなかった俺の体力は落ちに落ちていたので、17という年齢からは考えられないくらい下がっていた。帰ったら体力トレーニングもしないとな。

 何より、出来上がった迷宮をテストしなければいけないし。


 よし。さっさと終わらせるか。

 と、俺は立ち上がって出発することにした。


 2時間ほどのアベさんの案内で向かっていると、前に何やら囲いのような一部が見えてきた。

 双眼鏡で木で作った柵のようなものが見える。アベさんの言っていた集落のようだ。そんなことを思っていると、ジャックスがまじかよーと声に出して呟いた。


「ん?どういうことだ?」


双眼鏡から外して、ジャックスに驚いている理由を聞く。


「いやよ、もう一つここらへんが未開拓地域に指定されている理由が納得できたってことだ――ありゃ大鬼族の集落だぜ。てか、小人族もいるな」


 何が納得できたか聞いて見ると――


 大鬼族は元々人間を捕食するという種族のようで、ここらへんに人族が住んでいないのも彼らが原因であると言うようだ。

 つまり、驚いたのはそこの部分のみで小人族に関しては別に驚いているわけじゃないらしい。

 小人族はその小さい体躯を生かして、器用な物作りやらそういうのができる一方で力は非力なため、自衛ができない種族で大鬼族のような力のある種族の庇護の下じゃないと生きていけないそうだ。つまりは器用さを武器に力ある種族と共生する種族だとジャックスは語った。


 てか、双眼鏡もなしによく見えるな。


 ジャックスから話しを聞いてから改めて双眼鏡の倍率を調整してみると、巨人ともいうべき魔物の皮製のようなボロい服を着た3mの大男が入り口で2人周囲を伺っている。たまに見えるちょろちょろと動く小さいのが小人族だろう。


「アベさんが大丈夫だって言ってるんだ。大丈夫だろう?」


「まぁ、旦那が言うんだったら間違いねぇけどよ」


「ガウガウ」


 俺の言葉に、ジャックスが納得してアベさんが同意したようにコクコクと頷いた。


 アベさんが先を行くように前を歩き俺が真中で、護衛用に後ろからジャックスが周囲を警戒しながらその入り口へと歩みを進めた。


 入り口の前に立つと、その大きさが分かる。

 おそらく両方とも3mはあるだろう。岩のような肉体に岩のような顔、下あごから突き出た5cmくらいの牙が恐ろしさを醸し出している。

 髪はなく、両人ともつるっつるだった。


 そんな2人はアベさんを見て久しく頭を垂れた。

 ここにも力関係があるようだった。

 しかし、そう感じた俺へ向けた目は完全に食料を見るものだったのは間違いなかった。


 アベさんがガウガウとその2人に声をかけると、俺にもう一度一瞥をした後でどうぞどうぞという感じで集落の中へ案内してきた。

 敵意って感じじゃなかったから微妙っちゃあ微妙だな。


「すっかり俺は食料の視線だったよ、ジャックス」


「し、しかたねぇよ」


 なんというか、ジャックスもさすがにビビッて入る様子で尻尾がまたの間にキュンっと挟み込んでいた。


 まぁ、気持ちは分かる。

 今でも周囲からビシビシとプレデターが襲い掛かってくるような気がしてくるからだ。

 圧倒的な信頼感を持っているアベさんが同行していなければ、絶対に来たくないところだ。


 代わりにちょろちょろと自分の元へ来ては珍しげに見上げくる小人族。

 耳はややとがっていて、鼻も少しとがっていて体格も軽いせいか細身でまるで小学校に入りたての園児くらいの身長しかない。

 たまに大鬼族の肩に乗って移動している小人族を見ると、関係は非常に良好なように感じる。


 その2人も一方は捕食者、一方は珍しげと反応は全く逆なんだけど。


 そうしている間にも、俺は回りの建築物に目をやるとどれもきちんとした木造の家のように思えた。大鬼族たちの体躯に合う形でそれはとても大きいものだたが。その横にはおまけ程度というか、小さい木造の家があるのでそこが小人族の家だと思った。どれも円柱の形になっているのが印象的だった。

勝手に近寄って、食料と見ている様子の彼らに要らぬ刺激を与えることになると考え遠目に見る限りだが、どれもこれもきちんとした作りであるように思えた。

なるほどな、これが彼らの手先が器用ということか。


失礼ながらもチラチラと見る大鬼族にこれらが作れるとはとても思えない。

それほど精巧な作りに見えるからだ。


そんなことを考えつつ、しばらく歩くと広場らしきところの先に一段と大きい家が見えた。あそこが長の家なんだろう。そのまま歩いていくと、木造の円柱となったところに藁のようなものが全体に放射状に乗せられた家まで辿り着いた。

テレビで外国の遊牧民が暮らしているゲルとかいう家にそっくりだった。


 どの家も基本的に4mの高さがありそれなりに大きい家が多かったが、ここはそれ以上に広そうだった。

 

 だいたい2階建て5部屋のアパートくらいの積み木を真ん中でつまみ、ぐるっと回転させて円を描いたらこれくらいはなりそうだと思えた。


 大鬼族が1人中に入り、しばらくすると出てきて中へ入るように促す。

 アベさんはガウっと右手を挙げると俺のほうへ向いて頷くと先行して先に入った。

 俺とジャックスも続いて中に入ると、中はとても広く感じた。奥行きがあり、前を見ると何やら中央のほうに毛皮のようなものが敷き詰められて、中央で誰かが座ってこちらを見ていた。そこまで歩いていくと、すぐ目の前には何やら柔らかそうな藁で編んだかのような茣蓙の上に長い髭を生やした大鬼族が座ってこちらを睨んでいた。


 そう、見ていたのではなく睨んでいた。

 ――俺を。


 アベさんはそれに気付いたのか、足を地面に叩きつけるように踏み込んだ。

 すると睨んでいた長らしき大鬼族は俺から視線をアベさんに逸らすと、コクンと頷き静かに目線を下げた。


「............ヨウコソ、イラッシャッタキャクジン。スワッテクレ」


 と言われたが、あの睨みが気に入らなかった俺は座りもせずに警戒も怠らなかった。

 あれは完全に敵意だったからだ。


「............完全に客人をもてなすような視線じゃなかったくせに、

 ようこそとは笑わせるな。じいさん」


 許せなかった。

 アベさんがせっかく良かれと思って案内してくれた気遣いを潰したこいつを。


 俺の言葉に長のような大鬼族はまた同じような目を向ける。

 周囲の空気もどんどんと悪くなるのが分かる。

 何せ、後ろから俺たちの後ろからついてきているらしい大鬼族たちから素人でも分かるすごい威圧感襲ってくるのだから。

 しかしそれでも引くことはできなかった。


 俺はあらん限りに睨み、相手も俺を睨む。

 そのまま平行線かに見えた睨み合いに唐突な終止符が打たれた。


 軽く頭をアベさんに小突かれたのだ。


「あ、アベさん?」


「ガウガウ」


 まぁまぁ落ち着けよとでもいうようなアベさんの態度に俺は息を吐いた。

 しかし、その瞬間――


 ばっと動いたアベさんは長へその自慢の右爪を向けて、先ほどの大鬼族たちの放つ威圧感とは次元の違うものを発した。

 それには堪らず俺もジャックスも喉を鳴らす。


 しかしそれ以上に、直接向けられた長っぽい大鬼族は顔面蒼白だった。


「モ、モウシワケナイ。キ、キデンノキゲンヲソコネタコトコノトオリダ」


 慌ててアベさんに頭を垂れた。


 その態度にさすがに俺もバカらしくなって、座って落ち着いた。

 アベさんに謝ったのならそれでいいと思ったし。


 と、仕切り直したところで俺は簡潔に話した。

 迷宮運営をすること、そこで人材を必要としていることなど。

 そして先ほどから俺へ向けられた食料的な視点から考えた利点などを。


「......ツマリ、オマエハソノメイキュウトヤラデニンゲンヲオビキヨセルモノをツクリワレワレハソコデシンダモノヲショクスルコトガデキル............ト?」


「そういうことだ」


 意外に頭は悪くないらしい。

 俺のイメージでは、オーガって言えば鈍重で頭も悪く、ただ力が強い暴れん坊のイメージだったからだけど。


「ああ、それから......金は出せないしあんたらの大好物の人族もまだまだ用意できないが、牛や豚の魔物の肉は腐るほど用意できる」


「カネナドフヨウダ。ワレワレハモノトモノノヤリトリヲスル」


 どうやらそういうことらしい。

 それならまだ望みがあるようだが......


「オマエノハナシハワカッタ。シカシ、ワシヒトリデキメルコトハデキヌカラ。

 イチゾクノモノトイチドハナスコトニスル。ハズレニヤドトナルトコロガアル。ソコヘイケ」


 一族会議というやつか。

 一泊くらいなら別に構わないと思った俺は同意して、案内役を連れて長の家を去った。


 そこから東のほうへしばらく歩いていくと、誰も近寄らないようにぽつんと立てられた藁のような家が見えてきた。どうやらあそこが本日の宿らしい。

 捕食される懸念はあるが、アベさんもいるのでそういうことはできないだろうと考えていると、ジャックスがおいっと呼びかけてきた。


「なんだよ?」


「お前、なんであんなことをした?下手したら殺されていたところだぞ?」


「......」


「もう少し賢い人間だと思ってたけどな、だが――」


 俺は、その言葉を遮るように言い放った。


「許せなかったんだよ。昨日あんたが帰った後に、アベさんと話したんだ。人材がほしいなってな。で、アベさんが協力できるぞみたいな感じだったから俺はアベさんの紹介だったら信頼ができるとそれに乗ったんだ。しかし、その思いをあの長っぽいヤツは裏切ったんだ。食料だなんだのという目で見られるのはまだそういう種だからってんで、我慢できたんだ。だが、あいつが見せたのは俺への敵意だった。アベさんの信頼に敵意を向けているかに思った俺はつい......ってやつだよ」


 俺の言葉にきょとんとなったジャックスだったが、何を思ったのかぶふっと笑ったので蹴った。


「いて!何で蹴るんだ!」


「いや、なんかイラっとしたから」


「それだけで蹴るんじゃねぇよ!......だがまぁ、嫌いじゃないぜ。その考えはよ」


「............」


 ――ゲシ!


「いて!だから蹴るな!」


「だまれよ。わんころ」


「なぁんかよく分からんが、絶対ケンカ売る言葉だろ?そうだろ?」


「ははは」


 そんな笑いを浮かべた俺に、後ろでよーしいいだろうジャックスさんは買ったぞ、おらこい!とか何とか言っていたのだが無視して俺は、前を向いて歩くことにする。彼も彼でそれなりに心配してくれたんだろうと思いまだやいのやいの言っている、ジャックスに口には出さないが一応心の中で感謝しておいた。


 そんなやり取りをしていると、ずいぶんとこの集落から外れた場所に案内されていると気づく、そして目の前に大鬼族の集落にあったような......いや、それ以上にボロい印象を受ける家が見えてきた。どうやら着いたようだ。

 家の前まで来ると、案内役の大鬼族は何も言葉を発さぬままその場を立ち去った。愛想がないヤツだと思いながら、俺はその大きな家の扉を叩く。


 しばらくすると、扉が開かれた。


 目の前には、褐色の何かが見えた。

 なんだこれ?と視線を少し上げると、どたぷんとでも比喩できそうなものが見えた。そこにはどたぷんを挟むかのように青い綺麗な瞳をして、風にサラサラと流れる肩くらいまで切りそろえられた髪を押さえた明らかに大鬼族じゃない肌を持ち、容姿も人間とでも言うような......いや、とてつもない美人の2.5mくらいの女性の姿が見えたのだった。

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