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♪  Nostalgia  5  ♪

 私達は翌日にワープした。

 そこは志保がまさにレイプされそうな場面。

 私は『アイドル』なので、武術、超能力、特殊能力など、何でもありで、しかも何でも美麗。

 いじめメンバー達は、突然空中から現れた私に、驚きを隠せない。映画のように、光に包まれたスーパーヒロイン。『アイドル』の参上。

 私は踊りながら手刀一閃。美麗な赤の光をまとって、手刀は靜かな破滅を与える。

 主犯格を殺した。志保に絡んだ糸を切ってあげた。

 続けざまに腕を払うと、指先から赤い光の粉が円状にあたりをさらい、メンバーたちに降り掛かる。この出来事の後、志保をいじめていた記憶と、私に関する記憶を忘れる。主犯は自分達が殺したと記憶し、物的証拠も改変される。その魔法を掛けた。

 これで志保の身は安心だ。

 メンバーたちは、次は自分が殺されると恐怖したんだろう、散り散りに逃げ出した。メンバーの中に、太った男が居て、途中で転び、出口のドアに頭をぶつけて、出て行った。なんだあれは。現実の私並みの運動神経だなー。と、私は台本を読むように読む。

 この場は片付いたねー。

 遊びだね……。全部遊びに過ぎない……。

 志保は、いじめの期間が終わったことに、安心を取り戻せただろう。

 でも、安堵しているようには見えなかった。今は、子供だからねー。足元に落ちている死体を見て、おびえていた。

 ……ん、私の方を見て、おびえているのかな? 

 前もって言ったでしょ? 私が完璧に処理してあげる・・・・・・・ってさー。『アイドル』の仕事に、殺しが無いなんて、誰が決めたのかなあ? この処理・・がなきゃ、志保は犯されて、殺されていたんだよ? 

 単純な話だよ。相手が悪かったからでも、志保が悪かったからでもない。志保が「ついて行く」って言ったからだよ。自分の言葉・・・・・で。自分の言葉・・・・・の願いを叶える。それも『アイドル』の仕事なんだよ。

 現実世界では、自分が殺されるか、相手が死ぬか、の選択に見えるかもしれないけど、ほんとは選択なんて無いんだよ。全部、幻だよ。志保が・・・アイドル・・・・を掴んだ・・・・ってコト。それだけなんだよー。

 ね?

 ニコッ。私は笑う。志保には伝わったみたいだ。聡明な子だ。私が見込んだ子だ。言葉で理屈を重ねても、表面しか伝わらなかったり、歪んで伝わっちゃう、そういうコトってあるんだよ。だから無言で、心で直接、受け取れる聡明さは大事だね? 志保はその点、天性のものがあるよー。無ければ、まあ、『アイドル』なんて、できないからねー。

 志保は、改めて死体を見た。地面を見た。歯の根をがちがち震わせて、止まらなかった。瞳は固定され、暗いツヤを浮かべ、たぶん無意識に世界の全情報を読み取り、演算していた。志保がまとっている、人間の肉が、震えていた。死んだ肉体を、自分の肉体で感じ取っている反応。予期しない……するわけない……神経の全集中。此の場面を、無意識に、呆然の集中によって、読み取っている。

 私は志保を、おだやかに、見ている。天性のものを、解っている。肉から見た景色ではない。揺れて、振れる、感情でもない。正義とか、倫理観なんかの、思考でもない。事実を、掴む。

 しばらくして、志保はゆっくり目を閉じ、それから、私を見上げた。空気が変わった。同じ背丈の植物のように、さりげなく。寝入りばなのように、おだやかだった。私は志保の胸の中に、かすかに光る反応を認めた。瞬間、光は共鳴し、志保の中で大きくなった。私の光と、共鳴する。そうだ。私の全てを伝える。あなたは独り立ちする。

 志保は手を差し出す。私はその手を握る。私の光は志保に伝わって、二人を包み、恒星のように内側から光った。志保が『アイドル』として、歩み始めた。

 その後の志保の活躍は、人間世界で知られている通りだ。

 いつも私は居た。私は人間には姿を見せず、志保をサポートしていた。私と志保の関係は、二人の秘密だった。志保が才気を存分に発揮できたのは、いちばんは志保自身の力、その次に私がついていた事。志保は私の、特別に優秀な生徒だった。『アイドル』として順調に成長した。私は見守るだけでよかった。

 三年後、一度だけイレギュラーな出来事があった。

 あの日、廃屋から逃げ遅れたデブの男が、ごろつき集団の親玉になって、志保の前に現れたことだ。男は、あの日の事を覚えていた。私の魔法の効果が浅かったのだ。男は、「お前が殺したのは判っている。あの時の音声も全部録音していた。携帯電話に入っている」と言った。男は、情報を黙っている事の代わりに、自分を志保の専属マネージャーに就かせるように脅した。マネージャーという立場は表向きだ。生涯寄生し、強請ゆすって、志保の体と、志保が得た物や影響力と、金を吸い尽くして生きて行こうと企んでいた。男は確かに志保に携帯電話を掲げた。私は録音データなんて入っていないことは超能力で分かっていた。志保は成長途上なので、まだ超能力は使えない。でも私は黙っていた。志保に全部を託すことにした。志保は、うまくやった。男を殺し、男にまつわる全部の情報も、闇に葬った。自分独りの力で、全部やった。過去の亡霊は、完璧に消え去った。志保は、独り立ちした。

 じつは、三年後にあの男が因縁をつけてくる出来事は、織り込まれたイレギュラー。私の台本通り。

 志保の順調な成長を確かめる為に、私が織り込んだイレギ・・・・・・・・・・ュラー・・・だった。

 私は、志保が『アイドル』になるために教える事は、何も無くなったと確信した。私の全てを、伝え切った。


 それから、志保は、自分に降り掛かる火の粉は自分で払う超常の力を手に入れた。

『アイドル』の全能力は開花した。

 お別れの時が来た。二人は志保の部屋に居た。志保の身長は180近くになっていて、私は見下ろされていた。

 たしかに私は『アイドル』としては完璧な人物像だと自負している。

 志保は、私とは全く個性が違う、凄まじい『アイドル』に成長した。

 色は違っても、光は同じで、いろどりになっていく。

 こうして後進をお世話させてもらう事も含めて、私は本当に『アイドル』の仕事が好きなんだ。

「さようならだね、シホ」

「マミ、たまには遊びに来てね?」

「えー、来ないよ? 私達は・・・おしごとが忙しいんだから」

「省みない。前だけ向いてる。……マミらしいね。最初にシホを助けてくれた時、シホはマミのことが、天使か女神に観えたんだよ? それは今も変わらないよ? 今のシホの全部を、マミは教えてくれたんだよ」

「いやー、私は天使でも女神でもないよー。『アイドル』だよ」

「わかってる。マミらしいね。最後に、一つ教えて。『アイドル』にはたくさんのお仕事があるはず。でも、どうしてあの時、シホのことを助けに来てくれたの?」

「うーん……。それはね、言葉にするのは難しいかなー。でもね、私は完璧な選択しかしないよ。だから選択なんて無いんだ。一言でいえば……『アイドル』だからだよ」

「ほんと、マミらしいね。けど、どうしてシホを助けてくれたのか、解った気がするな」

 その時、志保は突然、目を閉じ、すこし顎を上げて、鎮かに佇んだ。

 私は、この空気の意味をよく知っている。

 私達にはよくあることで、志保は『おしごと』の情報を受け取っている。情報は、上空の深淵の彼方から、降りて来る。『アイドル』は一瞬で読み取り、自分の『おしごと』の内容や意味を理解する。『アイドル』になると、『人間』だった時の『個体』の特徴は、疎らになっていく。私達は、宇宙や世界の空間を通して、絶えず交流している、独つの虚ろな情報体で、その一部となってゆく。志保も此処まできたかー、と思うと、なおさら感慨深い。

 そして私は、一瞬、志保に観惚みとれていた私に気付いた。

 たぶん、志保が最初に、私に観惚れていたように。

「……じゃあね、シホ」

 私は情報を読み解いている志保の邪魔にならないよう、静かに呟いて、部屋から飛び立った。

 部屋の壁を抜けて、ギラギラ輝く星の夜空の上方へ、私は吸い込まれて行く。心地いい。地上のどういう温泉に浸かるよりも。

 ……さて、私のつぎのおしごとは、何かなあ。

 ……やっぱり、『アイドル』って、いいなー。

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