72 地下3階『暗黒の間』
「うぉぉぉぉ!!あの長髪野郎!嘘つきやがってぇぇぇ!!」
「…しっかりと走るのね!やられちゃうのね!」
「走ってるっての!!」
チュドーン!!…ボーン…!
「くそっ!思いっきり狙われてやがるな!」
ちくしょう!レイヴォルトの側から離れるのは危険だった…!バルコスの言葉をそのまま鵜呑みにしちまうなんて…。
無理にでも一緒に戦うべきだったんだろうが…こーなっちまったら仕方ねぇ!逃げまくるしかない!
この極寒の世界を…どこから大砲が飛んでくるかしっかり見極めねぇと!
ヒュゥゥゥゥ…ドォォォン!!
「くぉっ!?…んにゃろう!よくこんなにぶちこめるな!」
…つっても…こんな派手にやられるとこっちも体力もつかどうか…。しかも大階段からどんどん離れてるよーな…。
「…!お前!ティーの…股に…変な感じがするのね!そんなに揺らさないでほしいのね!」
「いや…こんなヤバイ状況…肩車してたら当たり前だろ!ちっとは我慢しろ!」
「ぬぬぬ…!困った…のね!」
ティナは俺の頭を掴みながら、ゆらゆら揺れた状態で肩車されているわけだが…なんか怪しい気分だぜ…。…いやいや!俺はそんな変態じゃないぞ!
…じゃなくて!
こんなにも不利な状況…。なんとか脱しなくちゃなんねぇのに…。
スキルを使ってみるか?潜伏スキルなら…。…いや…ここまで滅茶苦茶に打ち込まれたら意味ない…。それに…大砲一発の威力がデカイ…。隠れても攻撃を潜り抜けれるかどうか…。
くそっ!逃げるしかないのか?
…そう思っていると…
「…!?早く走るのね!」
「はっ…はぁっ!?めっちゃ走ってるけど!?」
「違うのね!向こうの方から…とんでもない光が…くるのね!」
「とんでもねぇって…何が…」
ティナからそう言われて…俺は全力疾走のまま顔だけを向けてみると…
ブァァァァァァァ…!!
「ほぁぁ!?なんじゃこりゃあぁぁぁ!!」
ものすごい光に一瞬にして包まれて…俺達はそのまま意識を失っちまった…。
ー
…
次に目が覚めたとき…俺は寝転がった状態だった…。地面は妙に固いコンクリ…じゃなく石畳…。体はなんとか動かせることからダメージは負ってねぇみたいなんだが…。
うーむ…あれから何があった?
そんな俺の疑問に答えるかのように…
「ようやく目が覚めたみたいだな…」
「…!…レイヴォルト…!」
「ティナさんも無事だよ。安心していい…」
「おっ…おぅ…」
起き上がった俺の少し離れたところにレイヴォルトが…。なんか…妙に薄暗いところだなぁ…。逃げまくってたのは覚えてんだけど…。
「なぁ…あれから何があったか知ってるか?ティナと一緒に走り回ってたのしか覚えてねぇ…」
「…バルコスが妙にしつこかったからね…。こちらも少し本気を見せたんだ…」
「本気?」
「『リクリィアル』…私にしか扱えない禁断の聖剣…。それを使って奴等をまとめて無力化したんだ」
はぇぇぇ…。そんなもんあるんだ…。禁断だの…聖剣だの…男心をくすぐるネームだなぁ…。
んでも…気になるのが…
「…その聖剣で無力化って…よくわかんねぇな…。一体何をしたのか…そこんとこが知りたいんだけど…」
「…『リクリィアル』には様々な神獣が宿っている…。今回は不死鳥…ルカルを呼び出したわけなんだが…」
「…不死鳥…」
「ルカルの姿は光輝く巨鳥…。その光を見たもの…浴びたものは意識を失うことになる…。本来なら…むやみやたらと顕現させるのは避けたかったんだが…」
なるほど…。そのルカルってやつを出現させたから俺も…ティナも…そんでバルコス含めた看守の奴等も戦闘不能にしたのか…。
そんでレイヴォルトは俺たちを探して…安全な場所まで運んだと…。
「…なんかわりぃな…。色々と…」
「…気にする必要はないし…そもそも私の判断不足だ」
「…そうか…」
レイヴォルトの奴…冷静な表情してるが少し疲れてるような…。不死鳥を呼び出したのが相当辛かったのか?
…とにかく今は休息が優先だな…。…おっと…まだ聞くことあったな…。
「ところで…ここってどこ?」
「…氷雪の間を抜けた地下3階…暗黒の間…。その隠し部屋の1つだ。今はアイテムを使って見えるようになっているが、光量を少し抑えている」
なるほど…暗黒の間か…。どおりで暗いわけだ…。とにかく脱出に一歩前進したのは良かったな…。この調子で昇りきればいいんだが…。
そんな俺の焦る気持ちを察したのか…レイヴォルトは冷静に語りかける。
「とにかく今は休んでくれ。看守も探し回っているが、このエリアはむやみに動き回るのは良くない。頃合いを見て…脱出を図る」
「…おぅ…そだな。ティナも疲れてんだろ?ここからは見えねぇけど…」
「あぁ…。別の所で休んでもらっている」
ふーむ…。とにかく体力回復が優先だな!ここからの脱獄…時間をかけんのは不安だが、レイヴォルトがいるなら安心…だろ…多分…。
そういうことで…俺達は鋭気を養うべくゆっくりすることになった…。




