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第32層「知体と体脈」

「............アグッ!」


 そんな言葉が漏れる俺は体の中を駆け巡った電流に、悲鳴を上げてしまう。


 今は日常生活レベルでのある特訓を実践中である。


 特訓の主な内容は、『知体』と言うものでこれはすなわち自分の体を知ることだと言うものだ。あの日は迷宮硬貨を造幣する仕事などがあったため、仕切りなおしで翌日からとなったのだが、その日の特訓の概要を聞いた限りでは納得ができるものだった。


『知体』というのは、読んで字の如く自分の体を知る、だ。


 人間にも動物にも言える事だが、元々生きる上でのあらゆる動きというのは、誰に教わるでもないもの。それらは、目などの感覚から情報を読み取り、それらを無意識で学び、それらを生活や狩猟といったことで実践させる。


 だが、1歩間違うと、自分が無意識にとろうとした動作と実際の動作で食い違いが発生した結果、転んだり、思う通りに動かせないということも起こり得る。


 絵のトレースをする人を例に挙げると、目で見て得た情報から脳が判断し、それを手に行なわせるという一連の中でどこかがうまく噛み合っていないと、噛み合っていない分だけ違和感のあるものが出来上がってしまうものだ。


 それを想像とうまくかみ合わせるようにして自分を知るという鍛錬法が知体と呼ばれるものらしい。

 

 知体特訓は、まず最初に、目を閉じて腕を前へと上げていき自分が水平と考える位置でピタっと止めることやそれを横にというところからやるように言われた。


 結果は少し傾いていたり、上っていたりと散々だった。

 それを克服した後は、目を閉じた状態で円が描かれた中でその場で足踏みをさせられるものをやったが、気付けば円の大分外に出る結果となった。


 それらに関する知体特訓は、その後も1週間に渡って行なわれた。

 だが、老婆の言葉で言うならば――


『全然ダメだねぇ』


 という一言を受けた俺は、さらなる強制的な特訓を受けることになった。


 それは、老婆に言われた言葉『間違いを正さない修行は、体も頭も覚えちゃくれない』という一言によってさらにちょっと辛いからだいぶ辛いものへと変化して現在に至っている。


 その方法は、老婆の考えうる『知体』知識を迷宮魔法――教授令ティーチングで転写、戒め用に感電ショックという2種魔法が付与されたエロナ特製の手と足のバンド『戒めのリストバンド』『戒めのレッグバンド』を両方に装着して生活をすることだった。


 先ほどもその戒めを受けたが、これでも、まだ最初の3日前よりはマシだ。


 なんせ最初のほうは、先ほどのような悲鳴を断続的に上げる結果となって、みんなで食事している時にふいに俺が悲鳴を上げるもんだから、みんなからゲラゲラ笑われるわ、居住区に用があった時、たまたま俺の痛がる様子を見ていた奴隷の子供たちからは痛がる真似されてからかわれたりなど、本当に痛みと言う戒め以外にも恥を掻くという戒めを与えられているような気分だった。


 ちなみに同調したらしいアベさん、オーリエも俺と同じようなことを始めたが2人は時よりビクンとするのみだった。それが、なんていうか......オタクから借りたいわゆる薄い本で下腹部に異物という内容のものを思い出して少し反応してしまったのは仕方がないことだと思う。


 そんな特訓中にある現在は、急遽変更した神社建設における打ち合わせ中の会議の場にいた。


「コホン......それじゃ、神社はこんな感じで進めて行くからよろしく」


「かしこまりました」


「アグッ......!」


「......父さん、少し静かにしてくれないか?」


「あ、ああ。すまん......」


 頻度は減ったが、減っただけじゃどうしようもないので俺も少しダラけている部分に活を入れ直すと会議に集中した。


 その後、準備を全て終えて着工する神社の最終的な打ち合わせ会議を終えた俺は湖へと向かって知体の特訓を始める。自分の部屋から鍛錬場、そして湖でと色々な場所で特訓をしているのだが......なぜかここが一番落ち着くというか捗るのだ。


「考えられるとすれば、水属性の魔力......が影響しているのかな」


 湖は言ってみれば、水属性の宝庫と言える場所だ。

 そこに漂う水気らしきモノは以前とは違って、わりと明確に感じられるのが水の魔力を得る時とは違うものだった。


 もしかしたら、こういう場所が今の俺には向いているのかもしれない。


「アグッ!」


 ......あれ、気のせいかもしれない。


 そんな特訓を続けていた時、湖からバシャっと水音と立てながら現れたのは人魚族のシーアだった。


「やっぱり、タクトなのだ! 何しているのだ?」


 相変わらずロリロリしいくせに、貝殻のビキニで覆い隠せない豊かなそれを揺らせながらも、それをまるで気にも留めないというある種オーリエに似た何かを感じさせるシーアに、俺は特訓だと一言で返した。


 そういえば、この子は目を覚まして、プラティに甘えていた時以来見ていなかったが何をしていたんだろうかと気になった俺は聞いてみることにした。


「あたしも特訓だったのだ!あたしがまだまだ弱かったから、攫われてしまったと思っているし、それならもっと強くなって、今度は攫われてプラティ様にも、ロブスタン族のみんなにも迷惑をかけないようにしたいのだ!」


 そんな殊勝なことをこのそういえばいくつだろうで言えるシーアに俺は感銘を受けるとともに俺も負けていられないなという気になって、自分でも何を思ったのかもう水温も結構低くなっているだろう湖へ入っていった。


 後で考えれば、多分俺は一種の気合入れを冷たい水でやりたかったのだろうと思ったその行動は、俺にある違和感を感じさせる結果となった。


 冷たいのは冷たい、気合も入るってものだ。


 しかし、それ以外の自分に浸透する何かに俺は答えを急ぐようにしてバシャバシャと音を立てながらもどんどん湖の奥を進んだ。


 俺の行動に疑問的な行動を示すように俺の周囲を泳いでいたシーアだったが、俺のやりたいことを悟ったのか入りたいなら力を貸すのだーという一言とともに俺の手を掴んで、まるで水子の霊の如く引き寄せて一気に水中へと引き込んだ。


 さすがに俺もパニックを起こしかけるが、そこへ別のパニックの所以ともなりそうな行動をシーアによって引き起こされそうになった。


「もごもごもご......」


「静かにするのだ。水を感じたいなら、このまま落ち着くのだ!」


 いや、そうじゃない。


 お前のその誘惑の水着的な貝殻のビキニに包まれた豊かなそれが俺の顔に!


 そう、俺は今シーアに顔を抱かれてはその柔らかさを享受されながら彼女とともに湖の中を泳がされていた。


 というか、水中なのになぜそこまで流暢に話が?と思うのだが、そういえば人魚だしそれくらいはできて当然かとある一方では納得をする。


 しばらくは俺もその柔らかさに我を忘れそうになっていたが、自然とそれらが落ち着いていきやがて、何か自分の中に流れているものを感じられてきた。

 へその下......そういえば、ここには魔臓ってのがあったんだっけ?


 あれ?アラーネのあれってしばらくやってないけど、そういえば水竜に治してもらったんだっけ?など色々考えながらも不思議と息苦しさも感じることがなかった。


 そればかりか、段々と気持ちよくなってきているのを感じる。落ち着くと沸いてくるのは羞恥心という分かりやすい俺は、さすがに今の状態が恥ずかしいので、シーアにあることをお願いするためのアクションをとった。


 ――トントン


 セクハラに当たらないだろう肩を両手で叩いて離してくれとシーアに伝えるアクションだ。俺の言いたいことが伝わったのか、本当にいいのだ?と問われたので俺は頷いて答えると、シーアが両手を離してくれた。


 ホッと息をつく暇もないままに襲ってきたのは、猛烈なる息苦しさだ。

 俺はパニックになりそうになったが、再びシーアが抱えてくれたことでそれはなくなる。そんな一連のことに意味不明ながらも考える限りじゃ1つだけ......いやこの場合は、1つしか思い当たらないか。


 どうやらシーアに抱えられている間は、息苦しさを感じることがないということだ。俺的には色々と恥ずかしい反応をしそうになるその柔らかい感触から逃げたい。


しかし、急に離れたことで襲ったあの息苦しさという不快感に比べれば、こっちのほうがまだ気持ちいいしという男の子特有の都合の良さを利用しながらも、先ほども――そして、今も感じる魔臓付近から全身を駆け巡るかのようなそれを意識して感じることにした。


 一番イメージに近いものは、迷宮創造(ダンジョンメイカー)錬金術式練成(アルケミクリエイト)といった魔力を発動した時に感じたものだ。


 そこまで考えると、もしかしたらこれが水の魔力かと俺は当たりをつけることにする。


「お?タクトすごいのだ!水の魔力を循環させているのだ!」


 というシーアの言葉に俺は、やっぱりかと確信した。

 しばらくの間自分の中に流れるそれらを操作することに楽しさを感じた俺は、時間を忘れてその後もシーアに抱かれながらそれを固めたり、固めたそれを発射させたりといったことを行うのだった。




「お前さん、バカじゃないかねぇ」


 陸に上った俺を待っていたのは、糸目を開いた老婆のそんな言葉だった。


「『知体』もまだ未熟なうちから、『体脈』に手を出して......そればかりか、それをものにしちまうんだから......本当にお前さんという男は」


 俯き、正座をしてお説教を受け入れている俺だったが、あの神社発言の際に聞いて以降、この時まで出ることがなかった『体脈』の言葉とそれを体得したらしい発言に、気になったので顔を上げてどういうことかと聞いてみた。


「はぁ~......。『体脈』っていうのはお前さんやあたしら生命にも流れている命脈さね。山にも川にも脈があり、あらゆる脈があるように人の中にも血の流れ以外の繋がりがあるさね」


 血以外、か......。


 気とかそういうことだろうか?


「あたしが目指したのは、まだ初歩の初歩からいきなり応用じゃなく、じっくりと自分を理解するところから入って、いずれその応用をと思ってのことだったのさ......それがよくもまぁ......水の魔力を水の中で、ねぇ」


「うっ......」


 返す言葉もない。

 基礎が大事なのは俺だって知っているし、いきなり応用を習得した気まずさというのは懇切丁寧に教えようとしてくれた老婆に対して侮辱するようなものだと感じている。


「ま、一度覚えたことはそうやすやすと忘れることはできないからねぇ。お前さんは今後も......それこそ一生かかるくらいの覚悟を持って『知体』を体に叩き込むんだよ」


 そう言って去っていく老婆に俺はため息を返すしか方法がない。


「あー、そうだったよ。......あたしもそろそろクリアムたちだけに苦労かけさせるのもあれだからお暇しなきゃいけない。それで、今後の指導役としてうちの付き人をお前さんにつけるから、そいつに従ってちゃんと鍛錬するんだよ」


 善意を裏切ってしまう結果になったが、それでもなお老婆のそんなフォローに俺は頭を下げる思いで従うことにした。あの時は遠めでフードのついた外套で顔を隠していたから、老婆に付き従っていた2人の正体は知らなかったけど。


 そして、翌日――


「じゃ、頑張るんだよ」


 そういい残して、老婆は騎士団護衛の下で南西の町へと去っていった。


 未だフードを取らずにいるここに残された付き人と3人でそれを見送った後、俺のほうからこれからよろしくなと、握手を求めたところで付き人たちはふいに外套ごとフードを取って姿を現したその人たちのインパクトに、俺はおもわず手

を差し出したままに固まってしまう。


 1人は、ダークブラウンの髪色でパッツン前髪......どころか、風に揺れる長髪の毛先のいたるところがパッツンと切られた感じの髪をしていてそれを手で抑えている。その出で立ちから見れば、凛々しいながらも綺麗だと思える容姿で切れ長の、侍然とする刀を腰に差した人族の少女。


 そして、二足で立つ勇ましき立ち姿をこれでもかっと言わんばかりに威風堂々さを魅せつつも、太めの巻き尾と尖った耳をピンと立たせるその姿は、どこからどう見ても懐かしささえ思わせる"柴犬の獣頭族"だった。

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