第8層「大鬼族の集落(上)」
「どうゾ」
大鬼族の集落へ迷宮の人材を求めてやってきた俺は、村での話し合いのため一泊することになり、今日の宿となる女性の家へとやってきた。この家に来た理由を告げて中にあげてもらったのだが、家の中の様子に絶句した。
あの長の家の中とは違う彼女の家の中は、あらゆるものがボロい。
まぁ言ってみれば長の家の家具のようなものなども目に入った限りでは、現代を生きてきた俺からすれば相当ボロいんだが、彼女の家はそういうのじゃなかった。
明らかに中で誰かが暴れたからボロくなり、それを拙い修繕でごまかしている様子をだった。
床は所々に穴が開いていて、それをどこからか拾ってきた板切れのようなものを貼って、石で塞いでいたり、長の家でもそうだったが部屋の中は比較的獣の毛皮が敷かれているのだが、それらの毛皮もやぶかれたかのような状態だった。
家の壁、屋根などもお察しである。
「ありがとう」
俺はもてなしてくれた気持ちに礼をする意味で言葉で伝えると、そのお茶のようなものを飲む。
味は............まぁお察しである。
アベさんもさすがに辛そうだったが、ジャックスはうげぇと声を出したので、後でお仕置きだ。
車座となり、地べたに直接座っていて目の前に彼女がいるのだが
やはりどこからどう見ても人間の女性にしか見えない。それもすごく容姿とスタイルの整った女性だ。なんせ身長差によって座り合ったり、立っていると必然的にその豊満なところに視線がぶつかるのだ。
決して、俺が自ら少し見上げているわけじゃない。すべすべしてそうな褐色の肌とさらさらした水色の透き通った肩にかかるくらいの髪、目は濃い青の瞳で少し釣り上がっていて、口はぷるっとした唇をしており容姿は完全に美女の類である。雰囲気的にはどこどなく同年代っぽいんだけど。
これで話し方が強気でヒャッハーとでも雄叫びをあげればどこからどう見ても、バーバリアンという感じがする。
とりあえず観察することを止めて聞きたいことを聞くために、俺は話しかけることにした。
「あのさ、ひとつ聞きたいんだけど............君はこの村に受け入れられてるのか?」
「どういうイミ?」
「俺がこの集落に来てからの見た目が人族の俺への視線やら敵意の視線と俺と同じように君の見た目が、人族にしか見えないからって意味なんだけど」
「............」
俺の問いに何を言いたいのか理解したのか、一瞬辛い表情を浮かべたが、それを消して彼女は答えた。
「......例エ、そうダトしてモここに住まわせテもらえるだけデマダイイヨ」
所々がこの集落の喋り方っぽくなるが、他に比べて全然流暢に聞こえる。
しかし、住まわせてもらっているだけって............認めてるってことになるぞ。
奴らは俺を見た時でさえ完全に捕食者視点だったからな。
長に関しては完全に敵対をしていたことを考えるだけでも、この家を見ずとも充分に判断材料となるのは明らかだった。
俺が話しかけようとした時、ジャックスが俺のジャージの袖を引っ張ってきた。
「なんだ?」
「......あれみろよ」
言われたほうへ視線を向ければ、何やら幼稚園児くらいの子供が家の壁に空いた穴からこちらをじっと見ている。なんだ?
そんなことを思っていると、子供は気付いたかっという顔をして慌てて姿を消して、数秒後俺の横にいた。
え!
「ちょ、いつの間に......」
そんな驚きを他所に子供は俺に指差して激しい口調を投げかけた。
「お前!この子をいじめにきたのか!」
ぽかーんとする俺。
今までのやり取りを見てて気付かなかったのかという思いと、なんでこんなことをこの子が言ってきたのか理解できなかったからだ。
そしてよく見るとこの子は、小人族の特徴を持った人だと分かった。
とりあえず誤解を解くために俺は話しかけた。
「いや、そういうつもりじゃないって。ただ、この家の中の様子や俺がこの集落に来て感じたことから察してって意味で聞いてみたんだ」
「そうか。それだったらいい」
やけに物分りがいい感じがするな。小人族は純粋な性格をしているのか?
てかやけに発音も流暢だな。
「お前たちみたいに外から来るやつなんて滅多にいないから、オイラ、勘違いしたよ。ごめんよ」
そういってぺこりと頭を下げる。
なんていい子なんだ。
そう思って俺は頭を撫でた。
「......お前、オイラのことを子供か何かだと思っているだろ?オイラ、これでも3児の父親だぞ?」
「え......」
こんなに小さいのに、結婚してもう子供もいるのか!
そんな失礼なことを考えて俺は年上だったのかと慌てて謝った。
「ふん、まあいい。人族はそうやって見た目で判断して色々ぐちゃぐちゃにしちゃう悪魔だからな!」
この世界の人族は相当アレっぽいな。
この人も相当苦労しているんだろうと思った。
「ところで、この子って言ってたけど知り合いなのか?」
「知り合いも何も、この子がここに来てからずっと世話をしてたからな。バカ鬼たちは自分たちが強くてこの子が大人しいからって............許せないよ!全く」
そうやってプンプンとしている様子に頬が緩みそうになるが抑えることにする。
だって、子供が癇癪起こしてやーだーやーだーってやってるみたいだもん。
だがまぁ、いわんとしていることはわかる気するし意外に思ったのは、ここに来るまでに見えた大鬼族と小人族は仲が良さそうというのもある意味が違っていたんじゃないかという事実だ。
肩に乗せて移動とかさせているのでてっきりに仲がいいんだろうなと思っていたのだが。
そのことを伝えると、ああといってため息を吐く。
「おいらたち小人族は力がないから外敵から身を守れない。だから、大鬼族の庇護下で暮らしているんだけどあいつら頭はよくないからさ。最初のうちは、おいらたちが使えるとでも思ったんだろうから、大人しくしてたようだけど最近長が変わった途端にむしろ命令してくるくらいに威張るんだ。肩に乗せて移動してたやつは多分、バテてるから移動させるのにめんどくさがってとかじゃないのか?」
そうなのか。なんていうか、泣いた赤鬼に種族全員で土下座させたい気分だ。
「この子は、どうやら大鬼族じゃ結構な身分にいる大鬼族の子みたいで見た目からわかると思うけど、人族と交わった子らしいんだ。あいつらにとっちゃ捕食相手に似ているけど血筋があるから扱いに困っていたみたいで、今の代の長老に代わるとその孫のガンゴってヤツを筆頭にこの家を荒らしたり、この子に嫌がらせしたりするんだ......酷いと思わないか?」
「人族なんかよりは幾分か、まだマシなほうだがひどいのはひどいな」
と、ジャックスが言うからには相当アレなのか?とも思うが、現代の子なんかでもこういう構図なんてある。片親だからとか容姿が悪いからとかそんなつまらない理由で、迫害して果ては自殺にまで追い込むヤツもいるくらいだ。
「チャビン、いいヨ。チャピンみたイに気にカケテくれる人もいるカラ幸せダヨ?」
「それはおいらたちだけじゃないか............」
この小人族はチャビンというのか。頭にハ○ってつけないほうがいいんだろうな。
別にふっさふさだけど。
しかし、現状を理解した。それを踏まえた上でしばらく色々と考えた結果、俺は"こちら"をとることにする。
「ならさ、是非とも君に、俺のところで働いてもらいたい」
そう言って俺は、彼女に頭を下げる。
俺の行動に驚いたのか、頭を上げると彼女もチャビンも驚いているようだった。
まぁそうだろうな、だが合理的なはずだ。
「君はこの集落以外に身寄りがなく、チャビンもこの現状に嫌気が差している。それなら、この現状を変えたいなら俺のところへ移ればいい。ただ移るだけじゃあれだろうから、君にも働いてもらうつもりだけどね」
「............」
「人族が異種族に頭下げるなんて初めてみた」
「ははっ、やっぱそうなるかよ!」
「ガウガウ!」
俺の発言や行動に驚いている2人。
俺の発言や行動に驚きもしない2人。
反応は様々だが、まぁいいだろう。この健気な子が不幸せになるのは現状を知った上で理解できたのだ。それに俺も男だから、見た目のいい子はやっぱり側で眺めたり、今後の着せ替え......ゴホンゴホン、魔道具作成の服などで協力してもらえそうだし。利点が多い。
「でも、長ガ......」
「それなら心配いらない。やり返す方法も思いついた」
「やり返すってどうやるんだよ?」
チャビンの心配も最もだが、大丈夫だって。
「通り道が例え予想外になっても最終的にはうまくいくようにできる考えがあるから大丈夫だ。今日はこのまま寝るとして、準備もあるからもう1泊するつもりだけどいいか?」
その問いに彼女がいいヨと了承してくれたので、礼を言うと――
「アベさん、ちょっと......」
そう言ってアベさんを呼んで、そのかっこいい耳にこそこそと耳打ちをする。
アベさんはガウっと言って俺の肩をパンパンと叩いた後に抱き寄せてきた。
ああ~アベさんのモフモフ最高~!
「......この人族、頭おかしいのか?」
「............俺に聞くなよ」
何やら言われているが気にせずに、話は決まったと俺は持ってきた肉やここにくるまでに採れた野草や木の実などをリュックから取り出してみんなで飯を囲うことにした。チャビンは自分の家で食事を取るようなので、俺は去り際の彼に話しかける。
「チャビン。明日、この家がちょっと荒れるかもしれないけど、黙ってみててくれ。それから、もしチャビンらの仲間でここから去りたいと思った人がいるなら俺が住まいを提供するよ。明後日にでも人を集めといてくれればいいよ。そこで判断を任せる」
「は、はぁ?どういう意味だ」
「まぁ、それは当日までのお楽しみだ」
「お前の言うとおりにすれば、もうその子は悲しむことはないんだな?」
「俺の考えってか計画が全部済んだ後になるけどな、信じてくれ。男と男の約束だ」
「............分かったよ、おいらのほうで同胞に声をかける」
俺の言葉に、まだ訝しんでいたが一応納得した様子のチャビンは去っていった。
「どうすルノ?」
まだ明かすわけにはいかないから、言いたいけど計画のためには彼女には少し辛い目にあってもらうことにもなるから話せない。その後でなら、俺はいくらでも頭を下げるつもりだ。
「とにかく信じてくれ。悪いようには......ちょっとするかもだけど大丈夫。......てか、今更なんだけど――」
「???」
「名前なんていうんだ?」
「............本当に今更だな」
余計なことを言ったジャックスに蹴りを入れて名前を聞いた。
オーリエというらしい。いい名前だ。
そんなこんなで、オーリエやジャックスには計画を告げないままその日の夜は更けていくのだった。




