プロローグ2
迷宮運営をすることになった俺はレティーナ様と、具体的にどうすればいいのかという話をすることになった。
「今のところあなたに付与する予定の力は、迷宮創造と迷宮管理というものを与えるつもりですがいかがでしょうか?」
「えと、俺が望めば他の力も?」
「ええ。私は他の管理者が残した業務もあるため直接的に手伝えるわけではありません。なので、今この場で決めていただいてあとはあなたに一任することとなりますね」
たしか、すでに他の管理者がいない状況なのだったか。
それなら世界を管理するには手が足りないだろう。
俺も手伝いたいところだけど、俺には俺で与えられたことをこなせばいいのだから、今この場である程度のことを決めといたほうがいいだろうな。
「じゃあ、レティーナ様が採用されたっていう俺がやってたゲームから考えていって必要そうな要素を考えませんか?」
「ええ。良い方法だと思います」
俺の提案に満面の笑みを浮かべて頷いてくれたので、気を良くした俺は早速そのやっていたゲームを語っていく。
そのため、まずは自分がやっていたゲームを思い出す。
俺がやってたゲームは、普通だとダンジョンを攻略していく冒険者側ってのが多いがそれとは逆に攻めてくる冒険者に対して防衛をするタイプのダンジョン作成ゲームだった。
迷宮周りの木、川、動物といったものを狩っていき、その資源を使ってダンジョンの領域設置して、その設置された部分を採掘して迷宮の通路なんかを作っていく。
たまに発掘するアイテムは、素材となりそれらを錬金術と呼ばれるもので新たな別のモノを作り出しては宝箱的に設置する。
情報を流すというコマンドを実行すると、冒険者たちがそんな宝箱を狙って侵入してくる。
それら侵入者となる冒険者を駆逐することで得た魔力や冒険者が身につけていた装備品などの外部素材なんかで宝石を生み出し、宝石を使って労働用と戦闘用の魔物を召喚したり外部の商人との交易を行なうことで食料を生み出す種を売ってもらって召喚した魔物に集団で開墾を行なってもらい、それで得た食料分配をするというタイプの一種の迷宮都市運営だった。
ノルマとなるエンディングは50年間で大迷宮王国を建国して外部へ侵略を行なうまでというやつ。
「順に追っていくと、レティーナ様の言われる力は最初の"資源使ってダンジョン作成"は、迷宮創造能力で代用できるといえます。
続いて迷宮管理はその後の迷宮を採掘したり、通路を作ったりと判断できるのですけど」
俺の言葉に頷き説明をしてくれた。
「では、具体的な力についてお話をいたしましょう。その前に魔力についてですが、あなたの言われる資源というのはこの場合あなたの魔力となります。……しかし、あなたの魔力はあちらの世界においてほぼ存在しないものであり、今のあなたはゼロにも等しいものですね」
「そりゃ、そうですね」
異世界の力である魔力を持っているほうが驚きだと俺は思う。
ここが現実と仮想の違いなのかなとも。
「ですから、まずあなたには最初のきっかけともいえるほどの魔力を付加いたします」
「わかりました」
「さて、魔力については普通であれば魔素を取り込んで生成されるものですが、もうすでにこの世界には魔素はないためあなたの構成体を特殊なものに作り変えるつもりです。それは食物によって自身の中で魔素を生成し、魔力を生み出すというものになります。それ以外では普通の人間と変わりはありませんので、
作り変えというのはそういう意味でもあることを覚えておいてください」
さっきの説明の意味がそれか。なるほど。
「今のあなたには、私が付加する魔力以外にはない状態です。そこで迷宮創造の力の説明になるのですが――」
そう言って一呼吸を置いて説明を始めた。
「まず、迷宮創造ですがこれは、迷宮はどこでもいくらでも築いていただいても構いません。しかし、対価として発動時にあなたの魔力が必要になります。最初の迷宮は私の付加させた魔力を用いればよろしいかと思いますが、後々のために、そこで魔力を循環させてあなたの魔力を増やす必要があります。迷宮空間の規模についてはその魔力に比例することを覚えておいてください。条件に関しては、一定の場所を囲む形となる場所やある一定の質量を持つ物質でなければ創造ができないことは伝えておきましょう」
「ある一定の囲む形の場所とか一定の質量を持つ物質っていったい?」
「あなたの住んでいたあの部屋で言えば、あなたが睡眠を取る寝室と浴室と呼ばれる空間とは、その間にあるドアを閉めれば互いに1つの密室空間となりますよね?……その密室となる場所が前者の一定の囲む形となる場所にあたります」
「なるほど」
リビングであれば、ドアを閉めて密室にすることでそこが条件に適った場所になるようだ。
またユニットバスのある浴室もドアを閉めればということか。
「ただ、だからといって完全な密室である必要はありません。人が通れるほど感覚が空いていたとしても力が発動できる場合もありますので、そこはあなた自身で経験してみてください。そして、物質に関しては大きな岩……直径でいえば5mほどの岩などがその条件に合致しておりますね」
直径5mって結構大きいよな。
「物質にたいしても同様に経験するとよいでしょう。さて、発動する場合ですが、その空間にある地に手で触れて魔力を流す感覚で"発動キー"を告げれば使用できます」
「発動キーですか?」
「迷宮創造であれば、迷宮創造の後にその迷宮の名称ですね。つまりは世界の律に対して宣言する形になります」
「迷宮創造 洞窟の迷宮!みたいな感じですか?」
俺の答えに満足そうに頷くレティーナ様。
迷宮創造はとりあえず、試行錯誤して色々試してみよう。
そういうコツコツするのが好きなタイプだから選ばれたのかもしれないし。
「わかりました」
「では、次に空間を作った後に使用できる迷宮管理の力ですが――」
そうして、指先をテーブルに差すとそこからノートが出てきた。
何の変哲もない俺が勉強とかで使う普通のノートだ。
「これはあなたの世界で言う大学ノートと呼ばれるものですが、コレを使ってあなたはあのゲームで発見したことやあなたがあちらの世界での勉強で使用されているもので一番慣れ親しんだものだと思います。今回の力は、これを使って行なうと行使しやすいでしょう」
「例えば?」
「洞窟などを迷宮とした場合に、それらを採掘して通路にしたりなど普通の状態では大変だと思います。そこで、このノートにその迷宮内のルールを書き込み使用――例えば、岩などを砂の材質にすれば手でも掘り進める、といったことができるでしょう」
そういえばそうだな。
ゲームじゃツルハシのカーソルを出して掘り進めていたけど、現実じゃあツルハシとかそういうのがなきゃまず無理だ。
だけど、迷宮管理の力を活用すれば岩も砂になったりとか自分のやりやすい環境ができるというものだ。
「あとは、ルールを書き込み迷宮内のルールを作成することも可能ですね。あなたのゲームで採掘された"素材"というものをあらかじめ決められたスペースに発見次第移動できるようにしたりといったことです」
迷宮内限定で万能の力だな、そりゃ。
色々試せることが増えるものだ。
「媒体は書き残せるものであれば、特になんでもかまいません。発動はその媒体に手を当てて迷宮管理の力を行使すればそのノートが源になります」
本来この力は羊皮紙という動物の皮にインクで書いた文字に対して使用されるものだったようだ。
そう説明を終えたレティーナ様は口を湿らせるためか自らのカップに口をつける。
「二つの力についてはわかりました。じゃあ次からですね」
「ええ」
そうして、せっかくなので出してもらったノートにこれまでのことをメモしていった。
次は、と。
「実際に素材を活かして錬金術で相手を釣るための物作りですが……」
「それでは、錬金術式練成という力を与えましょう。この力は簡単に言えば、あなたの血と魔力を対価として素材を元に魔道具を作るというものです」
説明をきくと、この世界にもそういう錬金の力を行なった歴史があったようだが、魔法が専攻した現代ではすでに廃れた歴史ということだった。
先の二つの力とは違い、血が必要なのはこの世界でいうところの"銘"のようなものだといわれた。
つまり作者は誰かというところだろう。
「この力の源は、想像力ですね。そのため、ノートに想像したものを落とし込みを行なっておき効果などを具体的にさせればあとはそれを元にして力を加えることで生み出すことができます。素材がなくても可能ではありますが、それを生み出すための必要な対価が莫大なものになりますので、素材はあったほうがいいでしょう」
わかりましたといいながらメモっていく。
「次は、実際にその侵入者を撃退するための防衛用の魔物と労働目的の人材みたいなのですね」
ゲームでいえば迷宮内の魔物ってのは、自然に沸いてくるって形だ。
「俺が考える迷宮内の魔物は、自然に湧き出るイメージでそれらは倒してもまた時間が立つとどこからか出てくる。……で、倒したら何かを落とすってイメージですね。あと迷宮内での清掃係など働いてもらうための人材とかですね」
俺の説明にふむふむとアゴに手を当て頷くレティーナ様。
何やら納得したようで、ではこうしましょうとしばらく自身の手を合わせると光とともに1mはあろうほどの黒い大きな珠を両手に挟む形で出現させた。
それを横にどけると、今度は水色やら赤色やら緑色やら茶色といった発光をする水晶玉のような珠が現れた。
そして、説明するよとでもいうように1mの大きな珠を差すと――
「こちらは《再生のオーブ》といいます。迷宮内にこれを設置しておけばあなたの魔力を糧として吸収することで、進入してきた者たちに対しての敵を生みだすことができます。調整も自由に行なえますので、あなたが想像されるものや、討伐後に落とすものなどを設定することも可能です」
その言葉とともにレティーナ様はその大きな珠を俺に浮かせた状態で渡した。
大きな珠は浮遊していて、決して真っ白な地面にはつくことはないようだった。
しかし、邪魔だな。
そんなことを考えていると、ふっとそこからなくなった。
「あなたの思考で出現させたりできますので、設置したい場所が決まりましたらまた出現するように考えれば出てきますのでご安心ください」
俺の焦りを読み取ったかのようなレティーナ様に、俺は内心赤くなるのを抑えることができなかった。
そんな俺をよそに手元の色鮮やかな水晶球を見せる。こちらは浮かずに持っているみたいだ。
「これは、人材精霊を召喚するための宝玉です。これに各種作業をさせたいことを念じれば
それにあった属性の精霊が召喚されます。対価は魔力です」
火の人材精霊、水の人材精霊、土の人材精霊、風の人材精霊、光の人材精霊、闇の人材精霊の計6つ宿っているそうだ。
これも色々試していくかな。
そして、それも消えろっと念じるとふっとなくなった。
便利だな。
「あとは現地で必要と感じた時のために生命契約という力もあわせて与えましょう」
「生命契約?」
「はい。生命契約は、これも相手のどこでもいいので触れてから発動キーとどれくらいの割合で契約するかで
力を行使できます」
「えと、契約の重さみたいなのですか?」
「ええ。レベル1~3で完全支配は1。最高の3が、5分5分の契約……つまり、相手が拒否できるといったことができるまで行なえます」
「発動は、生命契約 レベル3!とかでいいんですね」
「それで結構です。一律にその力を使った場合、相手から敵意もたれたり、敵対行動はされません」
効果は、敵意を抱かせない、敵対行動を行なわせない、で1は奴隷級、3は義兄弟級って感じか。
自分が分かりやすいようにノートに記述していく。
残りはそれらを維持するための食料か。
「食料はやっぱり外に出て狩りとかしてですよね?」
ラノベとかたしか、外で動物を狩って血抜きして皮を剥いで火を通したり、干し肉にしたりとかだったはずだけど。
「やっぱりの意味はわかりませんが、あなたに渡した再生のオーブにて生み出した魔物をその類にすれば迷宮内でそれらを狩って食料にすることもできます。無論、外部の商人から仕入れるといったことも可能です」
そういえば、そうだな。
要は自分の想像力で魔物が作れるわけだから、食用の牛みたいなのを出現して討伐すればいいのか。
強さは殴れば討伐できるくらいに調整すればいいし。
てことは、穀物とかも同様か。
丁度自分の作った迷宮を攻略したり、テストしたりもするわけだしそう考えれば、理想的だな。
「わかりました。自分でもテストしたりとか考えてたので丁度いいです」
何より俺はトラウマのせいで外に出るのは、あまり好きじゃないからな。
なので商人との交易は今のところなしだ。
俺の答えにレティーナ様が笑顔を見せる。
その笑顔にだらしない顔になっていることだろう自分を諌めつつ考える。
さて、これで必要な過程はできただろう。
迷宮創造で迷宮を作って、迷宮管理で、迷宮内の管理やら通路作り。
それらで迷宮を作ったら次は、ところどころに錬金術式練成で作ったアイテムを配置して合わせるように再生のオーブを置いて、魔物を生み出したり迷宮内の作業を行なわせるための人材精霊や、生命契約で迷宮外で雇用させたりと。
あとは迷宮をオープンさせたり、この世界で求められる魔道具の需要なんかも知らないといけないから調査したりしないといけないな。
さっきは外に出たくないとはいったものの、いずれでて実際に見てみないといけないだろう。
こっちの世界にはマスコミという天敵はいないのだし。
よし、と確認したところでレティーナ様が手元に何かの鍵とDVD-ROMほどの円盤が入ったケースを差し出した。
「お礼の一部という意味も込めて、こちらを差し上げます」
そう言って使い方を説明される。
その空間とは、亜空間となっていてこちらの世界とは隔絶したもう1つの世界のようなものらしい。
そしてこの鍵はこちらの世界とこの亜空間とを繋げるもので、この亜空間を意識して鍵を指すとそれがドアノブになりそこから出入りができるようになるとのことだった。自分用の世界みたいなものか。わくわくするな。
そしてDVD-ROMは俺が持っている型の古いパソコンでインストールすれば、家の図面を引くようなソフトが使えるのでそれを使うことで亜空間のレイアウトができるとのことだった。
なお、デフォルトとして俺の住んでいた部屋がそのまま設置されており、電化製品や水道関係はそのまま使用可能とのこと。
インターネットや電話は使えないみたいだけど、通販くらいしか使うことはなかった。
あ、そうか。そう考えるとこれからは自力で調達しなきゃだな。
こんだけよくしてもらったんだ、これ以上甘えることはできない。
これだけでも充分だといえるだろう。異世界系のラノベだとトイレとか、風呂で苦労してるような様子が書かれるわけだし。
パソコンは苦手だけどなんとか頑張って覚えようと思って俺はレティーナ様に礼を言った。
「いえ。私に出来うる限り、そしてあなたが成長していただく上で大事なことがあればこれほどのものではありません」
本当に感謝に耐えない。
「では、あなたの希望となる力とこれからあなたが向かう世界で活動されるための構成体となってもらうのでこちらに……」
そう言ってテーブルを立ったレティーナ様に続く形で、俺はレティーナ様の前で言われたとおりに膝立ちをする。
目の前に綺麗なおみ足が見えてちょっと落ち着かなかったけど、手を頭に置かれてはっとしてじっとすることにした。
しばらく色々な色の光に包まれたり、体の至るところに熱を持ったりなどをしていたがやがて終わるともういいですよと俺は立ち上がった。
「これで終わりました。今後は、この世界のためによろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ、こんな俺に大役と生きがいを持たせてくれて感謝してます」
そう言って俺は、レティーナ様に頭を下げた。
理由はなんであれもうすでにあちらでやることがない俺に、役割を与えてくれたレティーナ様に対してもう色々な意味で頭を上げることはできないだろう。
「あちらの扉から出れば、あなたの亜空間世界へと出ます。そしてこちらの世界への出口は、あなたが住んでいた家の出口から出入りできますので覚えておいてください」
「わかりました」
そう言って、一礼した俺は早速レティーナ様のため、そして、この世界のためにとその扉へ向かっていった。
* * * * *
扉が閉じて、タクトが居なくなるとレティーナは1つため息を吐いた。
ひとまずの安堵によるものだった。
「"布石"は打ちました。タクト、私は罪深いかもしれません。あなたを利用したようなもので心苦しいですが、あなたに与えたことができるように祈っておりますよ」
その囁きは、真っ白な空間のどこにも響かないほどの声で誰にも届くことはなかった。