69 意外な決着
「おいおい!どうしたんだよ!」
「怖じ気づいたのかぁ?」
「ふくろう野郎!さっきの威勢はどうしたぁ!?」
あまりにも奇妙な光景…。同じ人間が10人…それも言う言葉もそれぞれ異なる。しかも…それが相手を苛立たせるものだから余計に癪に触る…。
ホホゥは沸騰しそうな頭を冷静に…そして現状を把握しようと努めていた。
(…ホホゥ…これは想定外だホホゥ…。ここまで追い詰めて…逃げられるわけにもいかないホホゥ…。ミーの攻撃を当てれば一瞬で決着はつくはず…。でも…ここで攻撃をはずしたときも一瞬だホホゥ…)
相手は人間の男と幼い少女…。だが、二人とも一筋縄ではいかないことは明らか…。人間は妙なスキルを持っており、少女は影の中に入れる力がある…。戦い方次第で状況はひっくり返るかもしれない…。
油断大敵…。今のホホゥにはそういった考えが渦巻いており、さらに思考を回転させる。
(…闇雲に攻撃しても隙を突かれるホホゥ…。できれば本体を確認したいホホゥ…)
確率では10分の1…。一か八かで攻撃するには分が悪い…。相手も何を考えているかわからない…。無理して相手の土俵に立つ必要はない…のだが…
「…おいおい!なーに考えてんのよ!」
「はっはっ…小心者のふくろうだな!」
なおも挑発の続く分身たち…。冷静さを保とうとしたホホゥも…
「…んんんん~!!ムカつくんだホホゥ!!」
顔を真っ赤にさせながら激怒してしまった…。あまりにも露骨な煽りに…本来ならここで攻撃を仕掛けてもおかしくなかった…が…
「…!」
ホホゥはこの時…あることに気がつく…。その視線は一体の影に向けられており…そこには…
(…ホホゥ…これは…!)
1本の…桃色の糸のようなものがはみ出ていた…。ホホゥの優れた視力でやっと確認できるほどの違和感…。そこから得られた答えは…
(なるほど…これはあの幼女の髪の毛なんだホホゥ!)
少女…ティナの持つ不思議な力…。他人の影に潜むことのできる能力に気が付いたことで、ある仮説にたどり着いた…。
(確か…あの幼女は人間の影の中に入っていたホホゥ…。いくらなんでも幼女までは分身できないはず…。つまり…あの影の持ち主こそ本体!)
ホホゥはそう確信すると、口をニヤリ…と歪ませる…。
相手は油断している…。そこをつけば確実に仕留められる!…そうした考えがホホゥの頭にあった…。
そして…
ビュンッ…!
猛烈な勢いで…目にも止まらぬ速さで加速…。狙いはもちろん本体と思わしき人間!
「ほぁっ!?」
人間…ユキは驚いたのか、その場で腰を抜かしてしまった…。スキルの影響でどれが本体かわからないはず…。なのにホホゥが真っ先に突っ込んでくるのだから当然…。
攻撃が当たる前に…ホホゥは勝ち誇ったかのように口を開く…。
「ホホゥ!恨むならへまをした幼女に言うんだホホゥ!…ミーの勝ちだホホゥ!」
そして…
ズバァッ!
手痛い一撃が直撃し、人間の体は真っ二つ…のはずが…
…ブァァァァ…サァァァァッ…!
「…!?どっ…どういうことだホホゥ!こいつは…偽物!?」
勝利を確信していたホホゥにとっては予想外の出来事…。霧のように霧散し、人間の姿は影も形も残らない…。それはホホゥが攻撃したのは分身体であることの証明なのだが…。
「馬鹿な…!あの幼女は…どこに…!?」
ホホゥは辺りを見回し、ティナの行方を確認しようとした…その時…
ガシッ…!
「『拘束スキル』!」
ピシィィィィィ…!!
「…ホホゥ!?…かっ…体が…動かないホホゥ…!?」
とっさの出来事…。ホホゥはその場で倒れしまうことに…。体の自由がきかない中…それでも目を動かすと…
「おっつ…あぶねっ…!なんとか間に合った…!」
「ホホゥ!?いつの間に!?」
ばったり倒れたホホゥの右足に掴まる人間の手が…。スキルの影響で人間も倒れているが、その表情は勝ち誇ったかのように笑っている。
よくよく回りを見れば、さっきまで挑発していた分身体も綺麗さっぱり消失…。そこには倒れ付している一匹と一人しかいない…。
何が起きたのか…ホホゥは一瞬困惑している…。
「どういうことだホホゥ…??あの幼女は…どこにいるんだホホゥ?」
そんな疑問の声に答えるかのように…
ニュッ…!
「ここなのね!!」
そばの木の影から現れたティナ…。予想外の出来事に…ホホゥは倒れたまま驚く…。
「ホッ…!?お前…!」
「影人一族は影から影に移動できるのね!ティーがいたのは分身体…つまり偽物の影!そこからわざと髪の毛を覗かせてたのね!」
「…!まさか…ホホゥを嵌めたんだホホゥ!?」
「そういうことなのね!」
「…ホッ…ウウゥゥゥゥ…!!」
ティナに騙され…己の浅はかさにショックを受ける…。ホホゥのそんな心情が感じられるようで…。そんなホホゥとは対照的に…。
「…つーか…俺なにも言ってねぇのに流石だな…。時間稼ぎのつもりだったんだが…」
ホホゥを捕まえた状態で倒れている人間…ユキは素直にティナを称賛…。作戦を伝えることもなく…ここまでうまくいくことに驚いたようだ…。
「ふん!お前は何にも考えてないだろうから…ティーが自分から動いたのね!感謝するのね!」
「おぅ!マジで助かったわー…それよりも…」
ユキはそのまま目をホホゥに向けると…
「こいつどーする?焼き鳥にする?」
「ホホゥっ!?」
ホホゥの処遇を考えることに…。このエリアの番人…であるなら逃がすと面倒になる…。最悪…大勢の看守に報告されると厄介…。
そこはティナも考えていたようで…
「ティーとしても…今までさんざんな目に遭ったから叩き潰したいけど…そうもいかないのね!」
「ん?なにか考えがあんの?」
「このエリア一帯の番人であるなら…当然どんなルートで行けば脱出できるか…わかるはずなのね!それを教えてもらうのね!」
「…それはいいんだが…こんな状態でどーやって?」
今でこそ『拘束スキル』で体を押さえつけているものの…ホホゥを自由にしてしまえばまず逃げられる…。道を教えてもらうにしても、すんなり教えてくれるかどうか…。
そう…ユキが考えていると…
ザッ…!
「…すまない…遅れてしまった…」
「「…!レイヴォルト!」」
一人の男…レイヴォルトの登場に二人は声を揃えて驚く…。ホホゥを行動不能にした今では出番はないものの、それでも再び合流できたことに安堵するユキだった…。
「遅いじゃねぇか…もう決着はついたぞ!」
「…申し訳ない…。私としたことが移動に手間取っていた…。大勢のモンスターを…いや…言い訳はやめておこう。とにかくすまない…」
「んまぁ…そっちも大変なのはわかるけどな…」
レイヴォルトの胸中を察してそれ以上責めることをしないユキ…。おそらく…大量のモンスターとの戦闘を繰り広げていたのだろう…。そう考えると仕方のないことかもしれない…。
それよりも…
「なぁ…こいつどーする?このエリアの番人っ…つー話だから利用したいんだが…」
「ゲアオゥル…。なるほど…これまた強敵を仕留めたな…」
心のそこから二人を称賛するレイヴォルトは一瞬思案すると、閃いたのか…こう口にした。
「よし…私に任せてくれないか?いい方法がある」




