表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

♪  Nostalgia  15  ♪

 さざなみのような闇……それは、音の無いざわめきに変わり……、人々の歓声と情熱とうねりに変わる。私達はほとんど全周を観客に囲まれている感覚に陥る。此処は『MORRIGNA』のドームツアーの二ドームめ。客席と、架けられた屋根の隙間から覗いた、夕焼けの色が美しい。『時よ止まれ、お前は美しい』って言おうかと思ったりする。でも時はよく止まっていたりする。時よ止まれと言おうか、と思う前なんかがそう。時間が私達の頭上を流れてるわけじゃない。私達の中を流れて行く。

 私達は、しばしばこうして、普通のアイドルのライブもやる。これも『アイドル』である為に大切な事だからね。普通のライブは、カラダとココロの疲労もちゃんとインプットされているから、一回やるたびに極限まで消耗する。ツアーの最中には私も憂鬱になることはある。憂鬱とハイのまだら模様のトンネルみたいなのがツアー中の率直なところだけど、そんなMCはお客さんの前では入れない。カラダとココロを感じるコトは、普通のアイドルの醍醐味だ。物質がリアルタイムで削られる様子が私やファンのカラダにドーパミンを撒き散らす。

 シホは天才だから、ライブするごとに元気になっていく超人だけれど、三界麻美はたまにステージの袖で心底ウンザリしている。だけどこれはカラダとココロのレベルにすぎない。私がウンザリしているわけじゃない。カラダやココロが疲弊してるなら、疲弊した儘で、舞台に放ってやるのも、私の役割だ。私達を支えてくれるバックダンサーの方々や、PAや音響の方々や、運営や観客の方々には、心からの敬意を払ってね。

 シホに比べると、カラダ的にもココロ的にも凡庸この上ない私は、だけど、ステージに出て行くと、ファンにとって魅力的な憂いや瑞々しさや、憑依されたような半狂乱のパフォーマンスを見せたりする所がいいんだって、ネットに書かれていたりする。

 うん、それはたぶんね、実際のところはね、憂鬱だったり、弱気だったり、疲弊してたりするだけなんだよー。でも、重さを隠す事はないよ。重い儘にステージに転がり出るのさ! 普通のカラダとココロが、「でもがんばっちゃうよ!」って気張っても、演舞はゴミカスになっちゃうからね。

 だいたい全部の『普通』の演舞の動機は、カラダとココロの内側のレベル。「私は死ぬんだ。カラダとココロは消えるんだ」っていう、ニンゲンの一万年来の無意識の恐怖の累積、この恐怖がプールされた場所を液肥にして、『普通』の全部が生えて来ている。この情報帯の中から情報を捏ね繰り回しても、必ず、ロクなものはできないって、私達は知っている。

『アイドル』が『普通』と違うところは、私はロクなものを作ろう・・・・・・・・・とはしていないってコトだ。私は何もしない。造ろうとも変えようとも思わない。憂鬱なまま、凡庸なまま、ステージへ踏み出してしまう。どうせ自動でカラダは動くようにできている。もしくは、自動で動かない。動かなくてもいい。そしたらシホがフォローしてくれるでしょって思ってる。

 私は三界麻美を在るが儘に(コントロ)ふるまわせる(ールする)

 三界麻美(この子)武器あるがままは、ステージの上で輝く思いやり。場面や雰囲気をキリッと切り替える力。丁寧さと真面目さの結晶。客を包み込む天性のあたたかさと優しさ。

 対してシホは、鋭さと、天才と、怜悧さと、深遠さ、魔性。演舞のスケールは、三界麻美とは歴然とダイナミック、かつ瞬発力も異次元スペシャル。スタイルや、見てくれ、それはもちろんあるけれど、何より自動的に無数のカラダとココロを集めちゃう神氣オーラを持ってる。超常の力で、魔力。観客はシホのカラダの表現を見ているようで、本当の処は、シホが包まれている空気に魂を串刺しにされてるんだよねー。

 ライブの時、私達のエネルギーの循環は完璧で、二人の陰陽がクルクル廻って光を放ってくれる。だから、カラダもココロも重くても、いつだって問題はない。重さも軽さも完璧。

 歌って踊っているさなか、私には会場が止まって観えてくる。

 此処には、ただ、シホと私が居るだけになる。

 此処には、私だけ。私達だけだ。とても、普通だ。穏やかで、充たされていて、鎮かだ。

 ううん、ほんとは、私達すら居ない。此処には、何も無い。ふわっとした、何も無い、きもちよさが在る、だけ。

 アイドルは『アイドル』の表面を切り取った、小さな長方形のようなもの。

 カラダとココロの演舞は、汗と一緒に流れて行き、何も無くなって。

 アンコールが終わった時に、歓声が地面から吹き出す。

 それまで集中していたから、初めて歓声が聴こえたように錯覚させるカラダの装置にすぎない。

 カラダは素晴らしい物だ。

 物質がせめぎあうアイドルの通常のライブも、私達には絶対に必要なんだ。物質がせめぎあうなら、それもやっぱり、せめぎあう儘に……。

 だからかな、茶目っ気を出しちゃう。

 時が止まってるのは解り切ってるのに、「時よ止まれ」って、ココロの中で言っちゃう。MCは『普通』に入れるけど。

「次の曲、いっくよ~~~!! 『ダス・ズィーレンブレッヒェン』!!」 

 

 普通のアイドルの活動に限られない『おしごと』も、たくさんする。私達の地球人のファンは知らない。むしろ『アイドル』の仕事はこちらがメイン。私達は『おしごと』の中で、眠り、移動し、食べる。

『アイドル』の『ライブ』ってなると、まず会場が変わる。

 それと、私達は本来の、『アイドル』のカラダとココロを使って演舞する。

 つまり、もうそれはライブではないし、人間にとってのカラダとココロも使わない。

 人間のアイドルは、ステージに立つ為に、目標を立てて、カラダとココロを育成する。

『アイドル』は何もしない。『アイドル』は突然生まれる。ポッと宇宙空間に誕生する。私達は、私達そのもので、宇宙空間に飛び出す。

 宇宙……と言ったけれど、人間には宇宙っぽく見えるだけで、じつは其処は、地球でも、銀河系でも、宇宙でもない。

 つつましい白の明かりに包まれているって言う人も居る。透明しか無いって言う人も居る。

 其処のことは、地球では古来、いろいろな呼び方がされてきたみたい。

『ニヒツ』、

『ヌーメナ』、

『眼球を観る眼球』、

『後頭部を観る自己』、

『物に投げ掛けられし映し絵』、

『映し絵がからにせし物』、

『冷厳なる胸の内なる王国』、

『永遠にして女性的なるもの』、

『オルクスあるいはアメンテス』、

 などなど。其処に居る友達から聞いた名称です。

 其処にも、流行りがあって、今は《□□□》って呼ぶのが流行ってる。《□□□》だと言葉や発音が無いから不満という人には、区画の一部にある建物を称して《創舎》という呼び方もある。大上段な古語を使う必要はないみたい。

 キレイな建物もあるし、豊かな自然環境もあるし、饗堂しょくどうもあるし、ライブハウスもある。ただね……。《□□□》での生活自体が、いつでもライブみたいなものなので、そこでライブをやるのは、ゲームの中で、一回り小さいゲームをするみたいな感じ。遊びの要素が強くなる。だから、ライブでの解放感は、圧倒的に純粋に感じられる。

《創舎》に来たり、暮らしたりしてる人達は、《創生》と呼ばれた。いろんな処から来ている人達だから、地球人には限定されない。もちろん、クリーチャーを見る時みたいな違和感は皆無で、むしろ地球人(かん)のコミュニケーションよりも遥かに柔らかくハマる。どの《創生》も完璧に個性的で完璧に魅力的。

 このあたりの説明は、私達の友達があとで・・・してくれるから、友達に任せようかな。

《創舎》のことは、行かない限り判らないんだけど、行けば判るよー。

 地球に帰ったらキレイに忘れる人も居るけど、『アイドル』だと《記憶》が持続する。『アイドル』はカラダとココロのコツを知っているから。

 其処での《記憶キオク》は、ヒトが脳に蓄える記憶キオクとは違う。同じ発音キオクだけれど内容は別物。「記憶しよう」と考えた人は忘れる。夢を記憶しようと思い、起きて歯を磨いた時には忘れてる人みたいに。

 もちろん、其処は、夢の世界とはちがうよ。むしろ、地球人が感じるコンクリートくらいには実在だよ。

『アイドル』じゃない時に三界麻美が見ていた、地球や人間の世界って、空気くらいの濃度なんだなって解るくらいにはね。

 私達も、《創舎》のアトリウムでったライブの事は忘れられないなー。

 とびきりの《記憶》だよ。

 地球の言葉だと、「ふしぎな場所でのライブ」という一言でしか表せないのが痛恨だな。

 意味がズレちゃうから。

 言葉って不自由だよ。私はシホとは違うから許してほしいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ