第十九話 温泉の村ドン
白いドラゴンの活躍で衛兵たちの護衛任務の意味が無くなり、ブリストルの要人たちは予定よりずっと早く到着した。さっそくドンの村の人たちと大地の精霊の遺跡で会議を始めていた。
ズウリエル「確かに、これだけのことが起きていれば手紙の内容もおかしくなるわけだ。一体どんな奇跡が起こったというのだ」
ドン「全てはあの白いドラゴンが現れてからです。ともかく、温泉の効能も確かだし、村の名物になるようなイベントや見世物まで出来ました。観光地としてこれ以上ない場所でしょう。道が整備されれば東側との交流も盛んになるのが目に見えます! ズウリエル公爵、人員と物資の強化を!」
ズウリエル公爵はしばらく悩んだ。
温泉地というのは興味をそそったが、観光施設のみというのが踏ん切りをつけられない理由だった。軍の攻略拠点としても機能させたいし、もう少し山を切り拓いておきたいところだった。
他にも思うことはあったが、一番のネックはブリストル湖の西側が整理されつつあるという状況だった。白いドラゴンによって厄介なモンスターが倒され、真っ先に開拓しておきたかった土地は手に入ったも同然。西側が整地されれば漁港との連絡・運搬が大幅に短縮・改善される。
見通しが読めないが収益に繋がりそうなドンの村からやるか、それともブリストル領中央の街の整備が先か。選択を迫られる。
ズウリエル「ドン、わかってくれ。優先度や現実的観点から言って、ブリストルのほうが先だ。西側が整備されれば輸出入・運搬量もさらに増える。こちらへの支援も後々もっと充実させられるんだ。復興のことと、やれる限りはやらせるからしばらく待ってくれ」
ドン「むうう…………、かしこまりました」
フォスター「お待ち下さい」
声を上げたのは建築家であり大工の頭領フォスター伯爵だ。
フォスター「ブリストル西側の工事にわざわざ私が出向く必要もありません。城壁を延ばして街を造るだけなら、ここにいる大工たちだけで十分やれます。私だけはここに残って村づくりに貢献するというのはどうでしょう?」
ブリストル「しかし…………いや、それならば手を打とう。だがしばらくこちらへの大きな支援は期待できんぞ?」
フォスター「ここは未開の地、いずれにせよ時間のかかる作業です。先に私が全体の形づくりをしますから、設計図さえ作っておけばある程度は彼らでもやれましょう。それに、ここがブリストルの要になるのは明らかです。それを確実にやれるのは私しかいない」
村長ドンもその言葉を後押しし、ブリストル公爵もいくらか条件付きで納得した。
フォスター「とにかくこの村の現状把握をしておきませんと…………。ドン村長、この土地に慣れた者を数名集めてくれ。あなたも一緒に来て詳細を。ほかの者と大工は新しい家造りだ。ブリストル公爵、衛兵隊も着たら手伝わせます。地震で決壊した家の解体からやらせて下さい」
ブリストル公爵は、あとの現場仕事のことは彼に任せ、自分も土地を見て回るのに参加することにした。
彼らと大工と村人たちはすぐさまそれぞれの仕事についてあれこれと家のことをやり始めていった。
バササッ!
彼らが外に出ようとしたころで、遅れてきた大工とリサも到着する。
『ブリストル公爵、伝言は伝えておいた。』
ブリストル「ありがとうございます、ホワイト様」
ドラゴンから降りた大工たちは尻餅をついて、立ち上がるのに時間がかかっている。
白いドラゴンは彼らを降ろすと、振り返ってまた飛び立とうとした。
ブリストル「どちらへ?! 衛兵隊は荷馬車がありますから持ってはこれませんよ?」
『私も、貴様に習って友を歓迎してみようと思ったのだ。不器用ゆえ寝床や料理までは用意できぬが、食べ物を獲ってくることはできる。しばし待たれよ』
ドスドスドストットットッ ぶゎささっ!
その後、彼はブリストル湖の西側でメガロサウルスを狩猟する姿を目撃される。
メガロサウルス群の討伐に出ていたブリストル騎士団・傭兵・冒険者の連中にはそれぞれどう映ったかは記されていないが、“ブリストルの白き友”が彼らを救ったという伝説が残った。