71 剣聖の実力
「なっ…勝負って…!」
「ヒヒッ…まぁ…そんなに気ィ張らんでもいいでしょう…」
バッカ野郎!こっちはホホゥと戦って疲れてんだ!今になって戦うなんて…そんなの…。
「…どうするのね!?このまま…こいつの相手をするのね!?」
「んなわけねぇだろ!逃げるぞ!」
ティナの問いかけに早口で応えると、俺はそのまま全力Bダッシュで逃げようとした…が…
ガシッ…!
「…待て。ここは私が出よう」
突然肩を捕まれて振り返ると、レイヴォルトの奴が真剣な眼差しでこちらを見据える…。
「んなっ!レイヴォルト!一人で戦うってのか!?」
「私の不注意で君達に負担をかけたんだ。今度は任せてくれ」
「おっ…おぅ…」
おいおい…。えらい展開になってきたぞ…。副看守長で危険な男と国一番の剣聖の戦い…。なんだか面白いのか…ハラハラするのか…。
「…ヒッ…まさか…あんたと戦うなんてねぇ…。面白くなりそうで…」
「手加減はしない。こちらも急いでいるものでね」
「…あんたがなんでこいつらに手助けするのか…。まぁ…なんかあるでしょうが…どーでもいいですねぇ…。こちらとしては戦うだけで十分なんで…」
両者の向かい合う姿は超人と怪物を彷彿させるようで…。下手したらこのフロア一帯を吹き飛ばすんじゃないだろうか…。
…いやいや!それはマズイだろ!
「おい!ティナ!ちょっとここから離れるぞ!」
ヒョイッ…!
「おっ…お前!勝手にティーの腋を…!」
「はいはい!後でいくらでも聞いてやるよ!」
ザッザッザッ…
俺はティナの背後から…脇に手を差し込む形で持ち上げると、そのままそこから退散する…。
…なんてしていと…
…ドォォォォ…ン…!!
…シュバッ…バババババ…!!
「…!?やべぇ…!なんか始まったぞ!」
「走るのね!」
「おうよ!」
ダダダダダダダダダダ…!!
レイヴォルトとバルコスの戦いは気になるが…今は俺達の命が最優先!逃げまくるしかないな!
俺は振り返ることなく…後ろから響く轟音を無視して走り去ることにした…。
ー
…
「…ハァッ!!」
シュバッ…!バァンッ…!!
「…ヒヒッ…!」
ピョン…ピョンッ…シュタッ…!
あまりにも異次元の戦い…。そこら一帯の雪も木も…すべてが吹き飛ばされ、地面がむき出しになる…。
それら全ては橙の髪を持つ青年…レイヴォルトの剣技によるもの…。
斬撃等を駆使しての荒業であるが、それでも驚異としか言いようがない。汗一つ流さずにそれらを可能にするのも彼の実力を見せつけている。
対する長髪の男…バルコスは体を身軽に動かし、全ての攻撃を避け続けている。跳躍の連続…圧倒的な動体視力を駆使してなお疲労は見えない…。紙一重の神業である…。
しかし…
「どうした…バルコス。さっきから攻撃してこないな…」
「…ヒヒッ…!」
バルコスは攻撃することなく避け続けている…。まるで…レイヴォルトの実力を測るかのように…ただただ動き回るだけ…。
それでも一切のダメージを負うことなく対応しているのはさすがではあるが…レイヴォルトとしては不気味としか思えない…。
バルコスの狙いは…いったい…
「…しかし…全力を出さないなんて…相当嘗めてるみたいですねぇ…」
そんな疑問もバルコスの声によってかき消される…。素早い動きに対応しながら、レイヴォルトはバルコスの言葉に応える。
「…嘗めてるつもりはないが…」
「ヒヒッ!こっちにはわかるんですねぇ…。あんたが本気じゃないこと…。こんなショボい攻撃で戦おうっていうんですかい?」
「…そのわりには避けてばかりだな…」
「ヒッ…!まぁ…あんたの実力を間近で見たいだけで…。んでも…これ以上は期待できないですねぇ…」
「…期待?」
レイヴォルトの攻撃の嵐に…なおも笑い声をあげながら、バルコスは挑発するかのように口を開く。
「剣聖にしか扱えない名剣…『リクリィアル』…。滅多に扱われないものの、その威力は神をも切り裂くとかなんとか…。…是非見せてほしいと思ったんですが……」
「…どこでその情報を知ったのかは知らないが…あれはそう簡単に使うべきものではない。少なくとも…数多くの看守や囚人がいるここではな…」
「ヒッ…ヒッ…!そいつは残念…」
落胆の声を呟くバルコス…。それでも華麗に攻撃を避けていく姿は流石と言える。
わざわざこんな戦い方をするのには何か狙いがあるはず…。そうレイヴォルトが思っていたそのとき…
ボォォォォ…ン…!!
「…!この爆発音…まさか…!」
「ヒヒッ…いやぁ…すいませんね。さっきの言葉…嘘です。しっかりとあんたたちのことは末端の奴らに伝えたもんで…。今頃あの二人は…」
「くそっ!」
その場でバルコスの思惑に気づいたレイヴォルト…。悪態をつきながら、攻撃を止めるとそのままユキとティナの向かった方角へ…。
しかし…
ザシュッ…!
「くっ…!」
走り出そうとした瞬間…足元に鋭い槍が突き立てられる…。バルコスが投げ飛ばしたと直感し、そのまま顔を向けることに…。
「ヒッ!さすがに困りますねぇ…。せっかく…こっちから誘ったのに…」
「…そうか…そこまで言うなら…」
キィ…ン…
そう言って剣を収めると…一言…
「禁断の力…『リクリィアル』…。その力の一端を目に焼き付けてもらおうか…」




