第十四話 暁のブリストルと白龍伝説
空を翔びたかったチャーリーの夢は叶った。全身を高揚感が貫き、目からは恐怖と嬉しさで涙が溢れて止まらなかった。
チャーリー「フォーーーッ↑↑ はっはっはっはっ! 死ぬところだ!!」
『無茶をする。さて、獲物はどこか』
チャーリー「向こう! 湖の西側にメガロサウルスの棲み処があります! やつを捕らえるのは悲願だったんだ!」
『トカゲか。一気に降るぞ、次は保証せぬ』
チャーリー「ああ!!」
チャーリーはがっしりと首元にしがみつくと同時に、重力が完全に無くなるのを感じた。
ドラゴンの毛のおかけで風はふんわりとしか感じない。彼は重力から解放された。まさに自由な状態だった。
チャーリー「ぬぐぐくくぅ!」
地面が迫る。龍の咆哮。気持ちいい。風が重たい。メガロサウルス。鱗。衝撃。重力。恐竜の咆哮。指に何か当たった。体が持ち上がる。暗い。空。雲。頭が重い。腕に力がはいらない。落ちる。死ぬ。メガロサウルス。地上線。山並み。水平。ブリストル湖。ブリストル城。生きてる。
チャーリー「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
一瞬の出来事だった。気付いた頃にはドラゴンの口に巨大なメガロサウルスが咥えられていて、また同じ空を飛んでいる。
ガッ! クアッ………… キュウ
目の前では、白いドラゴンに咥えられた巨大なメガロサウルスがその息の根を止められた。
チャーリー「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……はぁ……すぅ……ホワイト様! その大きさはベランダには入りません! 城の前の広間に置いて下さい!」
『…………焼け』
チャーリー「えっ?」
『旨く焼けよ。こいつは臭い』
チャーリー「はっ、ハハッ、はっはっはっはっ!! ええ、美味しく調理させましょう」
ブリストルの伝説は、こうして一つ増えた。
湖の先にいたメガロサウルスのボスは、ブリストルの騎士チャーリーと白いドラゴンによって討伐された。
ただ、チャーリーは【勇者】にされるのは拒んだ。自分はブリストル城の誇り高き騎士だ。名を残すなら『暁のブリストルにある騎士チャーリー』として残したいとそう言った。
チャーリー「私はホワイト様に掴まってただけだ。名を残すなら個人の栄誉で残したい。『幸運にも美しいホワイトドラゴンに乗って空を飛べた男』というならいくらでも残してくれて構わないぞ」
しかし、町民だけでなくズウリエル公爵としてもブリストルに伝説のひとつは残しておきたかった。
真実を残すのとは別に、絵本の物語として騎士チャーリーと白いドラゴンの話を作らせるということで落ち着いた。
夜になると城で夕食会が開かれる。今回の獲物はあまりにも大きいので衛兵たちにも振る舞われた。
湖の西側を占領していたメガロサウルスの群れも、厄介なボスがいなくなれば片付いたようなものだ。今回の件をキッカケに一気に攻略しようと全員が沸き上がっていた。
ズウリエル「ブリストルは幸運だ。ホワイト様、我々からあなたに協力できることがあればお申し付け下さい」
『それは今後に頼む。それにしても、んまいな』
チャーリー「うん、うん。最上級ではないが、イイな。スープが実にイイ」
リサ「ちょっと硬い」
エリザベス「あらリサ、ナイフで細かくすれば大丈夫よ。ほら」
衛兵たちが酒を飲んで徐々に騒ぎ始める頃、リサはチャーリーに一つだけ聞いておいた。
リサ「ねえ、チャーリー。あなたダーン・ブリストルって言ってたでしょう?」
チャーリー「はい。私の名前が何か気になりますか?」
リサ「わたしのおばあちゃんも同じなの! クラリス・ダーン・ブリストルって。もしかしてクラリスおばあちゃんの子供なの?」
チャーリー「ほお…………ドンの村にもそんな人物が居たのか。なるほど発展するわけだ」
エリザベス「チャーリー、リサにちゃんと答えてあげて?」
チャーリー「すまない。ダーン・ブリストルというのはつまり、ブリストルの選ばれた騎士といった意味あいなのだ。『暁のブリストル』といって、この地を治めた最初の人物、ブリストル卿が決めたものさ。この街と領主に忠を尽くすために、我々『暁のブリストル』は産まれ持った名前を捨てるんだ」
リサ「じゃあ、おばあちゃんは本当の名前があるのね?」
チャーリー「我々騎士にとっては『暁のブリストル』が本当の名前だよ。過去は捨てたんだ」
だんだん大人たちが騒がしくなっていくので、エリザベスはリサとホワイトを案内して自分の部屋へと連れていった。