75 激闘…その1
「うひぃ!なんだここ!?周りがえらいことに…」
「『業炎の間』…まさに炎に包まれた世界だ。生身の状態でここにいればすぐに倒れるだろう…」
はぇぇ…。予想はしてたけど予想以上…。階段を抜けたら火柱があっちこっちに吹き出してやがる…。なんかのゲームとかでよく見る光景…。んでも…ここまでリアルだと迫力に圧倒されるぜ…。
とりあえずティナの魔法で大丈夫だが…なんの対策もなく進んだら一発でKOだな…。
「…ここからまた階段目指すのか…。ちっとしんどいな…」
「そうだな…敵に見つからないように慎重に行こう」
「ティーも…頑張るのね!」
つーわけで…俺たちはそれぞれ覚悟を決めて焔の森を突き進むことになった…。…どんな化けもんが出るかはわかんねぇが…大丈夫だろ!
ー
タッタッタッタッ…
…と思ったんだが…。
おいおい…どーいうことだよ…。無茶苦茶慎重に進んで…見つからないようにしてるのはいい。
いくらなんでも…静かすぎるぞ!火柱吹き上がるエリアで静かもなにもないが、てっきり看守の軍団が辺りにうろちょろしてるかと…。
なのに…誰一人いねぇ!むしろ気味が悪いぞ…。
「…なんか…気持ち悪いのね…!」
「確かに…いくらなんでも不気味だ…」
さすがのティナもレイヴォルトも…妙な空気に気がついたようだ…。まさか…罠でも張られてるのか?だとしたら…
「…スキルを使ってみるか…?」
俺のそんな考えを…レイヴォルトはすぐに改めさせようとする。
「いや…その必要はなさそうだ…」
「ん?なんでだよ?」
「このエリア…私の直感だがあえて何も手を加えてないように見える。看守も…罠も必要ないと向こうが判断しているかのようだ…」
「おいおい…ますますわかんねぇ…。そんなことする理由があるか?」
「…思い当たることはある…が…」
そこでレイヴォルトは言葉を切ると…何か考えているようなそぶりを見せる…。難しそうに…そんな表情を浮かべながら、次に口から出た言葉に…俺は呆気にとられちまった…。
「…ここで一旦お別れだ」
「…はぇ?なっ…なんでだよ?」
「…おそらく…私の予想通りならそれが一番の方法だ。すまないが…」
「いやいや…すまないじゃねぇって!お前いないと…ここから抜け出せねぇよ!」
「…今は私の言うことに従ってほしい…。信じてくれ…としか言えないのだが…」
うーむ…。そんなこと言われてもだな…。こんなんじゃあ…俺たちヤバイだろ…。まだ上が残ってるってのに…。
俺があたふた焦っていると…横にいるティナは呆れたようにため息をつき、話に入ってきた。
「ふぅ…ユキ…レイヴォルトに従うのね!」
「へぁっ!?ティナまで何いってんだよ!」
「それはこっちの台詞なのね!今のレイヴォルトの説明聞いたら…すぐわかるのね!」
「はっ…はぇぇ?」
「とにかく!ここでお別れするのね!後で合流するだろうし…そうなのね?レイヴォルト…」
「あぁ…そうだな…」
あー…もぅ!なんか二人の間だけ話が通じてんですけど!頭の回転悪い俺は蚊帳の外かよ!
「くっそ!わかったよ!ティナ!後で教えてくれよな!」
「ふぅ…わかったから…進むのね!」
「はいよ!レイヴォルト!んじゃ…上で待ってるからな!」
「すまない…すぐに追い付く」
…という感じで…
俺とティナは上のエリアを目指して…。レイヴォルトは『業炎の間』でそのまま待機することに…。なんの狙いがあんのかさっぱりだが…ややこしいのはあとにするか!
レイヴォルトを信じるしかない…。次のエリアで何が起きようとも…踏ん張ってやるさ!
ー
…
ユキとティナの二人がその場をあとにした直後…レイヴォルトは姿の見えない者に向けて口を開いた…。
「…さて…そろそろ姿を見せてもらおうか…。私の足止めを目的としているなら問題はないだろう?」
その瞬間…
フォン…
「ふん…やはり気がついたか…。あのまま三人で上を目指すつもりなら、まとめて闇討ちするところだったが…」
大男…ヴォヴォルが現れた…。太い幹のような腕…ゴツゴツした両手はまさに怪物のようなもの…。大斧を手にレイヴォルトを睨み付ける。
辺りには猛烈な火柱が吹き出し、いつ戦いが起きてもおかしくない雰囲気が漂う…。
「ヴォヴォル…こうして相手をするのも久しぶりか…」
「…ふん…この若造が…。年が離れていながら俺と肩を並べていた…剣術訓練所の頃を思い出したのか?」
「そうだな…あの頃はお互いに必死になっていたな…」
「…つまらんことを…」
それでも…ヴォヴォルの胸にはほんの少しの高揚があった…。もうすでに過ぎ去った思い出…。互いに道は別れ…それでも再び相対することになった…。
任務には忠実…。だが、己の実力をぶつけたいという個人的思考もそこに存在する…。
そこでふと…ヴォヴォルは気になることを口にした。
「…あの人間に協力する理由…。やはり女か?」
「…!」
「図星か…。まぁ…詳しく聞く気はないがな…」
「覚えていたのか…私のあの話を…」
「訓練所で一度だけ聞いたな…。『彼女への贖罪』だの…『私の罪』だの…。訳のわからん懺悔のつもりだったようだが…。女はお前の前から消えたようなニュアンスに聞こえたぞ…」
「…そう…だな…」
いつになく歯切れの悪いレイヴォルト…。そんな姿を見てヴォヴォルは心底呆れながらも、一定の同情を胸に抱いた…。
だが…ここは戦場。そんな思いはすぐに霧散する。
ドォン!
大斧が地面に打ち付けられた瞬間…周りは大きく震える…。それがレイヴォルトの心を引き締めることに…。
「…!」
「レイヴォルト…下らん話もここまでにしよう…。俺たちに必要な会話は闘うだけでいい…」
「…あぁ…たしかにそうだ」
チャキッ…キィィン…
レイヴォルトも剣を抜く…。リィクリィアルではない…それでも美しく輝く刃を…。
そして…
「…ヌァァァァァ!!」
「…フッ…!」
ダッ…ギィィィィン!!
…ドォォォォン!!
ヴォヴォルとレヴォルト…両者の間合いが一気につまり、大斧と剣が激しくぶつかり合う…。誰にも見られることのない…激闘が始まった…。




