酒記
お気に入りの椅子に座り、
お気に入りのグラスで飲む酒は、実に美味い。
今は気分がいい。
私の美学について話すとしよう。
私は「あるべきものは、その場所に」という美学を掲げて生きてきた。その美学を実行するために、私は整体師を職業として選び、今日もほそぼそと生きている。
人の体は、小さな骨が少しズレるだけでも、それを起点に連鎖的なズレが、体全体へと広がってゆく。
「あるべきものは、その場所に」という信条を掲げる私としては、大きなやりがいを感じているものの、直しても直しても、私のもとに帰ってくる客にはイライラが募る。
――ときに、私は人間の骨盤が好きでね。
人間が人間であるためには、必ず骨盤が必要である、という物理的な理屈も欲情をかきたてられる上に、フードコートのトレーみたいなサイズ感と加工したときの握り易さは、格別であると断言できる。
とくに、女性の骨盤は座り心地がいい。座ってみると母の胎内に包まれているかのような、原初の安らぎを感じる。ただ、骨密度の影響により、男性の骨盤と比べると、いくらか脆いという欠点がある。
ゆえに、新鮮な物だとしても1度乾かした状態で、座ってみるのをオススメする。
座ると間違いなく割れるだろうが、割れた箇所は、「力が加わりやすい場所である」と鑑別できるため、そこを補強すると、より丈夫な物へとなっていく。
この確認作業は少し面倒くさいが、目視では発見できない小さな亀裂や内部のヒビを確認する方法としては、やはり壊してみるのが確実だと言える。
女性の骨盤をさわっていると、熱り立ってしまうこともあるかもしれないが、まだ我慢の時だ。
どうしても我慢ができないときには、男性の骨盤にフックを付けてハンガーを作るといい。その工作は簡単で10分前後で終わる。
私は男性の骨盤にはさほど興味はないが、適当なイニシャルを彫ってみるとより愛着が湧くだろう。
――それにしても、騒がしい
日が出ると騒ぐ虫みたいな奴らが、
周囲に引っ越してきたみたいだ。




