73 両者再び…
「…ひひっ…やられましたねぇ…。あれが剣聖の本気とはねぇ…」
「…ふん!お前に倒せるような相手ではない。わかったか!」
「…ひひっ…!それはもう…」
バルコス含め多くの看守が戦闘不能に陥ってから数十分後…。ヴォヴォル看守長の指示により全員を介抱することに…。
何人かは意識もあり、大事には至らず問題はなかったものの…。
「…剣聖…レイヴォルト…。まさか囚人に手を貸すとは…」
「この国の最高戦力だ…。捕まえられるわけない…」
「…くそっ…!」
レイヴォルトが敵に回った…という事実に苦悩することになった…。何人かは戦意まで削がれ、士気も低下…。これでは…脱獄囚を捕まえることも難しくなってくる…。
それを感じ取ったヴォヴォルは…
バァン…!!
「「…!」」
「お前たち…こちらを見ろ…」
両の手のひらを打ち、周りを一喝…。全員が向いたのを合図に…よく響く声で語り出す。
「確かに…あのレイヴォルトが裏切ったのは予想外だろう…。怖じ気づくのも理解できる。だが!だからといってこのまま引き下がるのか!?お前たちは…そんな矮小な存在なのか!?」
「「…!」」
「問おう…。俺のあとに続き…再び戦う意思のあるものはいるか?己の犠牲を…友の犠牲を乗り越え…使命を全うするものはいるのか!?」
「「…我々は戦います!全ては己のために!」」
「戦え!勝利は我々の手にある!今こそ…あの者たちに知らしめる時だ!」
「「はい!!」」
ヴォヴォルの叱咤激励に勢いづく看守たち…。そこには先程までの落胆…気落ちはない。皆が顔を紅潮させ、闘志を燃やしているのがわかる。
そんな中でも冷めているのは…
「ひっ…まったく…下らないですねぇ…」
バルコス一人…。他の者に聞こえない小さな声で独り言を呟く…。それでも…内心ではヴォヴォルの演説に感心しているようで…。
「…しかし…ここのトップはやっぱりあいつになりますねぇ…。まったく…恐ろしいことで…」
そう口にしながらバルコスは考える…。果たして奴等は今ごろ何をしているのか…。脱出の算段をつけたのかどうか…。そして何より…再び戦うことができるかどうか…。
「…獲物は…渡したくないですねぇ…ヒッヒッ…!」
バルコスのそんな企みには誰も気づいていない…。気づこうともしなかった…。
ー
…
「…つーことで…再度脱出計画を立てとくか!」
「ふぅ…全く…参ったのね!」
「…今度は慎重にしなくてはいけないな…」
あれから…それなりに休憩した俺達は再び行動に移すことになった…。んまぁ…ここまで誰も欠けることなくたどり着いたのは嬉しいが、ホホゥやバルコスに痛め付けられたからな…。作戦を見直す必要があるって訳よ!
「…んでよ…この暗黒の間からどーやって進む?」
「…そうだな…。ここからは複雑に道が別れている…。それに光もない。変に鉢合わせするのを避けるため、有効なスキルを使って移動するしかないな。これまでのように敵を倒して進むのは無しだ」
「有効なスキルかぁ…」
確かにレイヴォルトの言う通りだ…。魔法も使えない暗闇の中…。どんなことが起きるかさっぱりだ。氷雪の間みたいに敵を倒しつつ罠を探る…ってのは通用しない。とにかく…隠れながら進むのが一番だな…。
「そーなると…『潜伏スキル』を使いながら進むのがいいわけだよな…」
「ただし…当然光が必要になる。光を発したまま進むと、敵と遭遇した時バレる恐れがある」
なるほど…。確かに『潜伏スキル』を使った状態で光を発すると面倒だ…。
俺たちの姿は感知されないが、光だけは誤魔化せない。敵から見たらなぜか何もないとこが光って見えるんだよなぁ…。
おっと…念のため説明すると…。
『潜伏スキル』を使用した場合…使用者やそいつに触れているやつには効果があるみたいなんだが…。残念なことに…触れていないものには効果がないらしい…。
ここら辺の基準はやや曖昧なんだが、例えば足跡…体につけた香水の匂い…体臭…。そういったものは基本的に相手にも感知されるんだとよ。
「んじゃあ…どーする?」
「…私が目になろう。実は有効なスキルを持っていてね。君は『潜伏スキル』を使用…私が別のスキルで暗闇を攻略して案内…。それでどうだ?」
「おー…!それいいな!」
確かに…光を出さずにスキルで暗闇を対策できるなら十分…。問題もないな!そうやって感心してると…
ゴソゴソ
「ティーはどうするのね!?」
「おおっ!?ティナは…だな…」
そういやティナのこと忘れてた…。俺とレイヴォルトだけで話してたら気がつかんわな…。
んでも…正直ティナの活躍はちょっとムリだろ…。
暗闇だから影人としての力は使えないし…魔法も制限されてるし…。せいぜい俺の背中に引っ付いているくらいしか…。
ただ…
「…どっ…どうするのね!ティーは…何かできないのね!?」
「あ…うーんとだな…」
これはマズイ…。なんか泣きそうになってるぞ…。
「なにもしなくていいぞ!」
…なんて言ったら怒るだろうなぁ…。なんか役割与えないと…。うーんと…えーと…
「ティナさんはアイテムを使って敵の妨害…誘導をしてくれないかな?そうすればこちらの脱出もスムーズになる」
「ティーは…アイテムの管理なのね!」
「非常に重要な任務だから気をつけて…」
「わかったのね!」
おぉ…!レイヴォルトのやつ…上手いことフォローしてくれたぜ!中途半端な仕事じゃないからティナも満足してる…。本人も嬉しそうだし…。
いやぁ…ティナも精神年齢高そうで、実際は年相応な子供なわけだ…。
「…ありがとよ!レイヴォルト!」
「いや…彼女にしかできないことを伝えたまでだよ」
「それでも…まじでサンクス!」
俺は小声でレイヴォルトに感謝の気持ちを伝えることに…。これで…張り合いのある大脱出ができるわけだ!
「よし!行こうぜ!これから正念場だ!」
そうして…俺達は再度脱獄へと挑戦することになった…。




