プロローグ -『影狼』-
久しぶりに書いてみることにしました。更新頻度は遅めで、すぐにエタると思われますが、できる限り頑張ります。
駆ける、駆ける、駆ける。月明りのみが照らすこの森を、木の上を、岩の上を、一直線に。
ただ、標的を狩るために。
森を抜け、街道に出る。パッと開けた視界に荷馬車とそれを護衛する男たちが目に入る。荷馬車が2台にそれぞれ1人ずつの御者。周りには8人の武装した男たち。はたから見れば行商人とそれを護衛する冒険者のように見えるかもしれないが、あのように殺気を常に振りまくキャラバンはこの世には存在しないだろう。うまく隠しているつもりかもしれないが装いと雰囲気の差異を隠しきれてはいなかった。
間違いなくあれは私の獲物だ。腰からナイフを抜き取り、標的の内の1人に狙いをつけて音もなく飛びかかる。
「ッ!?」
「ん?どうした?何かッ、うぐぅ!?」
命を狙われているとは気づかない男は何もできずに首を斬られ、地面に倒れこむ。近くにいた男も仲間の異変に気付き、声を上げたが、すでに間合いに入り込んでいた刃に気付くことなく、命を絶たれる。
「敵襲!敵襲だ!!警戒態勢!」
「クソッ!!どこにいやがる!!」
「何も見えな、っごは!」
こちらの姿を一切認識できず、陣形もろくに組めていないような烏合の衆は、いかに大の男たちであろうと、殺すことは造作もない。さらにもう一人、男の心臓に刃を突き刺す。残り7人。
「あそこだ!木の上!」
ようやく敵と思しき存在を視界にとらえた男が声を上げる。冒険者たち(仮)が一斉に顔を上げ、謎の襲撃者の顔を拝もうとする。が、
「あれは、なんだ。人、なのか?」
その目に映った襲撃者は夜と見紛うほどに、いや、夜よりも暗い、ただひたすらに黒いナニか。顔は見えず、ただシルエットから辛うじて女ということはわかる。それほどまでに黒い女が月明りに照らされてようやく視認できた。
「なんだ、ありゃあ.....」
「なんだっていい!矢を放て!」
冒険者のリーダーらしき男の掛け声に間髪入れずに放たれた矢の精度は素晴らしく、冒険者たちの練度が伺える。並のものであればそのまま矢に貫かれて死んでいただろう。しかし、
「なっ!?」
「すり抜けた!?」
射掛けたモノが、人間であればの話だ。
「どこを見てるの」
「こひゅっ」
いつの間にか自分たちの後ろへと回り込み仲間の1人を殺した女に驚き、男が腰を抜かして地面に倒れこむ。何とか目線を起こし、背後に現れた女へと視線を移す。
そこには、月明りに照らされ星空のように輝く黒髪と、見つめれば、どこまでも吸い込まれそうなほどに黒い眼を持つ見目麗しい少女が佇んでいた。彼女は全身を黒装束で覆い隠し、夜風で外套がたなびく姿は、さながら、自分たちを冥界へと導く冥府の女神だと言われても信じてしまいそうなほどだった。
「ば、化け物......」
「失礼な、正真正銘人間よ?ただ、『影』を扱うことが得意なだけの、ね?」
「か、影?」
「えぇ、影。今日は月が明るいからよく見えるでしょう。ほら、あなたたちの足元にも」
「がっ!?」
「へぶっ!」
女が指した冒険者たちの『影』から飛び出した暗器が彼らの目に突き刺さる。
あと4人。
「クソッ!相手は1人だ!囲め!囲んで殺せ!」
仲間たちが次々にやられ焦りを感じたのか、リーダーらしき男は残りのメンバーに号令を下す。
「乱暴ね。乱暴な男は嫌い。だから、素直に大人しく、死んで」
号令を受けた冒険者たちは一斉に女に襲い掛かる。全方向から振り下ろされようとしている剣によって出来上がった剣の檻は、女を閉じ込め、その命を絶とうと向かってくる。だが、女はその前に、剣を大上段から振り下ろす男の懐に素早く入り込み、隙だらけの顎に刃を突き上げる。瞬間、男は脱力し、膝から崩れ落ちた。
すぐさまナイフを引き抜き、殺した男と入れ替わるようにして檻から抜け出す。そうして迫る剣をひらりと躱し、その勢いのまま回転、後ろから男の後頭部をナイフで一刺しにする。檻から逃げだした女を追うように平行にふられた剣が迫りくるも、身をかがめて回避。そこにすかさずもう1人が剣を突き出してきたが、女はナイフで受け流し、剣の上を滑るようにして振られたナイフは的確に男の急所を切り裂いた。
これであと1人。残ったのはリーダーらしき男のみ。残っているのが自分だけだと理解した途端、男は焦りの表情を浮かべる。
「クソッ!!一体何だってんだ!お前は誰だ!俺たちになんの恨みがある!」
「今更しらばっくれたって遅い。襲われた理由なんて自分が一番よくわかっているでしょう。人攫いさん」
「クッ、」
「私たちの国から民を連れ去ろうなんて考えた時点であなたたちの運命は決まっていたの」
この男たちは私たちの国、『アストレア王国』の辺境にある町や村を襲って人を攫っていたのだ。最近、町や村が襲われているという情報と、何人か行方が分からなくなっているということから『我々』がこの調査にあたっていた。襲われた町や村には殺された人々の死体がそこら中に放置され、口に出すことも憚られるほどに酷い状態だった。その中には男たちによって弄ばれた様子の子もいた。決して、許されることではない。
「あなたたちの罪を悔い改めなさい。地獄でね」
「クッ、クソッたれがぁぁぁぁぁ!!!」
半ば錯乱状態の男は手に持った剣を持てる限りの力を込めて、女に振り下ろそうとした。が、それよりも早く女の拳が男の顎を捉え、脳を揺らされた男は意識を失った。こうして人攫いの最後の1人を戦闘不能にしたことで、私の戦闘は終了した。
周りを見渡し、リーダー格の男以外に生きている者がいないことを確認しながらナイフについた血を振り払い、体の力を抜いていく。知らぬ間に強張ってた体をほぐしながら、残された馬車に目を向ける。馬車の中には襲われた村の人たちが乗せられているだろうが、ここからは騎士団に任せるとしよう。私の仕事は障害の排除、人助けのような高尚な仕事は騎士団のほうが向いている。大体の座標はすでに伝えているし、私が戦闘に入った時点で仲間が伝令に走ってくれているはずだ。すぐに騎士団が到着するだろう。が、
「な、にが...?」
「待って、出てきちゃダメ。貴女には目の毒」
「え...?ッ、ヒッ!?」
馬車の周りが静かになったことを不思議に思ったのか、攫われた子の1人が馬車から顔を出してきてしまった。少女は馬車の周りの死体をみて小さく悲鳴をあげ、体を小刻みに震わせて動けなくなってしまった。いくら辺境に住んでいるとはいえ普通に生活していれば、死体がゴロゴロ転がっているような惨状をみて平気でいられる方が珍しいだろう。
「もう大丈夫だから。すぐに騎士団が来てくれる。それまでは、中に居て」
「.........」
「聞いてる?」
「ま、魔女め...」
「魔女...?」
「...ッ、そうよ。黒い髪に黒い眼...、それにその黒装束。あんた魔女でしょ...。魔女は不吉を連れてくるって、お母さんが言ってた...。私たちの村が襲われたのは、あんたが不幸を連れてきたからよッ。そうよ、そうに決まってる!だって、私たち何も悪いことなんてしてないものッ。だから、お母さんや、お父さんもみんな死んだのは、あんたのせいよッ......」
「...........」
........少女は私を射殺してしまいそうなほどに眼を見開き、そう言い切った。
黒い髪と黒い眼は、どちらか1つでも持っていれば、不吉の象徴とされる。はるか昔、世界を滅ぼしかけた魔女が黒い髪と黒い眼を持っていたからだと、いわれている。この特徴を持つものは魔女の血を引いているとされ、その者の周りには不幸が訪れると....。
両方を併せ持つ私に対するこういった扱いは今に始まったことではないので、この少女の反応はおかしくはない。おかしくはないが、差別され、蔑まれることを容認するほど、私はお人好しではない。私が今回与えられた人攫いに関する任務は、犯人1人を残し、他すべてを抹殺した時点で終了した。後は、このリーダー格の男と攫われた村民たちを騎士団に引き渡せば終了である。よってこの少女のメンタルケアは私の任務外。
変わらず私を蔑む言葉を吐き続ける少女の言葉を右から左へ受け流すこと数分。そう遠くない位置から馬の嘶きが聞こえた。おそらくというか確実に騎士団だろう。あとは騎士団に任せて、私は帰る。いい加減この少女の罵詈雑言にも飽き飽きしていたところだ。
そうして私は、来た方向へと振り向き、夜の森へと姿を消した。
女が森へと姿を消してすぐに木々の陰から騎士団が現れた。到着した騎士団は血だらけの現場に目を白黒させつつ、攫われた村民と思しき少女を見つけ、すぐさま駆け寄る。
「君!大丈夫かい?怪我は?」
「騎士様!私は、大、丈夫です」
「遅くなってすまない。とにかく、無事でよかった。あの魔女に何もされなかったかい?」
「......あの魔女が、不幸を連れてきたんです...。あいつのせいで、皆がッ...!」
「あぁ、そうだな。黒い髪に黒い眼、全身黒装束で影の使い手。まさに不吉の象徴のような女だ。いくら『影狼』だろうとあいつを使い続ける国の上層部の気が知れないな」
「『影狼』?」
「あぁ、君も聞いたことがあるだろう?あれがこの国の疫病神『影狼』カタリナ・ベル・クライアスだ」




