第十五話 欲望
大きな街ブリストルで大手柄を立てた白いドラゴンと、それに乗っていた騎士チャーリー。
ブリストル城では宴会が催されたが、衛兵たちが馬鹿騒ぎを始める頃合いになるとリサとホワイトは静かなところへと案内された。
エリザベス「特別なお客様ですからね、私の部屋へどうぞ。食べ物も運ばせましょう」
城の塔のひとつが領主ズウリエルの娘エリザベス嬢の部屋になっている。立派な部屋だった。
リサは今日存分にお姫様気分を味わい、人生で初めて甘いジュースをたらふく飲み、綺麗な服に囲まれて、美しい女性とも友達になって、満足そうにベッドで眠り始めた。
エリザベス「あらあら、ずいぶんと走り回っていたものね」
エリザベスとリサはすっかり仲良しになっていて、彼女は小さな妹ができたのを喜んでいた。
エリザベス「私も、こんな元気な子が産めるかしら…………」
ぷしゅーーーっ!
白いドラゴンも満腹感に満たされ、エリザベスに感謝した。
『美味であった。人間は弱いかもしれないが、料理を作る腕は一番だ。礼を言う。腹だけではない、心まで満たされた』
エリザベス「最上級のお褒めの言葉ですわ。ドラゴンの舌と心を満たしたのだから、料理長も喜びます」
エリザベスはドラゴンのために寝床の用意を始めた。メイドたちもそれに付き合って、クッションというクッションを集めて回ってきた。
『ひとつ聞きたい』
エリザベス「はい?」
『なぜ、貴様ら人間は他人に飯をやり、寝床まで用意し、心ゆくまでのもてなしを必死にするのか? 私に恐怖心を懐いているからと思っていたが、それだけではないようだ。だから余計に気になった』
エリザベス「お客様ですもの」
『お客様?』
エリザベス「招かれた客人に精一杯尽くして喜んで頂くことに、私たちも喜びを感じるのです。確かに友達同士の関係とは違いますが、相手が楽しめれば私たちも楽しいのです」
『相手が喜ぶのが喜び…………まるで謎かけだ』
エリザベス「ふふふふふっ。ホワイト様はとても面白い方です。あなたも同じことを感じていると思っていました」
『私が?』
エリザベス「我々のためにとても大きなメガロサウルスを獲ってきてくれました。衛兵たちがあんなに喜んでいるのは久しぶりです。みんな美味しそうに食べていたのを、見ていませんか?」
『…………。』
ホワイトは、確かに自分のしたことに疑問を感じてはいた。ただ、メガロサウルスは一人で食べるには大きすぎたし、リサの分も獲ってきただけのことだった。人間に料理をさせたのは自分のためであるし、肝心の魔石は全部貰っている。
だとしても、また自分の知らない感情がどこかにあるのを感じていた。
「…………さて、私も湯浴みをしてきます。リサの相手は面白いけど、疲れました。ばあや、あなたたちも大丈夫よ」
メイドも下がり、部屋にはリサとホワイトだけが残った。ベッドでいびきをかくリサの匂いを嗅いだあと、ベランダへ出て少し欠けた月をじっと見つめていた。
この部屋にチャーリーが入ってきたのはそのあとだ。
彼は少し酒を飲んでいたが、足元はしっかりしているし、表情も髪型も緩んではいなかった。
ドアを叩いたら開いていったのと、ベランダのドアが明けっぱなしだったので不安になった。
チャーリー「リサ? いるのか?」
ドアを閉め直し、薄暗い部屋の中を月明りを頼りに進んでいく。
ベッドには少女しかいなかった。少女が目玉をひんむいてイビキをかくのはチャーリーには見えなかったが、見えていたとしても見なかったことにするだろう。
開いているベランダへと進むと、月明りを受けて青白く光るドラゴンを見つけた。チャーリーはしばらく見惚れたあと、声をかけた。
チャーリー「ホワイト殿?」
『うむ?』
ベランダの舳先で佇むドラゴンが振り返る。神の使者が天界から迎えに来たような感覚だった。
チャーリーは思わず声を漏らした。
チャーリー「うぉぉ……ハッ。リサ……あ、エリザベスはどちらに?」
『湯浴みをすると言っていた』
チャーリー「なるほど、失礼しました。ドアがどちらも開いていたので、気になりまして」
白いドラゴンは彼を見てしばらく考えた。




