お題→エプロン、ゴブリン、ポリプロピレン
「ねぇ、この女、誰」
妻が差し出した写真。
それは、私が妻以外の女性──総務課の鈴木さんとともに、ホテルから出てくる瞬間のものであった。つい先日、一度きりの火遊びと思って行ってしまった不貞である。
私の心臓は助けを求めてバクバクと暴れる。
「こ、これは私じゃないよ」
「はぁ?」
「全然、ぜんっぜん身に覚えがない。ははは、いやホント。別人の写真なんじゃない」
「……こんなゴブリン顔、あんた以外にいるわけないでしょ。バカじゃないの」
目が泳ぐ。
冷や汗が吹き出す。
一つだけ言い訳をさせてもらえるのなら、これは鈴木さんから誘ってきたのだ。社内でも「後腐れなく遊べる」と噂の彼女から、部署の歓送迎会の場でこっそり話しかけられて──。
小柄でガリガリで髪も薄く「ゴブリン」というあだ名で呼ばれる私の何がそんなに気に入ったのかはわからないが、これまでまったくモテなかった人生、一度くらいオスの欲望に身を任せてみたくなったのである。
妻は大鬼のような顔で私の胸ぐらを掴み上げる。
「じゃあ、百歩譲ってこれがあんたじゃないとしよう。そうしたら──」
そう言って、スマホの画面を切り替える。
別の証拠でもあるのか。
正直もうやめてほしい。
「──これはどういうこと?」
見せられたのはスマホの画面。
なんと、私と鈴木さんのやりとりの画面キャプチャである。
『裸エプロンなんて初めてで興奮したよ』
『またまた。奥さんとやらないんですか?』
『うちのオーガはそういうのダメだから』
『ふふふ、可哀想。あたしで良ければまた遊ぼ』
私の背中をゾクゾクと寒気が襲う。
もうダメかもわからんね。
「これは何?」
「えっと、ほ、ほら、同僚の山崎いるだろ。あのお調子者の。あいつが会社で裸エプロンなんかしてたから、そそそそその話題だよ」
「オーガって?」
「な、何語だったかなぁ……愛すべき可愛い奥さんのことをオーガって呼ぶ習慣があるんだよ、たしか東南アジアの方。聞いたことない?」
「…………へーぇ」
大鬼のこめかみがピキリと音を立てる。
直視できない。
あ、これはあれか、美人局的なやつなのか。
実は鈴木さんと妻はグルで、私を陥れるために共謀して証拠を揃えて。もしや、高額な慰謝料をむしり取られるのか。仮にそうだとしても、実際にやることはやっちゃったわけだし、状況が絶望的なのに代わりはないか……。
妻はスマホを操作する。
別の画面を見せてくる。
『今度3Pしようね』
「3Pって何?」
「ポ、ポリプロピレンの略です!」
「こんの大馬鹿野郎っ!!!」
真っ赤な顔で目を釣り上げ、角が幻視できるほど完全に大鬼になった妻。左手が私の首を絞め上げ、右手はきつく握られる。
──全力の拳が私の鼻骨を折った。





